91 / 111
西園寺かなめ
第91話 プラモデル
しおりを挟む
立ったままかなめは口にスモークチーズを放り込んで外の景色を眺める。窓には吹き付ける風に混じって張り付いたのであろう砂埃が、波紋のような形を描いている。部屋の中も足元を見れば埃の塊がいくつも転がっていた。
「西園寺さん。掃除したことあります?」
そんな誠の言葉に、口にしたウォッカを吐きかけるかなめ。
「……一応、三回くらいは……」
「ここにはいつから住んでるんですか?」
かなめの顔がうつむき加減になる。たぶん部隊創設以来彼女はこの部屋に住み着いているのだろう。寮での掃除の仕方、それ以前に実働部隊の詰め所の彼女の机の上を見ればその三回目の掃除から半年以上は経っていることは楽に想像できた。
「掃除機ありますか?」
「馬鹿にするなよ!一応、ベランダに……」
「ベランダですか?雨ざらしにしたら壊れますよ!」
「そう言えば昨日の夜、電源入れたけど動かなかったな」
誠は絶句する。しかし、考えてみれば甲武国の四大公の筆頭である西園寺家の当主である。そんな彼女に家事などが出来るはずも無い。そう言うところだけはかなめはきっちりと御令嬢らしい姿を示して見せる。
「じゃあ、荷物を運び出したら。掃除機借りてきますんで掃除しましょう」
「やってくれるか!」
「いえ!僕が監督しますから西園寺さんの手でやってください!」
誠の宣言にかなめは急にしょげ返った。彼女は気分を変えようと今度はタバコに手を伸ばした。
「それとこの匂い。入った時から凄かったですよ。寮では室内のタバコは厳禁です」
「それ嘘だろ!オメエの部屋でミーティングしてた時アタシ吸ってたぞ!」
「あれは来客の場合には、島田先輩の許可があれば吸わせても良いことになっているんです!寮の住人は必ず喫煙所でタバコを吸うことに決まっています!」
「マジかよ!ったく!失敗したー!」
そう言うとかなめは天井を仰いでみせた。
「そうだ……神前。ついて来い」
かなめはそう言って急に立ち上がる。誠は半分くらい残っていたビールを飲み下してかなめの後に続く。誠が見ていると言うのに、かなめはぞんざいに寝室のドアを開ける。
ベッドの上になぜか寝袋が置かれているという奇妙な光景を見て誠の意識が固まる。
「あれ、何なんですか?」
「なんだ。文句あるのか?」
そのままかなめはそそくさと部屋に入る。ベッドとテレビモニターと緑色の石で出来た大きな灰皿が目を引く。机の上にはスポーツ新聞が乱雑に積まれ、その脇にはキーボードと通信端末用モニターとコードが並んでいる。
「なんですか?これは」
誠はこれが女性の部屋とは思えなかった。運用艦『ふさ』のカウラの無愛想な私室の方が数段人間の暮らしている部屋らしいくらいだ。
「持っていくのは寝袋とそこの端末くらいかな」
「あの、西園寺さん。僕は何を手伝えば良いんですか?」
机の脇には通信端末を入れていた箱が出荷時の状態で残っている。その前にはまた酒瓶が三本置いてあった。
「そう言えばそうだな」
かなめは今気がついたとでも言うように誠の顔を見つめる。
「ちょっと待ってろ。テメエに見せたいモノがあるから」
そう言うと壁の一隅にかなめが手を触れる。スライドしてくる書庫のようなものの中から、明らかに買ったばかりとわかるようなプラモデルの箱を取り出す。
「誠はこう言うのが好きだろ?やるよ」
誠はかなめの顔を見つめた。かなめはすぐに視線を落とす。それは地球製の戦車のプラモデルだった。
「もしかしてこれを渡すために……」
「勘違いすんなよ!アタシはもう少しなんか運ぶものがあったような気がしたから呼んだだけだ!これだってたまたま街を歩いてたら売ってたから……」
そのまま口ごもるかなめ。それは誠のあまり好きではないドイツ軍の回収型戦車のプラモデルだった。しかし、あまりモデルアップされない珍しい一品だった。
「ありがとう……ございます」
「もっと嬉しそうに言え!」
いつもの強引な彼女に戻ったかなめを見て誠は笑みを浮かべた。
「西園寺さん。掃除したことあります?」
そんな誠の言葉に、口にしたウォッカを吐きかけるかなめ。
「……一応、三回くらいは……」
「ここにはいつから住んでるんですか?」
かなめの顔がうつむき加減になる。たぶん部隊創設以来彼女はこの部屋に住み着いているのだろう。寮での掃除の仕方、それ以前に実働部隊の詰め所の彼女の机の上を見ればその三回目の掃除から半年以上は経っていることは楽に想像できた。
「掃除機ありますか?」
「馬鹿にするなよ!一応、ベランダに……」
「ベランダですか?雨ざらしにしたら壊れますよ!」
「そう言えば昨日の夜、電源入れたけど動かなかったな」
誠は絶句する。しかし、考えてみれば甲武国の四大公の筆頭である西園寺家の当主である。そんな彼女に家事などが出来るはずも無い。そう言うところだけはかなめはきっちりと御令嬢らしい姿を示して見せる。
「じゃあ、荷物を運び出したら。掃除機借りてきますんで掃除しましょう」
「やってくれるか!」
「いえ!僕が監督しますから西園寺さんの手でやってください!」
誠の宣言にかなめは急にしょげ返った。彼女は気分を変えようと今度はタバコに手を伸ばした。
「それとこの匂い。入った時から凄かったですよ。寮では室内のタバコは厳禁です」
「それ嘘だろ!オメエの部屋でミーティングしてた時アタシ吸ってたぞ!」
「あれは来客の場合には、島田先輩の許可があれば吸わせても良いことになっているんです!寮の住人は必ず喫煙所でタバコを吸うことに決まっています!」
「マジかよ!ったく!失敗したー!」
そう言うとかなめは天井を仰いでみせた。
「そうだ……神前。ついて来い」
かなめはそう言って急に立ち上がる。誠は半分くらい残っていたビールを飲み下してかなめの後に続く。誠が見ていると言うのに、かなめはぞんざいに寝室のドアを開ける。
ベッドの上になぜか寝袋が置かれているという奇妙な光景を見て誠の意識が固まる。
「あれ、何なんですか?」
「なんだ。文句あるのか?」
そのままかなめはそそくさと部屋に入る。ベッドとテレビモニターと緑色の石で出来た大きな灰皿が目を引く。机の上にはスポーツ新聞が乱雑に積まれ、その脇にはキーボードと通信端末用モニターとコードが並んでいる。
「なんですか?これは」
誠はこれが女性の部屋とは思えなかった。運用艦『ふさ』のカウラの無愛想な私室の方が数段人間の暮らしている部屋らしいくらいだ。
「持っていくのは寝袋とそこの端末くらいかな」
「あの、西園寺さん。僕は何を手伝えば良いんですか?」
机の脇には通信端末を入れていた箱が出荷時の状態で残っている。その前にはまた酒瓶が三本置いてあった。
「そう言えばそうだな」
かなめは今気がついたとでも言うように誠の顔を見つめる。
「ちょっと待ってろ。テメエに見せたいモノがあるから」
そう言うと壁の一隅にかなめが手を触れる。スライドしてくる書庫のようなものの中から、明らかに買ったばかりとわかるようなプラモデルの箱を取り出す。
「誠はこう言うのが好きだろ?やるよ」
誠はかなめの顔を見つめた。かなめはすぐに視線を落とす。それは地球製の戦車のプラモデルだった。
「もしかしてこれを渡すために……」
「勘違いすんなよ!アタシはもう少しなんか運ぶものがあったような気がしたから呼んだだけだ!これだってたまたま街を歩いてたら売ってたから……」
そのまま口ごもるかなめ。それは誠のあまり好きではないドイツ軍の回収型戦車のプラモデルだった。しかし、あまりモデルアップされない珍しい一品だった。
「ありがとう……ございます」
「もっと嬉しそうに言え!」
いつもの強引な彼女に戻ったかなめを見て誠は笑みを浮かべた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
アカネ・パラドックス
雲黒斎草菜
SF
超絶美人なのに男を虫ケラのようにあしらう社長秘書『玲子』。その虫けらよりもひどい扱いを受ける『裕輔』と『田吾』。そんな連中を率いるのはドケチでハゲ散らかした、社長の『芸津』。どこにでもいそうなごく普通の会社員たちが銀河を救う使命を背負わされたのは、一人のアンドロイド少女と出会ったのが始まりでした。
『アカネ・パラドックス』では時系列を複雑に絡めた四次元的ストーリーとなっております。途中まで読み進むと、必ず初めに戻って読み返さざるを得ない状況に陥ります。果たしてエンディングまでたどり着きますでしょうか――。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!
たまにはゆっくり、歩きませんか?
隠岐 旅雨
BL
大手IT企業でシステムエンジニアとして働く榊(さかき)は、一時的に都内本社から埼玉県にある支社のプロジェクトへの応援増員として参加することになった。その最初の通勤の電車の中で、つり革につかまって半分眠った状態のままの男子高校生が倒れ込んでくるのを何とか支え抱きとめる。
よく見ると高校生は自分の出身高校の後輩であることがわかり、また翌日の同時刻にもたまたま同じ電車で遭遇したことから、日々の通勤通学をともにすることになる。
世間話をともにするくらいの仲ではあったが、徐々に互いの距離は縮まっていき、週末には映画を観に行く約束をする。が……

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる