特殊装甲隊 ダグフェロン 第一部 蘇る火付盗賊改方 (ひつけとうぞくあらためかた) とは……殺人許可書を持つ「特殊な部隊」

橋本 直

文字の大きさ
上 下
26 / 60
永遠のヤンキー兄ちゃんとの出会い

気の弱い好青年がヤンキーに気に入られるとこうなる

しおりを挟む
 誠は高さ二十メートルを超える大きな扉の隙間から外を眺めた。

 そこにはこれまでの話を総合した結果、あるべき駐車場がそこにあった。

 車の数はまばらで、その中央に明らかに場違いなランの黒い最新型の高級自動車があった。多くはスポーツカー、そして規格上税金が安くなる『軽自動車』の可愛らしい車が並んでいる。

 誠は車の見本市と化している駐車場に足を踏み入れた。

「スポーツカーは技術部の人達のかな?技術系の人は男が多いからこう言うスポーツカーに金を惜しまない人多そうだな。運航部の女子は基本的に軽かな。ポップな色は女の子っぽいもんな。どう見ても型落ちの軽。これも技術部の男衆だな。金が無くて廃車置き場にある鉄くずを再生した……そう言う先輩いたな……」

 そんな独り言を口にしながら、誠は学生時代を思い出していた。

「上半身裸の馬鹿そうな兄ちゃん……」

 車が無くなって、ラインが適当に引いてあるだけの地面の向こうに、誠は人影を探した。

 すぐにそれは見つかった。駐車場の隅に見える掘っ立て小屋の前にその奇妙な生き物は背中を向けて座っていた。

「あそこか……それにしても……敷地内に森?」

 何故かその危険生物の向こうには森があった。東和陸軍の敷地の中には、こうした森があることがあるので、誠はどうせ神社でもあるのだろうと割り切って、深く考えないことにした。

 近づくとその日焼けした背中を見せる、力ですべてをねじ伏せてきた男の向こうにバイクが停まっていることと、その隣の青い箱がクーラーボックスらしいことがわかった。誠は汗をぬぐいながらそのチンピラの方に向かった。

 空は先程の曇り空から、カンカン照りの快晴にかわっていた。日差しが容赦なく誠に照り付ける。東和共和国宇宙軍の夏服がいかに東和の夏に向かないものか、誠は身をもって体験していた。

 急に後ろに気配を感じて誠が振り返るとそこには軽自動車が一直線に誠に向かっているのが見えた。型落ちのボロボロの軽自動車。明らかに技術部の所属であることは誠には一目で分かった。

 おんぼろ車はそのまま誠を避けて一直線に、いわゆる『班長』のところに向かった。

「遅れました!」

 もうすでに大声なら聞こえるところまで、誠は『技術部部長代理』の兄ちゃんとの距離を詰めていた。声の主の運転席から降りてきたのは小柄なつなぎを着た整備員だった。その色から先程のつっけんどんな態度に終始した大柄の技術部員と同じ所属であることは誠にもわかる。

 急いで後部のハッチを開ける技術部の水色のつなぎを着た若者。彼が取り出したのは、クーラーボックスだった。彼は整備班長と思われる半裸の男の脇に置かれたクーラーボックスと持ってきたクーラーボックスを取り換える。その作業の間に誠と目が合った。

 若者は持っていたクーラーボックスをアスファルトの地面に置くと誠に向けて敬礼した。

「そいつは新米。お前は先輩だ。気をつかうことはねえんだ。甲武ではそうかもしんねえが、俺の兵隊は俺流で育てる……敬礼なんぞ止めて、そこにある空き缶の箱。とっとと積んで帰れや。オメエの仕事はそこまでだ。とっととやれ」

 その言葉を受けても、二十歳に届くかどうかの若い整備員は誠と整備班長の間で困っていた。

「さっさとかたずけろ!」

 整備班長の怒鳴り声でその若い整備員は弾かれるように段ボール箱に飛びつき、それを軽自動車の後ろに押し込んでそのまま車を走らせて消えていった。

「あのー」

 誠は先程の指示があまりに乱暴なので注意しようとした。

 誠が半裸の男の真後ろに立った時、その男はクーラーボックスを開けた。

「ビール飲むだろ。冷えてるの持ってこさせた」

 それだけ言うと男はクーラーボックスを開けた。先程の空き缶の数からして、相当飲んでいるはずだった。

 男の前にはバイクがあった。実に見事なバイク。エンジン回りはは磨き上げられて光を放っていた。

「バイク……好きなんですね」

 半裸の男の隣に立って、誠はそう言った。

 誠に男はビールを手渡した。

「勤務中ですよ」

 拒む誠を見て男はニヤリと笑う。笑顔の似合う二枚目。醤油顔の典型的な顔。見える上半身は鍛え上げられていて、筋肉質だった。

『この人童貞なんだ』

  間違いなく口にしたら殺されるような言葉が、誠の頭にひらめいた。ある種、同病相憐れむの感情から、差し出すビールを手に取る誠。

「島田……島田正人」

 ビールのプルタブを開けながら男はそう名乗った。

「僕は……」

 誠が話し出そうとすると、島田は一気にビールを口から流し込んだ。

「知ってるよ。部長権限があるからな。そんぐらいわかる。下手なんだって操縦」

 そう言いながら、島田は隣に立っている誠を見上げてニヤリと笑う。

「めんどくさいねえ、障害物にどっかーんなんてされた日にゃ、うちの兵隊いくらあっても足りねえや。動けなくなって回収もうちがやるんだ。シミュレーターと、あの偉大なるちびっ子の指導で多少ましになってくれ」

 それだけ言うと島田はビールの残りを飲み干す。

 誠もやけになってビールを飲んだ。のどが渇いていたのでそれなりにおいしい。そしてビールをくれた島田を見ると、満面の笑みを浮かべていた。

「これまでの連中とは違うな。バイクを褒められて悪い気はしねえよ。気に入ったよ俺は」

 そう言って笑う島田の手にあるアルミの缶が握りつぶされる。誠はまた変なのに気に入られた事実を悟って、現実から逃避するために残りのビールを飲み干した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

謎の隕石

廣瀬純一
SF
隕石が発した光で男女の体が入れ替わる話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

年下の地球人に脅されています

KUMANOMORI(くまのもり)
SF
 鵲盧杞(かささぎ ろき)は中学生の息子を育てるシングルマザーの宇宙人だ。  盧杞は、息子の玄有(けんゆう)を普通の地球人として育てなければいけないと思っている。  ある日、盧杞は後輩の社員・谷牧奨馬から、見覚えのないセクハラを訴えられる。  セクハラの件を不問にするかわりに、「自分と付き合って欲しい」という谷牧だったが、盧杞は元夫以外の地球人に興味がない。  さらに、盧杞は旅立ちの時期が近づいていて・・・    シュール系宇宙人ノベル。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...