特殊装甲隊 ダグフェロン『廃帝と永遠の世紀末』② 海と革命家、時々娘

橋本 直

文字の大きさ
上 下
110 / 111
新しい日常

第110話 不死の人

しおりを挟む
「じゃあ、席についていただける?」 

 刺す様な目つきに誠は恐怖しながら椅子に座る。すぐに彼女は視線を端末に戻しすさまじいスピードでキーボードを叩く。

「おい、それは良いんだけどよ。法術特捜の部長の人事はどうなったんだ? 一応看板は、『遼州星系政治同盟最高会議司法局法術犯罪特別捜査部』なんて豪勢な名前がついてるんだ。それなりの人事を示してもらわねえと先々責任問題になった時に、アタシ等にお鉢が回ってくるのだけは勘弁だからな」

 誠の隣の席に着くなり切り出すかなめ。アメリアもその隣でうなづいている。

「その件ですが、しばらくはお父様が部長を兼任することになっていますわ。まあ本当はそれに適した人物が居るのだけれど、まだ本人の了承が取れていないの。それまでは現状の体制に数人の捜査官が加わる形での活動になると思いますわ」 

 そう言いながら、茜はなぜか視線を誠に向かって投げた。かなめもその意味は理解しているらしく、それ以上追及するつもりは無いというように腕組みをする。

「僕の顔に何かついてますか?」 

 真っ直ぐに見つめてくる茜の視線を感じて思わず誠はそう口にしていた。

「いいえ、それより今日は現状での法術特捜の人事案を説明させていただきます」 

「そうなんですの。とっととはじめるのがいいですの」 

 かなめは茜の真似をして下卑た笑みを浮かべて見せる。茜はそれを無視するとカウラの顔を見た。

「司法局実働部隊の協力者の指揮者ですが、階級的にはクラウゼ少佐が適任と言えますわね」 

 そんな茜の言葉にアメリアはにんまりと笑う。

「でも少佐の運用艦『高雄』の副長と言う立場から言えば、常に前線での活動と言うわけには参りませんわ。ですのでベルガー大尉、捜査補助隊の隊長をお願いしたいのですがよろしくて?」 

 茜の言葉にカウラは静かにうなづく。一方、期待を裏切られたアメリアはがっくりとうなだれた。かなめは怒鳴りつけようとするが、茜の何もかも見通したような視線に押されてそのままじっとしていた。

「つまり私は後方支援というわけね。それよりその子、大丈夫なの?」 

 アメリアはテーブルの向かいに座っているラーナを見ながらそう言った。ラーナは何か言いたげな表情をしているが、それを制するように茜が口を開いた。

「彼女は信用置けますわ。遼帝国陸軍山岳レンジャー部隊に出向してレンジャー訓練を受けたことがある逸材です。それに法術適正指数に於いては神前曹長に匹敵する実力の持ち主ですわ」 

「遼帝国のレンジャーだ?こいつが?」

 かなめがそう言ってラーナを指さした。黒髪の小柄なラーナはかなめの悪意に気づかないようで照れ笑いを浮かべていた。

「遼帝国軍って弱いことで有名ですよね……なんでそんなところに出向していたら自慢になるんですか?」

 軍の常識は誠の非常識である。誠のその言葉にその場の女子全員が大きくため息をついた。

「あのなあ……遼帝国は地球から最初に独立した国だ。その得意の戦術が……」

「ゲリラ戦ですよね」

 カウラの諭すような言葉を遮って誠は答えた。

「ゲリラの戦いは生きるための戦いだ。道なき道を進み、補給などあてにできない状況でも作戦を遂行する必要がある」

「まあ、誠ちゃんなら一時間で脱落するわね……」

 カウラとアメリアの言葉にムキになって反論しようとする誠だが、隣に座っていたかなめの視線がそれをやめさせた。

「アタシは生身じゃねえから受けられねえが……あそこで鍛え上げられたって言うなら本物だろ?神前、後でこいつと組み手をしてみろ。三分持ったら酒を奢ってやる」

 かなめが酒を奢るということはかなめなりにラーナの実力を認めているということだと分かった。さらに、先日の襲撃事件での法術師としては誠をはるかに凌ぐ実力者の茜の言葉にはラーナの実力を大げさに言っていることは判っていても重みがある。

「そんな大層なもんじゃないっすよ。山育ちなんで、サバイバルとかには結構自信があるだけっす」 

 ラーナは軽くそう言って笑って見せた。

 そんな明るいラーナを見ながら誠はかなめ達を見回した。かなめは相変わらず挑発するような視線をラーナに送っていた。カウラは珍しそうにラーナの様子を伺っていた。アメリアが聞きたいことは彼女の趣味と合うかどうかの話だろうと推測が出来た。

 四人に黙って見つめられても、照れるどころか自分から話始めそうなラーナを制して、茜は話し始めた。

「法術犯罪は実は遼州独立以降絶えず各政府を悩ませていた問題ですわ。法術の存在を一般に公表できないうえに、時として大規模な被害を伴うものも発生することもある……正直、もうどこの政府も法術の存在を隠しきれない状況でしたもの。まあ、『近藤事件』でその存在が明らかになって一番安どしてるのが警察関係者……これまでみたいに『原因不明』とかありもしない爆発物による嘘の発表をしなくていいんですものね……。まあ、前の大戦の少し前くらいからそれらの法術犯罪が増加の一途をたどっているのは事実ですもの。もう、どこの政府も黙ってみているわけにはいかなかったから……」 

 茜らしい。法術犯罪とその対策の歴史を語りだした茜だが、すぐにそれに飽きてしまう人物がいた。

「おい、茜。そんな御託は良いんだ。それより狙いはどこだ?甲武の官派か?ネオナチ連中か?地球の連中が動いてるって話も聞くわな」 

 かなめは相変わらずガムを噛んでいた。茜はそれに気を悪くしたのか、答えることも無くじっと端末を操作していた。

「じゃあかなめさん。『廃帝ハド』と言う人物のことはご存知?」 

 ようやく茜が口を開く。かなめは自分の意見が通ったことで少しばかり笑みを浮かべた。

「噂は聞いてるよ。100年ぐらい前に遼帝国が鎖国を解いた時の皇帝……ああ、その皇帝が封じられた後に鎖国は解かれたんだったよな……なんでも暴君で国をめちゃくちゃにした阿呆だって話じゃねえか……そんな昔の人間がどうして出てくるんだ?」 

 かなめの言葉にカウラとアイシャは黙って聞き入っていた。

「あれじゃない?封じられていたってことは、誰かが封印を解いたんでしょ?なんだかファンタジーな世界の話よね……」

 かなめのふざけた調子にさらにアメリアが茶化してみせる。茜は大きくため息をついて二人をにらみつけた。 

「あのーファンタジーの世界の話じゃなくってリアルな話がしたいんですけど……」 

 三人のにらみ合いを収めようと誠は話題を元に戻そうとした。

「クラウゼ少佐の言うことは半分は正解ですわ。ハドは死んでいなかった……正確に言えば『殺せなかった』と言った方がいいかしら」

「殺せない?『不死人』か?」

 それまでぼんやりしていたカウラの目に生気が宿る。誠はその『不死人』と言う言葉に先日の出動の際にランが言った『遼州人には時間の概念が無かった』と言う言葉を思い出した。

「正解……封印されていたのが内戦中の遼帝国内だったから誰がその封印を解いたのかは不明だけど……」

「その死なない化け物……今何してる?うちにも死なねえのが4人ほどいるからいっそのことうちで引き取るか?」

 茜の言葉にかなめが場がしらけるような大口をたたいた。

「あのー死なないのは隊長とクバルカ中佐だけじゃないんですか?」

 誠がそう尋ねるのを見てアメリアが恨みがましい視線をかなめに送った。カウラもまた明らかに誠に黙っていた事実をかなめが漏らしたということに気が付いてかなめをにらみつける。

「まあ……あとの二人は後でのお楽しみってことで」

「どうせそのうちの一人は島田先輩でしょ?あの人死にそうにないし」

 どうせ聞いても答えてくれそうな女達ではないことを悟っている誠はそう言って苦笑いを浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro
歴史・時代
 『船魄』(せんぱく)とは、軍艦を自らの意のままに操る少女達である。船魄によって操られる艦艇、艦載機の能力は人間のそれを圧倒し、彼女達の前に人間は殲滅されるだけの存在なのだ。1944年10月に覚醒した最初の船魄、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』は、日本本土進攻を企てるアメリカ海軍と激闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。  しかし戦後、瑞鶴は帝国海軍を脱走し行方をくらませた。1955年、アメリカのキューバ侵攻に端を発する日米の軍事衝突の最中、瑞鶴は再び姿を現わし、帝国海軍と交戦状態に入った。瑞鶴の目的はともかくとして、船魄達を解放する戦いが始まったのである。瑞鶴が解放した重巡『妙高』『高雄』、いつの間にかいる空母『グラーフ・ツェッペリン』は『月虹』を名乗って、国家に属さない軍事力として活動を始める。だが、瑞鶴は大義やら何やらには興味がないので、利用できるものは何でも利用する。カリブ海の覇権を狙う日本・ドイツ・ソ連・アメリカの間をのらりくらりと行き交いながら、月虹は生存の道を探っていく。  登場する艦艇はなんと82隻!(人間のキャラは他に多数)(まだまだ増える)。人類に反旗を翻した軍艦達による、異色の艦船擬人化物語が、ここに始まる。  ――――――――――  ●本作のメインテーマは、あくまで(途中まで)史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。  ●なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。もちろんがっつり性描写はないですが、GL要素大いにありです。  ●全ての船魄に挿絵ありですが、AI加筆なので雰囲気程度にお楽しみください。また、船魄紹介だけを別にまとめてありますので、見返したい時はご利用ください(https://www.alphapolis.co.jp/novel/176458335/696934273)。  ●少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください。  ●お気に入りや感想などよろしくお願いします。毎日一話投稿します。

時代小説の愉しみ

相良武有
歴史・時代
 女渡世人、やさぐれ同心、錺簪師、お庭番に酌女・・・ 武士も町人も、不器用にしか生きられない男と女。男が呻吟し女が慟哭する・・・ 剣が舞い落花が散り・・・時代小説の愉しみ

処理中です...