特殊装甲隊 ダグフェロン 第一部 蘇る火付盗賊改方 (ひつけとうぞくあらためかた) とは……殺人許可書を持つ「特殊な部隊」

橋本 直

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新しい職場、そこは『娯楽の殿堂』

あるスポーツに憑りつかれた女サイボーグ

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 レナエルは、長剣の男を相手になす術がなかった昨晩のことを、まざまざと思い出した。
 しかし、ここで屈することはできない。
 あのとき、自分を襲った二人の男を軽々と倒した、騎士の名を持つ男が相手だとしても。

「それは昨晩、嫌という程思い知らされたわよ。だけど……これなら、どう?」

 相手に向けていた切っ先を、ゆっくりと自分の喉に向けると、さすがに、ジュールの表情が変わった。

「あんただって、あたしが死んだら困るでしょ? あたしが死んだら、あの能力は使えないもんね。せっかく捕まえたジジの利用価値だってなくなる。あんたの思い通りになるくらいなら、死んでやるっ!」

 レナエルが決死の啖呵を切ると、緊迫した沈黙が落ちた。

 睨み合う二人。

 しかし、しばらくすると、ジュールは視線をそらして俯き、こらえきれないように、くくっと喉を鳴らした。

 笑って……る?

「なに笑ってるのよ!」
「そうだな。確かにあんたに死なれたら、俺の首はないかもしれんな」

 そう言って視線をレナエルに戻すと、にやりと片方の口角を上げた。

 レナエルはごくりと唾を飲み込むと、緊張のあまり汗で滑りそうになった短剣の柄を、しっかりと握り直した。

「やっぱり、そうなのね! 何を企んでるの。白状しなさい!」
「ふん。そう簡単に、白状する訳にはいかないな」

 ジュールがふてぶてしい態度で、また一歩踏み出した。
 昨晩の悪人どもとは、格が違いすぎる。
 比べ物にならないくらいの凶悪さを、全身にまとっている。

「近づかないで!」

 握りしめた短剣を、さらに喉に近づけて叫んでも、彼は止まろうとはしない。
 いたぶるように、じりじりと近づいてくる。

 レナエルはそこから動くことができず、短剣を自分に向けたまま、大木に貼り付いていた。

 長剣を抜けば届く距離にまで詰めたとき、ジュールははっとしたように、右手の茂みに視線を滑らせた。
 とたん、全身からぶわりと放たれる強烈な殺気。

「なに?」

 レナエルもとっさに同じ方向を見た。
 新たな敵の出現を予感し、身構える。

 次の瞬間。

 レナエルの短剣を握った両手は、強い力に捕らえられた。
 両手首をまとめて拘束する、男の大きな左手。
 ぎりぎりと締め付ける握力と、抵抗を寄せ付けない腕力で、レナエルの両手は、頭上にまで持ち上げられた。

「くっ……」

 あっという間に力が入らなくなった手から、あっさりと短剣を奪い取られた。
 ジュールは短剣を草の上に投げ捨てると、ぐっと顔を近づけてきた。

「甘いな」

 歪んだ口元からせせら笑うように発せられた一言に、先ほどの殺気が自分を陥れるためのものだったことに、ようやく気づいた。

「なっ……! 騙したわね」

 怒りにわなわなと身体が震えてくるが、相手は怒りを逆なでする涼しい顔だ。

「騙したつもりはない。俺はちょっとよそ見をしただけだ」
「放してっ!」

 レナエルは、両手を頭の上で捕らえられたまま必死に身をよじり、相手に蹴りを食らわせた。
 しかし、渾身の一撃は、あっさりとかわされ、レナエルは体制を崩して、彼の手にぶら下げられたような状態になる。
 不自然に腕がねじれ、激痛が走る。

「い……っ、たたたた……」
「自業自得だ。さて、この生意気な小娘をどうしてくれようか」

 ジュールは嗜虐的な笑みを見せると、レナエルの両手をぐいと引っ張って、自分と立ち位置を入れ替えた。
 大木に背にした彼が、左手でレナエルを捕らえたまま、右手で腰の長剣をすらりと抜いた。
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