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悲しい宿命を背負った女芸人集団
ギャグ集団の女団長と誠の触れられたくない過去
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誠は女芸人の楽屋と化した室内を見回した。
奥には一人、大きな机に張り付いて、じっと誠を見つめている紺色の髪の女性士官が座っていた。
目が合うと彼女、アメリアが手招きをした。そして彼女は隣に置かれた椅子を指さす。要するにここに座って話をしろと言う事らしい。
仕方なく誠はそこに向かった。このアホの頭目である。どうせろくでもない話をしろと言うに違いない。駄目人間の極みや、ちんちくりんな自称『人類最強』、そしてガンマニアの女サイボーグに、何を考えているか分からない小隊長。それらを目にしているので、誠にはもう怖いものは無かった。
大きな管理職らしい机の前まで来て、誠はローラが言うアメリアと見つめあった。
紺色のロングヘアー。そして見えているのかよくわからない細目。パッと見た感じ、笑っているように見える表情と、どうもコント集団の女リーダーらしい雰囲気がそこにはあった。
「じゃあ、そこに座って。ああ、自己紹介がまだだったわね。私はアメリア・クラウゼ少佐。運行艦『ふさ』の艦長。流暢に日本語をしゃべるでしょ。本来の母国語はドイツ語なんだけどね。色々あって日本語の方がしっくりくるからそっちで話すの。それと禿は嫌い。言っておくことはそれだけ」
そう言うとアメリアは背もたれに体を預けて伸びをしながら誠を眺める。
「前の大戦末期に戦争に行ったんですか?」
そのあまりに周りの女芸人達になじんでいるアメリアに誠は疑問をぶつけてみた。
「ローラが言ったんでしょ。あの娘のツッコミは弱いのよね。それで誠ちゃんが来ることになったの。言ってることは事実だから別に私はいいけどね。他の同じ境遇の娘達には嫌がってるのもいるから。そのことは触れないでね。これまで会ったうちの誰か言ったでしょ、『詮索屋は嫌われる」って。嫌われたくないなら触れないでね」
そう言うとアメリアは体を起こした。
「まず、誠ちゃんが触れられたら嫌なことで私が知ってることを教えてあげるわね。あなた、高校3年の時、エースで4番だったわよね。城東高校は野球部だけでは試合が成立しないから、助っ人で呼ばれた。そして出ると負けのチームが、誠ちゃん一人のおかげで3回戦まで勝ち進んだ……」
突然降られた話題に誠は呆然とした。
「なんで……それを……」
誠はそう言うのがやっとだった。
「簡単よ。新聞の東都の地方記事を神前誠で検索している人間ならすぐたどり着くもの。そして、その最後の試合で……誠ちゃんはある事件を起こし、野球部を辞めた」
そこまで言ってアメリアは誠に目をやった。誠は自分の顔が紅潮しているのを自覚していた。
「殴りました。キャッチャーを殴って、セカンドを殴って。そのまま試合は没収試合になりました」
誠は思い出した。誠の変化球の取れないキャッチャー。正面のゴロをトンネルする内野。フライを打たせると当たり前のように打球を見失うライト。
「そう言う事。今、指摘されたくないでしょ?おんなじ」
そう言ってアメリアは笑う。それまで閉じていると思っていた細い目の間に悲しげな瞳が見えた。過去に触れるという事が時に相手を傷つけるものだと誠は思い知った。
奥には一人、大きな机に張り付いて、じっと誠を見つめている紺色の髪の女性士官が座っていた。
目が合うと彼女、アメリアが手招きをした。そして彼女は隣に置かれた椅子を指さす。要するにここに座って話をしろと言う事らしい。
仕方なく誠はそこに向かった。このアホの頭目である。どうせろくでもない話をしろと言うに違いない。駄目人間の極みや、ちんちくりんな自称『人類最強』、そしてガンマニアの女サイボーグに、何を考えているか分からない小隊長。それらを目にしているので、誠にはもう怖いものは無かった。
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紺色のロングヘアー。そして見えているのかよくわからない細目。パッと見た感じ、笑っているように見える表情と、どうもコント集団の女リーダーらしい雰囲気がそこにはあった。
「じゃあ、そこに座って。ああ、自己紹介がまだだったわね。私はアメリア・クラウゼ少佐。運行艦『ふさ』の艦長。流暢に日本語をしゃべるでしょ。本来の母国語はドイツ語なんだけどね。色々あって日本語の方がしっくりくるからそっちで話すの。それと禿は嫌い。言っておくことはそれだけ」
そう言うとアメリアは背もたれに体を預けて伸びをしながら誠を眺める。
「前の大戦末期に戦争に行ったんですか?」
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「ローラが言ったんでしょ。あの娘のツッコミは弱いのよね。それで誠ちゃんが来ることになったの。言ってることは事実だから別に私はいいけどね。他の同じ境遇の娘達には嫌がってるのもいるから。そのことは触れないでね。これまで会ったうちの誰か言ったでしょ、『詮索屋は嫌われる」って。嫌われたくないなら触れないでね」
そう言うとアメリアは体を起こした。
「まず、誠ちゃんが触れられたら嫌なことで私が知ってることを教えてあげるわね。あなた、高校3年の時、エースで4番だったわよね。城東高校は野球部だけでは試合が成立しないから、助っ人で呼ばれた。そして出ると負けのチームが、誠ちゃん一人のおかげで3回戦まで勝ち進んだ……」
突然降られた話題に誠は呆然とした。
「なんで……それを……」
誠はそう言うのがやっとだった。
「簡単よ。新聞の東都の地方記事を神前誠で検索している人間ならすぐたどり着くもの。そして、その最後の試合で……誠ちゃんはある事件を起こし、野球部を辞めた」
そこまで言ってアメリアは誠に目をやった。誠は自分の顔が紅潮しているのを自覚していた。
「殴りました。キャッチャーを殴って、セカンドを殴って。そのまま試合は没収試合になりました」
誠は思い出した。誠の変化球の取れないキャッチャー。正面のゴロをトンネルする内野。フライを打たせると当たり前のように打球を見失うライト。
「そう言う事。今、指摘されたくないでしょ?おんなじ」
そう言ってアメリアは笑う。それまで閉じていると思っていた細い目の間に悲しげな瞳が見えた。過去に触れるという事が時に相手を傷つけるものだと誠は思い知った。
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