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悲しい宿命を背負った女芸人集団
女芸人の与えてくれた道
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自分は監視されていた。
『では、なんの為に』
誠は口には出さないが、頭の中ではそればかり考えていた。アメリアはその様子を察しているようで、笑顔で誠を見守っている。
『アレのことか……』
覚えが一つある。しかし、それについては母から考えないように言われていた記憶がある。そして、それが何だったのかも、実は誠は覚えていない。それは夢かもしれない。『剣よ!』と叫ぶと、目の前に剣のような光が浮かんだなんてことはあり得ない。ましてや、実家の道場の庭で、母一人の前でやったこと。その時から監視が始まっていたなら……。
「もういいでしょ?考え事は終わり。そういう訳で、私達はみんな誠ちゃんに良い決断をしてもらいたいの。それだけ」
アメリアはそう言うとニコニコと笑う。
「いい決断ですか。ここに残ることが良い決断なんですか?」
妄想を止めた誠は、アメリアの笑顔をうつむいて上目遣いで眺めた。
「それだけじゃないわよ。例えば、誠ちゃん、危険物取扱免許の1種持ってるわよね」
相変わらず何を考えているか分からないアメリアがニコニコしながら尋ねてくる。
「持ってますよ。それがどうかしたんですか?」
誠は渋々そう答えた。
「あれ、結構危険物関係ではオールマイティー、ワイルドカード的資格なんだな。例えば隣の菱川重工豊川」
隣が大工場、菱川重工の西東都の最大の工場であることは、ここに来る途中で十分わかった。
「あそこで、大量の塗料や化学薬品を使う時に1種じゃなくて、2種か3種がいるの。資格持ってる人がいないと事故が起きたとき違法行為となるわけ。1種だと両方の資格を持ってることになるから、二人分を一人でできるわけ。知らなかった?」
相変わらずニコニコ笑いながらアメリアは言った。
「だって僕、メーカー受けましたけど……落としたのはあなた達じゃないですか!」
誠は立ち上がって机を叩く。怒りに満ちた表情でアメリアをにらみつける。
「だって、大卒は総合職じゃない。まず数年は営業ね。資格はあっても全く違う場所、例えば経理とかに行ったら簿記とかの資格を一から勉強して取らせる。それが総合職。それよりも何も、どこに行っても英語ができないと課長以上にはなれないわよ、今時。誠ちゃん語学は?私は得意だけど」
アメリアは痛いところを突く。
「だめです……足を引っ張ったのが英語ですから」
完全に降参した。そう言うことで誠は椅子に座りなおした。
「だから、こういう道もあるんだよ。そう言う考える時間が必要なんじゃないかなーと思う訳よ、お姉さんは。大学院出たと思えばいいの。大学院だって研究やるなら別だけど、大体は一つに没頭して人間形成をした人格の立派な人ってことで企業や役所や軍は採用しているわけ。別に全員に研究者になってほしいわけじゃないの」
アメリアの言葉に誠は何一つ反論できなかった。
「何か質問は。全部、その質問の穴を見つけて論理を破綻させてあげる」
ニコニコ笑いながらアメリアはそう言った。
「わかりました。残る方向で検討してみます」
誠に言えるのはそれだけだった。
「よろしい」
アメリアは満足げに笑うと、画面に目を向けた。
「そうだ、うちで誠ちゃんに一番、会いたがっていたのはアイツだわ……」
そう言ってアメリアは誠に顔を向けた。
「あいつ?」
誠はアメリアが何を言いたいのか理解できずに首をひねる。
「うん、アイツ。童貞。サラの彼氏。別名『永遠の不良少年』(硬派)」
アメリアが珍しく目を見開いてそう言った。
「『永遠の不良少年』なんです、その恥ずかしい二つ名」
誠はその二つ名を聞いた段階でその人物と会いたくなくなった。
「この建物の後ろにでっかい倉庫と、工場みたいなのがあるのよ。そこには技術部がいるの、本来なら技術部長がいるんだけど、別の仕事で留守なの。結果、その不良少年が腕力で周りをねじ伏せて、技術部長代理に収まったわけ。本来は技術部整備班長で、階級が曹長。とても技術部部長代理なんて務まるがらじゃ無いんだけど、人間性かな?それで他の将校達も納得して奴を支えってる。それが今のうちの状況」
腕力で部下を従えるのと人間性で将校を黙らせる。とても誠の会ったことのある人間と違うもの。誠は少しその人に会ってみたくなった。
「面白いのがいるでしょ。うちはここだけじゃないの。面白いのは。ちなみにそいつ、割り算できないし、分数もよく理解できないわよ」
突然、その人物像が誠の中で崩壊した。
「すいません……割り算できないのに、どうやって軍に入れたんですか?普通に試験で落ちますよ、それだと」
完全に白けた状態で誠はにこやかなアメリアに尋ねる。
「でもね、そいつは自分に必要だとなると、すっごい難しい計算もできちゃうの、不思議と。大学だってそこそこの大学出てるのよ」
またもアメリアの言葉で誠の作り上げてきた人物像が破壊される。
「大学……受験通ったんですか?割り算できなくて」
誠はあきれ果ててそう言った。
「私立の工学部では結構有名なところ。まあ、誠ちゃんは理科大でてるからね。まあいいわ。会ってみてよ、その28歳になっても不良街道驀進中の整備班長に。人生観変わるわよ」
アメリアの言葉に。とりあえず割り算が出来ないのに技術部のトップを務めている人物に会うべく、誠は立ち上がった。
「じゃあ、失礼します!」
誠はそのまま、出口に向かって速足で進んだ。それを見て、なぜかタンバリンや鈴を持った戦闘用バイオノイドの成れの果てがリズムを刻む。
「ここはね、そうした出会いがいっぱいあるところ。私もそうやって成長している……」
アメリアはそう独り言を言いながら、画面に映った18禁アニパロ・アドベンチャーゲームの選択肢にマウスのカーソルを動かした。
『では、なんの為に』
誠は口には出さないが、頭の中ではそればかり考えていた。アメリアはその様子を察しているようで、笑顔で誠を見守っている。
『アレのことか……』
覚えが一つある。しかし、それについては母から考えないように言われていた記憶がある。そして、それが何だったのかも、実は誠は覚えていない。それは夢かもしれない。『剣よ!』と叫ぶと、目の前に剣のような光が浮かんだなんてことはあり得ない。ましてや、実家の道場の庭で、母一人の前でやったこと。その時から監視が始まっていたなら……。
「もういいでしょ?考え事は終わり。そういう訳で、私達はみんな誠ちゃんに良い決断をしてもらいたいの。それだけ」
アメリアはそう言うとニコニコと笑う。
「いい決断ですか。ここに残ることが良い決断なんですか?」
妄想を止めた誠は、アメリアの笑顔をうつむいて上目遣いで眺めた。
「それだけじゃないわよ。例えば、誠ちゃん、危険物取扱免許の1種持ってるわよね」
相変わらず何を考えているか分からないアメリアがニコニコしながら尋ねてくる。
「持ってますよ。それがどうかしたんですか?」
誠は渋々そう答えた。
「あれ、結構危険物関係ではオールマイティー、ワイルドカード的資格なんだな。例えば隣の菱川重工豊川」
隣が大工場、菱川重工の西東都の最大の工場であることは、ここに来る途中で十分わかった。
「あそこで、大量の塗料や化学薬品を使う時に1種じゃなくて、2種か3種がいるの。資格持ってる人がいないと事故が起きたとき違法行為となるわけ。1種だと両方の資格を持ってることになるから、二人分を一人でできるわけ。知らなかった?」
相変わらずニコニコ笑いながらアメリアは言った。
「だって僕、メーカー受けましたけど……落としたのはあなた達じゃないですか!」
誠は立ち上がって机を叩く。怒りに満ちた表情でアメリアをにらみつける。
「だって、大卒は総合職じゃない。まず数年は営業ね。資格はあっても全く違う場所、例えば経理とかに行ったら簿記とかの資格を一から勉強して取らせる。それが総合職。それよりも何も、どこに行っても英語ができないと課長以上にはなれないわよ、今時。誠ちゃん語学は?私は得意だけど」
アメリアは痛いところを突く。
「だめです……足を引っ張ったのが英語ですから」
完全に降参した。そう言うことで誠は椅子に座りなおした。
「だから、こういう道もあるんだよ。そう言う考える時間が必要なんじゃないかなーと思う訳よ、お姉さんは。大学院出たと思えばいいの。大学院だって研究やるなら別だけど、大体は一つに没頭して人間形成をした人格の立派な人ってことで企業や役所や軍は採用しているわけ。別に全員に研究者になってほしいわけじゃないの」
アメリアの言葉に誠は何一つ反論できなかった。
「何か質問は。全部、その質問の穴を見つけて論理を破綻させてあげる」
ニコニコ笑いながらアメリアはそう言った。
「わかりました。残る方向で検討してみます」
誠に言えるのはそれだけだった。
「よろしい」
アメリアは満足げに笑うと、画面に目を向けた。
「そうだ、うちで誠ちゃんに一番、会いたがっていたのはアイツだわ……」
そう言ってアメリアは誠に顔を向けた。
「あいつ?」
誠はアメリアが何を言いたいのか理解できずに首をひねる。
「うん、アイツ。童貞。サラの彼氏。別名『永遠の不良少年』(硬派)」
アメリアが珍しく目を見開いてそう言った。
「『永遠の不良少年』なんです、その恥ずかしい二つ名」
誠はその二つ名を聞いた段階でその人物と会いたくなくなった。
「この建物の後ろにでっかい倉庫と、工場みたいなのがあるのよ。そこには技術部がいるの、本来なら技術部長がいるんだけど、別の仕事で留守なの。結果、その不良少年が腕力で周りをねじ伏せて、技術部長代理に収まったわけ。本来は技術部整備班長で、階級が曹長。とても技術部部長代理なんて務まるがらじゃ無いんだけど、人間性かな?それで他の将校達も納得して奴を支えってる。それが今のうちの状況」
腕力で部下を従えるのと人間性で将校を黙らせる。とても誠の会ったことのある人間と違うもの。誠は少しその人に会ってみたくなった。
「面白いのがいるでしょ。うちはここだけじゃないの。面白いのは。ちなみにそいつ、割り算できないし、分数もよく理解できないわよ」
突然、その人物像が誠の中で崩壊した。
「すいません……割り算できないのに、どうやって軍に入れたんですか?普通に試験で落ちますよ、それだと」
完全に白けた状態で誠はにこやかなアメリアに尋ねる。
「でもね、そいつは自分に必要だとなると、すっごい難しい計算もできちゃうの、不思議と。大学だってそこそこの大学出てるのよ」
またもアメリアの言葉で誠の作り上げてきた人物像が破壊される。
「大学……受験通ったんですか?割り算できなくて」
誠はあきれ果ててそう言った。
「私立の工学部では結構有名なところ。まあ、誠ちゃんは理科大でてるからね。まあいいわ。会ってみてよ、その28歳になっても不良街道驀進中の整備班長に。人生観変わるわよ」
アメリアの言葉に。とりあえず割り算が出来ないのに技術部のトップを務めている人物に会うべく、誠は立ち上がった。
「じゃあ、失礼します!」
誠はそのまま、出口に向かって速足で進んだ。それを見て、なぜかタンバリンや鈴を持った戦闘用バイオノイドの成れの果てがリズムを刻む。
「ここはね、そうした出会いがいっぱいあるところ。私もそうやって成長している……」
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