特殊装甲隊 ダグフェロン 第一部 蘇る火付盗賊改方 (ひつけとうぞくあらためかた) とは……殺人許可書を持つ「特殊な部隊」

橋本 直

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「火盗」屯所のパイロット達

巨大基地と警備室とスイカ

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  工場の基礎ばかりが目に付く平原を抜けて、コンクリートの壁が近づいたとき、ランはスムーズに右に曲がった。トラックや営業用車両はもうここまでくる必要がないようで、すれ違う車はもうなくなっていた。

「脳無し、言っとくぞ。左に曲がるとうちの大型専用の出口があるが、そっちは外れだ。これから行く本部があるのはこの先だ。アタシの運転に間違いはねーかんな。もうすぐ着くぜ。あんぽんたん」

 そう言ったランの顔はバックミラーの中で笑っていた。この人は人に罵詈雑言を投げることを習慣にしている。そう理解すれば何とか彼女の挑発するような暴言にも慣れてきた。

 誠は前と後ろを振り返る。視線の果てるまでコンクリートの壁は続いていた。壁沿いに走っている車の窓から見てみると、なぜか明らかに落書きを消したような場所があるが、どうやって工場の敷地までいたずら書きをする輩が侵入したのか。それが少しばかり気になった。

「広いんですね、本当に」

 誠はそう言ってランの表情をうかがおうとバックミラーに目をやった。ランは相変わらず笑っていた。

「当たり前のことしか言えねーんだな、うすら馬鹿。こっちより、奥の方が広-んだ。たまげたろ。昔の西東京の米軍の基地に比べたら猫の額程度のもんだ。まーテメーの足りないおつむじゃ想像もつかねーだろうがな」

 誠も昔の飛行機が滑走路を必要としていることは知っていた。今のように重力制御装置が一般化される以前の飛行機は、一部例外を除けばそれらの機体は大きな空港を必要としていた。

「大型ジェット機を飛ばす訳じゃねーよ。うちの所有で運用艦ってのがあってな。そいつを最大3隻置ける土地を確保しようとしたんだと。どこの間抜けがそんなこと言いだしたかは知らねーけどさ」

 ランは頭を掻きながらそう言った。

「運用艦ですか?専用の船があるなんて……凄いですね」

 誠の言葉にランは再び頭を掻く。そして、しばらく考えた後、口を開いた。

「んなの、すごかねーよ。そうすると必然的に西東都の密集した住宅街の上空を飛行しなきゃならねーからな。この土地を確保した時点で地元住民の反対でそのプランはおじゃん。アタシ等の機体も、その他の使い慣れたものも運用艦のある港まで、えっちらおっちらトレーラーやコンテナで運ぶんだ……ちょっと待ってな」

 そう言うとランは車を左折させる。そこにあるゲートの前で車を一時停止させて、運転席の窓を開ける。

「クラウゼ中佐、お疲れ様です……」

 粗末な警備室から出てきたのは警備担当のようだ。だらんとタオルを首から下げている。その下士官はランに挨拶すると車の後部座席を覗き込み、誠に目を向けた。

「よー、相変わらず暇してんな。言っとくとこいつはこれまでの連中より骨がある。まあ、これから水が合うかどうか試さねーと何とも言えないがな。アタシの勘違いってこともあるからな」

 誠は『骨がある』と言われたことが少しうれしかった。

「骨ねえ……」

 下士官はそう言って誠を見つめる。その様子を見ていたランや警備員と同じ制服を着た真っ赤な髪の女性士官が両手でスイカを持ちながら近づいてくる。

「中佐。ここの当番やればスイカが食えますよ。今年は当たり年です。結構、甘くてうまいですよ」

 男の下士官はそう言って笑う。

「アタシはいいや。オメー等で食え。じゃーゲート開けてくれ」

 その言葉と同時にゲートが開く。ランは窓を閉じた。誠は吹き込んできた湿った熱風で汗をかいてきていた。

 そのまま車は大きな二階建ての建物に向かって伸びる道を進んだ。
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