11 / 60
「火盗」屯所のパイロット達
巨大基地と警備室とスイカ
しおりを挟む
工場の基礎ばかりが目に付く平原を抜けて、コンクリートの壁が近づいたとき、ランはスムーズに右に曲がった。トラックや営業用車両はもうここまでくる必要がないようで、すれ違う車はもうなくなっていた。
「脳無し、言っとくぞ。左に曲がるとうちの大型専用の出口があるが、そっちは外れだ。これから行く本部があるのはこの先だ。アタシの運転に間違いはねーかんな。もうすぐ着くぜ。あんぽんたん」
そう言ったランの顔はバックミラーの中で笑っていた。この人は人に罵詈雑言を投げることを習慣にしている。そう理解すれば何とか彼女の挑発するような暴言にも慣れてきた。
誠は前と後ろを振り返る。視線の果てるまでコンクリートの壁は続いていた。壁沿いに走っている車の窓から見てみると、なぜか明らかに落書きを消したような場所があるが、どうやって工場の敷地までいたずら書きをする輩が侵入したのか。それが少しばかり気になった。
「広いんですね、本当に」
誠はそう言ってランの表情をうかがおうとバックミラーに目をやった。ランは相変わらず笑っていた。
「当たり前のことしか言えねーんだな、うすら馬鹿。こっちより、奥の方が広-んだ。たまげたろ。昔の西東京の米軍の基地に比べたら猫の額程度のもんだ。まーテメーの足りないおつむじゃ想像もつかねーだろうがな」
誠も昔の飛行機が滑走路を必要としていることは知っていた。今のように重力制御装置が一般化される以前の飛行機は、一部例外を除けばそれらの機体は大きな空港を必要としていた。
「大型ジェット機を飛ばす訳じゃねーよ。うちの所有で運用艦ってのがあってな。そいつを最大3隻置ける土地を確保しようとしたんだと。どこの間抜けがそんなこと言いだしたかは知らねーけどさ」
ランは頭を掻きながらそう言った。
「運用艦ですか?専用の船があるなんて……凄いですね」
誠の言葉にランは再び頭を掻く。そして、しばらく考えた後、口を開いた。
「んなの、すごかねーよ。そうすると必然的に西東都の密集した住宅街の上空を飛行しなきゃならねーからな。この土地を確保した時点で地元住民の反対でそのプランはおじゃん。アタシ等の機体も、その他の使い慣れたものも運用艦のある港まで、えっちらおっちらトレーラーやコンテナで運ぶんだ……ちょっと待ってな」
そう言うとランは車を左折させる。そこにあるゲートの前で車を一時停止させて、運転席の窓を開ける。
「クラウゼ中佐、お疲れ様です……」
粗末な警備室から出てきたのは警備担当のようだ。だらんとタオルを首から下げている。その下士官はランに挨拶すると車の後部座席を覗き込み、誠に目を向けた。
「よー、相変わらず暇してんな。言っとくとこいつはこれまでの連中より骨がある。まあ、これから水が合うかどうか試さねーと何とも言えないがな。アタシの勘違いってこともあるからな」
誠は『骨がある』と言われたことが少しうれしかった。
「骨ねえ……」
下士官はそう言って誠を見つめる。その様子を見ていたランや警備員と同じ制服を着た真っ赤な髪の女性士官が両手でスイカを持ちながら近づいてくる。
「中佐。ここの当番やればスイカが食えますよ。今年は当たり年です。結構、甘くてうまいですよ」
男の下士官はそう言って笑う。
「アタシはいいや。オメー等で食え。じゃーゲート開けてくれ」
その言葉と同時にゲートが開く。ランは窓を閉じた。誠は吹き込んできた湿った熱風で汗をかいてきていた。
そのまま車は大きな二階建ての建物に向かって伸びる道を進んだ。
「脳無し、言っとくぞ。左に曲がるとうちの大型専用の出口があるが、そっちは外れだ。これから行く本部があるのはこの先だ。アタシの運転に間違いはねーかんな。もうすぐ着くぜ。あんぽんたん」
そう言ったランの顔はバックミラーの中で笑っていた。この人は人に罵詈雑言を投げることを習慣にしている。そう理解すれば何とか彼女の挑発するような暴言にも慣れてきた。
誠は前と後ろを振り返る。視線の果てるまでコンクリートの壁は続いていた。壁沿いに走っている車の窓から見てみると、なぜか明らかに落書きを消したような場所があるが、どうやって工場の敷地までいたずら書きをする輩が侵入したのか。それが少しばかり気になった。
「広いんですね、本当に」
誠はそう言ってランの表情をうかがおうとバックミラーに目をやった。ランは相変わらず笑っていた。
「当たり前のことしか言えねーんだな、うすら馬鹿。こっちより、奥の方が広-んだ。たまげたろ。昔の西東京の米軍の基地に比べたら猫の額程度のもんだ。まーテメーの足りないおつむじゃ想像もつかねーだろうがな」
誠も昔の飛行機が滑走路を必要としていることは知っていた。今のように重力制御装置が一般化される以前の飛行機は、一部例外を除けばそれらの機体は大きな空港を必要としていた。
「大型ジェット機を飛ばす訳じゃねーよ。うちの所有で運用艦ってのがあってな。そいつを最大3隻置ける土地を確保しようとしたんだと。どこの間抜けがそんなこと言いだしたかは知らねーけどさ」
ランは頭を掻きながらそう言った。
「運用艦ですか?専用の船があるなんて……凄いですね」
誠の言葉にランは再び頭を掻く。そして、しばらく考えた後、口を開いた。
「んなの、すごかねーよ。そうすると必然的に西東都の密集した住宅街の上空を飛行しなきゃならねーからな。この土地を確保した時点で地元住民の反対でそのプランはおじゃん。アタシ等の機体も、その他の使い慣れたものも運用艦のある港まで、えっちらおっちらトレーラーやコンテナで運ぶんだ……ちょっと待ってな」
そう言うとランは車を左折させる。そこにあるゲートの前で車を一時停止させて、運転席の窓を開ける。
「クラウゼ中佐、お疲れ様です……」
粗末な警備室から出てきたのは警備担当のようだ。だらんとタオルを首から下げている。その下士官はランに挨拶すると車の後部座席を覗き込み、誠に目を向けた。
「よー、相変わらず暇してんな。言っとくとこいつはこれまでの連中より骨がある。まあ、これから水が合うかどうか試さねーと何とも言えないがな。アタシの勘違いってこともあるからな」
誠は『骨がある』と言われたことが少しうれしかった。
「骨ねえ……」
下士官はそう言って誠を見つめる。その様子を見ていたランや警備員と同じ制服を着た真っ赤な髪の女性士官が両手でスイカを持ちながら近づいてくる。
「中佐。ここの当番やればスイカが食えますよ。今年は当たり年です。結構、甘くてうまいですよ」
男の下士官はそう言って笑う。
「アタシはいいや。オメー等で食え。じゃーゲート開けてくれ」
その言葉と同時にゲートが開く。ランは窓を閉じた。誠は吹き込んできた湿った熱風で汗をかいてきていた。
そのまま車は大きな二階建ての建物に向かって伸びる道を進んだ。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞
橋本 直
SF
地球人類が初めて地球外人類と出会った辺境惑星『遼州』の連合国家群『遼州同盟』。
その有力国のひとつ東和共和国に住むごく普通の大学生だった神前誠(しんぜんまこと)。彼は就職先に困り、母親の剣道場の師範代である嵯峨惟基を頼り軍に人型兵器『アサルト・モジュール』のパイロットの幹部候補生という待遇でなんとか入ることができた。
しかし、基礎訓練を終え、士官候補生として配属されたその嵯峨惟基が部隊長を務める部隊『遼州同盟司法局実働部隊』は巨大工場の中に仮住まいをする肩身の狭い状況の部隊だった。
さらに追い打ちをかけるのは個性的な同僚達。
直属の上司はガラは悪いが家柄が良いサイボーグ西園寺かなめと無口でぶっきらぼうな人造人間のカウラ・ベルガーの二人の女性士官。
他にもオタク趣味で意気投合するがどこか食えない女性人造人間の艦長代理アイシャ・クラウゼ、小さな元気っ子野生農業少女ナンバルゲニア・シャムラード、マイペースで人の話を聞かないサイボーグ吉田俊平、声と態度がでかい幼女にしか見えない指揮官クバルカ・ランなど個性の塊のような面々に振り回される誠。
しかも人に振り回されるばかりと思いきや自分に自分でも自覚のない不思議な力、「法術」が眠っていた。
考えがまとまらないまま初めての宇宙空間での演習に出るが、そして時を同じくして同盟の存在を揺るがしかねない同盟加盟国『胡州帝国』の国権軍権拡大を主張する独自行動派によるクーデターが画策されいるという報が届く。
誠は法術師専用アサルト・モジュール『05式乙型』を駆り戦場で何を見ることになるのか?そして彼の昇進はありうるのか?

忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
3024年宇宙のスズキ
神谷モロ
SF
俺の名はイチロー・スズキ。
もちろんベースボールとは無関係な一般人だ。
21世紀に生きていた普通の日本人。
ひょんな事故から冷凍睡眠されていたが1000年後の未来に蘇った現代の浦島太郎である。
今は福祉事業団体フリーボートの社員で、福祉船アマテラスの船長だ。
※この作品はカクヨムでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる