特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直

文字の大きさ
上 下
31 / 54
新たな世代

第31話 殿上貴族

しおりを挟む
 響き渡る笙の音が殿上会の始まりを告げる。

 『鏡の間』と呼ばれる殿上会の開かれる間に続くいくつもの広間には集まった貴族たちが上座に向けて首を垂れていた。

 そんな間を四人の人影が上座へと向かう。

 先頭を歩くのは十二単を身にまとった殿上貴族。彼女の名は九条響子だった。年は28歳。静々と歩くその雰囲気は左大臣と言うこの場にいる最高位の貴族であることを示して見せた。

 それに続くのは武者装束の貴人、田安麗子。落ち着き払った九条響子とは違って、こちらはどこか間の抜けた表情で響子と同い年で右大臣と言うには少し貫録が無い浮ついた表情を浮かべていた。

 続く武者装束のかえでと公家装束の嵯峨惟基。こちらはと言えば場慣れしたほど良い緊張感をはらみながらそのまま鏡の間へと向かう廊下を歩いていた。

 殿上貴族達はその様子をかたずをのんで見守りながら四人が鏡の間に入るのを見守っていた。

 空位の最上位の太政大臣の席をはさんで左に響子、右に麗子が座り、その下座にかえでと嵯峨が控える。

「内府殿……」

 響子は嵯峨を呼ぶと静かに空いた太政大臣の席に目をやる。

「左府殿、かなめは……」

「そうですね、ですがいつまでも太政官が不在では……」

 響子の冷たい声に嵯峨は首を横に振った。

「全く、かなめさんと来たら……殿上会は甲武の礎ですのに……」

 不服そうにつぶやく麗子だが、その感情的な口調に響子とかえでが責めるような視線を投げかけた。麗子はそれに気づくとすぐに手にした尺で口元を隠す。

「本日は殿上会……良き日良き方を選びてなしたる日。甲武百官の首たる余の為衆人こぞって来は目出度き限りなり……」

 儀式ばった響子の一声に殿上貴族達は図ったように拝礼をする。

「左府殿。まずは大納言楓子就着について……」

 静かに嵯峨はそう言うとかえでに目配せする。かえではそのまま静かに響子の前に進み出て首を垂れた。

「藤原朝臣三位大納言楓子。就着の議、ご苦労である」

 響子はそう言って扇子を目の前にかざした。

「教悦至極に存じまする」

 かえではそう言って再び拝礼した。

「内府殿……かなめちゃ……じゃなかった、要子不在にてさぶらうが、藤原朝臣一位響子、太政大臣推挙の議……」

 麗子がそう言った瞬間、続きの間にざわめきが起こった。

 響子が太政大臣に着けば甲武貴族第一位はこの場にいないかなめから響子に移ることになる。

 響子は甲武の貴族主義者からは事実上の首領として扱われる存在だった。その響子が太政大臣に君臨すれば議会を制するかなめの父西園寺義基との衝突は避けられない。

 殿上貴族達の戸惑いと恐怖を含んだざわめきを聞きながら響子は静かに首を横に振った。

「新田朝臣二位右大臣麗子殿……内府殿から左様な議は上申されておりませぬ……」

 響子はそう言うと呆けたような表情の麗子に笑みを返した。

「では、太政大臣による御采配は……」

「太政大臣は空位なれど、前太政大臣は下座に控えておられる……御差配は宰相の一任でよろしかろうと」

 響子はそう言って目の前に控える嵯峨に目をやった。

「左府殿の御裁可……見事にございまする……では、次なる議を宰相より奏上させていただきまする」

 嵯峨のそんな一言が発せられると、鏡の間の御簾が上がり、かなめの父、宰相西園寺義基が静かに現れた。

 四人の前に椅子と机が用意され、西園寺義基は手にした書類を机に広げた。

「では、宰相として大臣閣下に御裁可を頂き等ございまする、まず第一に……」

 西園寺義基はそう言って一礼すると議会を通過した法案の報告を始めた。緊張した雰囲気の中、嵯峨は安どの表情を浮かべて兄の奏上に耳を傾けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第五部  遼州人の青年神前誠(しんぜんまこと)が司法局実働部隊機動部隊第一小隊に配属になってからほぼ半年の時が過ぎようとしていた。 訓練場での閉所室内戦闘訓練からの帰りの途中、誠は周りの見慣れない雪景色に目を奪われた。 そんな誠に小隊長のカウラ・ベルガー大尉は彼女がロールアウトした時も同じように雪が降っていたと語った。そして、その日が12月25日であることを告げた。そして彼女がロールアウトして今年で9年になる新しい人造人間であること誠は知った。 同行していた運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ中佐は、クリスマスと重なるこの機会に何かイベントをしようと第二小隊のもう一人の隊員西園寺かなめ大尉に語り掛けた。 こうしてアメリアの企画で誠の実家である『神前一刀流道場』でのカウラのクリスマス会が開催されることになった。 誠の家は母が道場主を務め、父である誠一は全寮制の私立高校の剣道教師としてほとんど家に帰らない家だった。 四人は休みを取り、誠の実家で待つ誠の母、神前薫(しんぜんかおる)のところを訪れた。 そこで待ち受けているのは上流貴族であるかなめのとんでもなく上品なプレゼントを買いに行く行事、誠の『許婚』を自称するかなめの妹で両刀遣いの変態マゾヒスト日野かえで少佐の訪問、アメリアの部下である運航部の面々による蟹パーティーなどの忙しい日々だった。 そんな中、誠はカウラへのプレゼントとしてイラストを描くことを思いつき、様々な妨害に会いながらもなんとか仕上げることが出来たのだが……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

続・歴史改変戦記「北のまほろば」

高木一優
SF
この物語は『歴史改変戦記「信長、中国を攻めるってよ」』の続編になります。正編のあらすじは序章で説明されますので、続編から読み始めても問題ありません。 タイム・マシンが実用化された近未来、歴史学者である私の論文が中国政府に採用され歴史改変実験「碧海作戦」が発動される。私の秘書官・戸部典子は歴女の知識を活用して戦国武将たちを支援する。歴史改変により織田信長は中国本土に攻め入り中華帝国を築き上げたのだが、日本国は帝国に飲み込まれて消滅してしまった。信長の中華帝国は殷賑を極め、世界の富を集める経済大国へと成長する。やがて西欧の勢力が帝国を襲い、私と戸部典子は真田信繁と伊達政宗を助けて西欧艦隊の攻撃を退け、ローマ教皇の領土的野心を砕く。平和が訪れたのもつかの間、十七世紀の帝国の北方では再び戦乱が巻き起ころうとしていた。歴史を思考実験するポリティカル歴史改変コメディー。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...