特殊装甲隊 ダグフェロン 第一部 蘇る火付盗賊改方 (ひつけとうぞくあらためかた) とは……殺人許可書を持つ「特殊な部隊」

橋本 直

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ヤンキーの支配する王国

伝説のヤンキーの人材活用技術

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 誠は引き戸を開けた。

 そこは島田を神とあがめる新宗教の祭祀場……では無かった。

 まったくもって普通に、野郎共が奥の食堂からトレーを受け取って朝食を食べていた。ごく普通の食堂。だから、朝食を済ませれば、普通は部屋に帰る。誠の前を通り過ぎた連中は、急ぎの用が何かあるため、朝食後そのまま派も磨かずに飛び出した口のくさい連中だった。と言う事がここで分かった。

 まず、出ていこうとした野郎の一人が誠の存在に気づいた。明らかに何か異物が入り込んだような奇妙な生き物に遭遇したような表情が、そのメガネ以外に特に特徴のない色白の男に浮かんでいることに誠は気づいた。その、異物を見るような表情に気づいた、食事をしていた周りの男達はすぐに誠に目を向ける。そして大体の連中は同じように、図鑑で変な生き物を発見したときに浮かべるだろう表情を浮かべていた。

 要するに誠のようにこの部屋に誰かの紹介無しに入ることはこれまでなかった。これは誠の『理系脳』の妄想かもしれないが、朝食を食べる時間に朝食を食べようと誠は食事を載せたトレーが配られている奥のカウンターに向かった。

「神前!」

 突然、聞き慣れた男の声が聞こえる。そして、好奇心と大体あのヤンキーがどんな格好をしているか予想しながら誠はその声のする方を向いた。

 そこには島田が座っていた。しかも、机に足を投げ出しているわけでも、隣の兵隊が島田の口にくわえたタバコに火をつけるためにライターを手にもって待機しているわけでもなかった。

 ごく普通に食事をしていた。しかも、周りで何かの話題で盛り上がっている最中だったらしく。その周りには島田の話を聞きに集まる。ちょっと愚連隊風の見た目の男達が集まっていた。

「神前!返事ぐらいしろよ!まーいいや。飯のトレー取ったら俺の正面に座れ。一応、これから寮から屯所までの「足」について相談すっから」

 島田は意味の通じる日本語もしゃべれるらしい。そんな失礼なことを思いながら朝食を受け取る列に並ぶ。

 すぐに誠の食事の受け取りの順番が来た。その手際はまるで、3か所バイトしていた社員食堂の手際よりもてきぱきとしたこなれたものだった。誠が厨房を覗くと、そこにはどう見ても昨日の飲み会で、誠をへべれけにして記憶を飛ばした現場にいた3人の主犯格の女性と、一緒になって誠に酒を飲ませていた共犯として混濁した誠の記憶の中に浮かぶ顔と一致する人物が半数を占めていた。

 彼等の中で厨房を仕切っているリーダー格は奥の洗い場で誠が朝食を受け取っているのに気付くと、洗い物を途中でやめて、誠に近づいてきた。

「すまんな。ああいう乗りになっちゃうとさ。うちで歯止め駆けられる人は、運航部の常識人しかいねえんだ、いまんところ。うち、班長がああだろ?乗りで突っ走るのは良いけど、ブレーキぶっ壊れたレーシングカーなんだよ」

 気の良さそうな、ピクニックフェイスのデブがそう言った。要するにこの人もたきつけるだけたきつけて、火の勢いがどうにも手に負えなくなると、持ってきたガソリンの入ったポリタンクを投げ込んで逃げるタイプだと誠は思った。

 誠はそのデブからトレーを受け取ると、島田とその取り巻きに視線を移した。

「ちょっと来い!とりあえず今日の決定。誰がオメエを屯所まで運ぶか決まったから」

 島田にしては普通の声だが、かなり大きい声で島田はしゃべっている。

 誠は島田の取り巻きと、島田に声を掛けられていることに気づいた周りの隊員達の視線を浴びながら島田の座っている中央のテーブルに向かった。

「おう、李。どけ。オメエは今日俺が頼んだ仕事は今から出て始めれば定時には上がれるはずだ。まだ、システム管理の福島中尉殿から午後はシステムのメンテがあって、一部メンテがオメエの改良型プランの増加装甲装着後の運動性がどう変化するかシミュレーションしている東和陸軍のメインフレームとの接続に悪い影響が出る可能性があるそうだ。午後は東和陸軍のメインフレームは使えねえと思っとけ。残業が大好きか、他に立派なメインフレームへのアクセス権限があれば別だが」

 とても割り算のできない、小学校三年生にガチで学力テストの点数を比べれば過半数に負けると思われる男の放った言葉にしては理路整然としていて、誠はトレーを置いて椅子に座る間、ただただその言葉に唖然としていた。

「何?俺班長なの、そして技術部部長代理なの。こんぐらい言えて当然。兵隊だけじゃないぜ、俺より階級の上の連中。中尉2名に5人の少尉。こいつ等を階級が下の俺が言う事きかせる為の最低の知識とかあんの!分かった?」

 要するに島田は必要がある時だけ記憶力や思考能力が人間の常識を超えた超人となるが、どうでもいいときは小学校三年生以下の知識と学力で生活している変な頭脳の持ち主だと分かった。

「僕は誰の車に乗せてもらうことになったんですか」

 そう言って誠は味噌汁を飲んだ。

「当然、俺のバイクの後ろ。見たところオメエ二日酔いの症状出てないじゃん。俺の操縦するバイクが、うちでは一番早いってことになっている。いいぜ、ちょっと運転が荒いのは事実だから。ただ、オメエはあのちっちゃい姐御の直下の兵隊で色々とヤバい仕事で俺のバイクしか間に合わない……なんてことがあり得るんだ。その時の為に一回お試しに……ってわけ」

 島田はそう言って立ち上がる。

「そのまま飯食ったら。歯を磨いて財布持って玄関で待ってろ。俺も準備しとく」

 立ち上がったそれなりに管理職として部下を見ていることは分かる整備班長はニヤッと笑ってそう言った。

 誠は周りの雑談の意味から、食事をできるだけ早く済ませて島田より早く玄関で待っていた方が良いことだけは理解した。

 誠はまるで餌を食っているブタのように食事を味わう事もなく飲み込み続けた。
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