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新しい日常

第105話 三人の新入り

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 とりあえずだがカウラはそう言った。彼女に話しかけられ恍惚としている菰田の前でかなめが咳払いをした。

「早くしなさいよ!」 

 ようやく盛り付けが終わったばかりだと言うのに、アメリアの声が食堂に響く。

「うるせえ!馬鹿。何もしてない……」 

「酷いわねえかなめちゃん。ちゃんと番茶を入れといてあげたわよ」 

 トレーに朝食を盛った三人にアメリアはそう言うとコップを渡した。

「普通盛りなのね」 

 かなめのトレーを見ながらアメリアは箸でソーセージをつかむ。

「神前、きついかも知れないが朝食はちゃんと食べた方が良い」 

 カウラはそう言いながらシチューを口に運んでいる。

 誠はまさに針のむしろの上にいるように感じていた。言葉をかけようとかなめの顔を見れば、隣のアメリアからの視線を感じる。カウラの前のしょうゆに手を伸ばせば、黙ってかなめがそれを誠に渡す。周りの隊員達も、その奇妙な牽制合戦に関わるまいと、遠巻きに眺めている。

「ああ!もう。かなめちゃん!なんか言ってよ!それともなんか私に不満でもあるわけ?」

 いつもなら軽口でも言うかなめが黙っているのに耐えられずにアメリアが叫んだ。 

「そりゃあこっちの台詞だ!アタシがソースをコイツにとってやったのがそんなに不満なのか?」 

「あまりおひたしにソースをかける人はいないと思うんですが」 

 二人を宥めようと誠が言った言葉がまずかった。すぐに機嫌が最悪と言う顔のかなめが誠をにらみつける。

「アタシはかけるんだよ!」

「それじゃあかなめちゃん。ちゃんとたっぷり中濃ソースをおひたしにかけて召し上がれ」 

 アメリアに言われて相当腹が立ったのかアメリアはほうれん草にたっぷりとかなめのホウレンソウに中濃ソースをかける。

「どう?美味しい?」 

 あざけるような表情と言うものの典型例を誠はアメリアの顔に見つけた。

「ああ、うめえなあ!」 

「貴様等!いい加減にしろ!」 

 カウラがテーブルを叩く。突然こういう時は不介入を貫くはずのカウラの声にかなめとアメリアは驚いたように緑色の長い髪の持ち主を見つめた。

「食事は静かにしろ」 

 そう言うとカウラは冷凍みかんを剥き始める。かなめは上げた拳のおろし先に困って、立ち上がるととりあえず食堂の壁を叩いた。

「これが毎日続くんですか?」 

 誠は思わずそうつぶやいていた。

「なに、不満?」 

 涼しげな目元にいたずら心を宿したアメリアの目が誠を捕らえる。赤くなってそのまま残ったソーセージを口に突っ込むと、手にみかんと空いたトレーを持ってカウンターに運んだ。

「それじゃあ僕は準備があるので」 

「準備だ?オメエいつもそんな格好で出勤してくるじゃねえか……。とりあえず玄関に立ってろ」 

「でも財布とか身分証とか……」 

「じゃあ早く取って来い!」 

 かなめに怒鳴られて、誠は一目散に部屋へと駆け出した。

「大変そうですねえ」 

 階段ですれ違った西がニヤニヤ笑っている。

「まあな、こんな目にあうのは初めてだから」 

「そりゃそうでしょ。島田班長が結構気にしてましたよ」 

 そう言うと西はいかにも誠の一挙手一投足に関心があるというように誠の部屋の前までついてくる。西を部屋の前で置き去りにして中に入ると誠は戸棚から財布と身分証などの入ったカード入れを取り出した。さらに携帯端末を片手に持つとそのまま部屋を出た。

「なんだよ、まだついてくるのか。別に面白くも無いぞ」 

「そうでもないですよ。神前さんは自分で思ってるよりかなり面白い人ですから」 

 西が底意地の悪そうな笑みを浮かべていた。他人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだ。そんなことを考えながら誠はかなめの機嫌を気にして廊下を駆け下りる。

「そう言えば昨日……」 

 ついてきているはずの西を振り返る誠だが、誠を見飽きたというように西は自分の携帯電話に出ていた。

「ええ、今日はこれから出勤します。島田班長が気を使ってくれてるんで、定時には帰れると思いますよ」 

 西は最高にうれしいことが起きたというように明るい調子で続ける。誠は声をかけようかとも思ったがつまらないことに首は突っ込みたくないと思い直してそのまま玄関に向かった。
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