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プライドゼロの策士の計略
理解不能な『インテリジェンスの高い駄目人間』
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「おい、駄目人間」
ランがそう言い切った。隊長室のドアを入ったばかりの誠にはその言葉の意味が理解できなかった。
「駄目人間だよ、俺は。そんな事、十分理解してるから。今更、指摘しないで……ふーん、そうなんだ。次、行くところの候補に入れ……」
隊長室の大きな机の前にランと並んで立った誠は目の前の大きな机の向こう側に座っている男に目を向けた。彼こそが誠を『ハメた』張本人。すべての悪の元凶、嵯峨惟基特務大佐その人だった。
嵯峨は週刊誌のようなものを読みながら携帯端末をいじっている。その目は眠そうで、誠が見た嵯峨の姿が取り繕ったものだったかを感じさせるほど、緊張感のかけらもないものだった。
「脳ピンク。常識人だったら子供達の前で読むのが恥ずかしくなる本を、アタシ等の目の届かないようにしろ。自重しろ、バーカ」
一応は上官である。冷や冷やしながら誠はランに目をやった。軽蔑を通り越し、汚物を見るような目がそこにあった。
「それはねえ、職業差別っていうんだよ。この雑誌に載ってるお店で働いてるお姉ちゃん達に失礼じゃないの。謝んなさい。まあ、趣味と実益を兼ねてる人もたまにはいるけど、それそれ人には都合ってもんがあるんだ……」
ランは大きなため息をついた。
「そいつ等だって事情があるぐれーのことは知ってんよ。だがな、発売日に職場で読んでくれとは思ってねーと思うぞ。読むなら隠れて読め。聞くところによると、そう言う店は朝なら割引があるんだからとっとと行ってこいよ。どうせすることないなら今から行けよ。目が汚れる。いっそ死ね」
ランは初めてこの光景に立ち会った誠から見ても、何度も同じセリフを繰り返してきたことがよくわかるようにすらすらと酷いこと口にした。
「あのー隊長が読んでる……のは……もしかして……」
「そんな遠慮して隊長なんて呼ばなくていいよ。駄目人間とか脳ピンクとか呼んで。俺、プライドの無い男ってのを売りにしてるから。これ?泡の出るお風呂とか、マッサージとか、キャバクラ……はあんま好きじゃない。俺の言う事理解していないんだもん。気分悪くなるよ」
嵯峨はそう言うと携帯端末を机に置いた。
「これでいいんだろ?中佐殿」
未練たっぷりと言う感じで嵯峨は渋々端末から手を放す。
「その風俗情報誌『夜遊び』をアタシの目の届かないところに置け。どこでもいい、アタシの視界から消せ。つーか、オメー死ねよ。死んでくれ。宇宙から消えてくれ、消滅してくれ。ホント、マジで」
ランはまさにごみを見るような視線でそう言った。
「お店のチェック途中なのになあ……『夜遊び』の売りはね、店のコードをスキャンすると、小三枚とか値引いてくれるから。いいでしょ」
ここまで駄目な人間が母の知人だということに誠はショックを受けていた。変な大人だとは思っていたが、ここまでひどいのを目撃したのは初めてだった。
「良くねーわ!この風俗通いのスケベニンゲンが!」
さすがのランもキレた。これまでで、見た目は幼女で口は悪いが、ランは伝説のエースにふさわしい大人物であることは誠にもわかった。
その上司が勤務中にエロ雑誌を堂々と読む男である。
誠は室内を見回した。その光景がまたイカレテいた。
一番目に付くのは壁際にある日本の鎧である。日本史の知識が無い誠にもはっきりとそれとわかる黒い鎧がある。まずこれが目に付く。
その隣には和風の弦楽器、たぶん『琵琶』と呼ばれているもの、そしてギターが置いてあった。この二つはあってもいい、好きなら弾いても人間性を高めることはあっても貶めるようにはならない。
その他は雑誌の山。多分『性的な意味』のある雑誌なのだろう。目の前でランに威嚇されて嵯峨は風俗情報誌を隊長らしい大きな机にある袖机の引き出しに座った。
他にも戸棚が二つあるが、どうせろくなものが入っているわけではない。
『こいつは……正真正銘の駄目人間だ』
誠は軽蔑の目で嵯峨を見つめながら、どんな啖呵を切って辞めてやるかを考えていた。
ランがそう言い切った。隊長室のドアを入ったばかりの誠にはその言葉の意味が理解できなかった。
「駄目人間だよ、俺は。そんな事、十分理解してるから。今更、指摘しないで……ふーん、そうなんだ。次、行くところの候補に入れ……」
隊長室の大きな机の前にランと並んで立った誠は目の前の大きな机の向こう側に座っている男に目を向けた。彼こそが誠を『ハメた』張本人。すべての悪の元凶、嵯峨惟基特務大佐その人だった。
嵯峨は週刊誌のようなものを読みながら携帯端末をいじっている。その目は眠そうで、誠が見た嵯峨の姿が取り繕ったものだったかを感じさせるほど、緊張感のかけらもないものだった。
「脳ピンク。常識人だったら子供達の前で読むのが恥ずかしくなる本を、アタシ等の目の届かないようにしろ。自重しろ、バーカ」
一応は上官である。冷や冷やしながら誠はランに目をやった。軽蔑を通り越し、汚物を見るような目がそこにあった。
「それはねえ、職業差別っていうんだよ。この雑誌に載ってるお店で働いてるお姉ちゃん達に失礼じゃないの。謝んなさい。まあ、趣味と実益を兼ねてる人もたまにはいるけど、それそれ人には都合ってもんがあるんだ……」
ランは大きなため息をついた。
「そいつ等だって事情があるぐれーのことは知ってんよ。だがな、発売日に職場で読んでくれとは思ってねーと思うぞ。読むなら隠れて読め。聞くところによると、そう言う店は朝なら割引があるんだからとっとと行ってこいよ。どうせすることないなら今から行けよ。目が汚れる。いっそ死ね」
ランは初めてこの光景に立ち会った誠から見ても、何度も同じセリフを繰り返してきたことがよくわかるようにすらすらと酷いこと口にした。
「あのー隊長が読んでる……のは……もしかして……」
「そんな遠慮して隊長なんて呼ばなくていいよ。駄目人間とか脳ピンクとか呼んで。俺、プライドの無い男ってのを売りにしてるから。これ?泡の出るお風呂とか、マッサージとか、キャバクラ……はあんま好きじゃない。俺の言う事理解していないんだもん。気分悪くなるよ」
嵯峨はそう言うと携帯端末を机に置いた。
「これでいいんだろ?中佐殿」
未練たっぷりと言う感じで嵯峨は渋々端末から手を放す。
「その風俗情報誌『夜遊び』をアタシの目の届かないところに置け。どこでもいい、アタシの視界から消せ。つーか、オメー死ねよ。死んでくれ。宇宙から消えてくれ、消滅してくれ。ホント、マジで」
ランはまさにごみを見るような視線でそう言った。
「お店のチェック途中なのになあ……『夜遊び』の売りはね、店のコードをスキャンすると、小三枚とか値引いてくれるから。いいでしょ」
ここまで駄目な人間が母の知人だということに誠はショックを受けていた。変な大人だとは思っていたが、ここまでひどいのを目撃したのは初めてだった。
「良くねーわ!この風俗通いのスケベニンゲンが!」
さすがのランもキレた。これまでで、見た目は幼女で口は悪いが、ランは伝説のエースにふさわしい大人物であることは誠にもわかった。
その上司が勤務中にエロ雑誌を堂々と読む男である。
誠は室内を見回した。その光景がまたイカレテいた。
一番目に付くのは壁際にある日本の鎧である。日本史の知識が無い誠にもはっきりとそれとわかる黒い鎧がある。まずこれが目に付く。
その隣には和風の弦楽器、たぶん『琵琶』と呼ばれているもの、そしてギターが置いてあった。この二つはあってもいい、好きなら弾いても人間性を高めることはあっても貶めるようにはならない。
その他は雑誌の山。多分『性的な意味』のある雑誌なのだろう。目の前でランに威嚇されて嵯峨は風俗情報誌を隊長らしい大きな机にある袖机の引き出しに座った。
他にも戸棚が二つあるが、どうせろくなものが入っているわけではない。
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