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引っ越し
第88話 05式のプロトタイプ
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「それにしちゃ05式のプロトタイプが豊川に運ばれたって言う噂は解せねえな。あれは遼帝国の『フラッグ・アサルト・モジュール』だ。あれが動くと言うことは遼帝国が動くってことだろ?国防はあの国でも政府の専権事項だろ?ブルゴーニュ候がなんでそっちの許可を出したんだ?」
「05式のプロトタイプ?」
誠はこれまでただの重装甲重火力だけが売りの05式にプロトタイプが存在することなど聞かされていなかった。
それにそれが弱兵とはいえ大国である遼帝国の旗機であるなど知るはずも無かった。
「05式はな。最初から法術師向けに開発されたんだ……基本設計は遼帝国で行われた……うちの05式はプロトタイプの技術を流用して量産化可能かどうかを見極めるために製造されたんだが……結局、どこの軍にも採用されない失敗機ができたって訳」
かなめはそう言って誠の疑問にこたえた。
「でも……遼帝国って今でも焼き畑農業しかやってない国ですよ……そんな最新技術がどうして……」
「あのなあ、法術師研究が一番進んでるのは法術師が一番多く住んでる遼帝国なんだよ!なんでも三代前の女帝がその分野のエキスパートだったから人型兵器なんて言う珍妙な兵器を作ろうってことを始めたんだそうだ……アタシも詳しくは知らねえが……相当古い遺跡から出てきたんだそうだ、その人型兵器の残骸が……」
「はあ……」
誠はランが数億年生きていることを知っていたのでその残骸とやらが数億年前の物であることは理解できた。
「その噂。裏は取れているのかしら?05式のプロトタイプが動くって」
茜は表情も変えずに渋滞を抜けようと左折して裏道に入り込んだ。
「なに、ただの与太話だ。だが、アタシの情報網でも弾幕の雨の中でも正気を保てる程度の連中が目の色変えて裏を取ろうと必死になってるって話だ」
郊外の住宅街と言う豊川市の典型的な眺めが外に広がっている。かなめはそんな風景と変わらない茜の表情を見比べていた。
茜は無言だった。かなめは何度か茜の表情の変化を読み取ろうとしているように見えたが、しばらくしてそれもあきらめた。かなめは頭を掻きながら根負けしたように口を開いた。
「何も答えるつもりは無いか……つまり、間違いなく言えることは何も言わずにアタシ等は法術特捜に手を貸せってことだけか」
かなめは茜の沈黙に負けて05式のプロトタイプについて聞きだすのを諦めた。現状として司法局の方針が法術特捜には人員を割くつもりが無い以上、彼女もその指示に従わざるを得なかった。
「そうしていただけると助かりますわ。噂は噂。今は目の前にある現実を受け止めて頂かないと」
陸稲の畑の中を走る旧道が見えたところで、茜は車を右折させた。
「ったく人使いが荒いねえ。叔父貴は」
「それは今に始まったことではないでしょ」
そう言って茜は笑う。かなめは耐え切れずにタバコを取り出した。
「禁煙ですわよ」
「バーカ。くわえてるだけだよ!」
そう言うとかなめは静かに目をつぶった。
「05式のプロトタイプ?」
誠はこれまでただの重装甲重火力だけが売りの05式にプロトタイプが存在することなど聞かされていなかった。
それにそれが弱兵とはいえ大国である遼帝国の旗機であるなど知るはずも無かった。
「05式はな。最初から法術師向けに開発されたんだ……基本設計は遼帝国で行われた……うちの05式はプロトタイプの技術を流用して量産化可能かどうかを見極めるために製造されたんだが……結局、どこの軍にも採用されない失敗機ができたって訳」
かなめはそう言って誠の疑問にこたえた。
「でも……遼帝国って今でも焼き畑農業しかやってない国ですよ……そんな最新技術がどうして……」
「あのなあ、法術師研究が一番進んでるのは法術師が一番多く住んでる遼帝国なんだよ!なんでも三代前の女帝がその分野のエキスパートだったから人型兵器なんて言う珍妙な兵器を作ろうってことを始めたんだそうだ……アタシも詳しくは知らねえが……相当古い遺跡から出てきたんだそうだ、その人型兵器の残骸が……」
「はあ……」
誠はランが数億年生きていることを知っていたのでその残骸とやらが数億年前の物であることは理解できた。
「その噂。裏は取れているのかしら?05式のプロトタイプが動くって」
茜は表情も変えずに渋滞を抜けようと左折して裏道に入り込んだ。
「なに、ただの与太話だ。だが、アタシの情報網でも弾幕の雨の中でも正気を保てる程度の連中が目の色変えて裏を取ろうと必死になってるって話だ」
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茜は無言だった。かなめは何度か茜の表情の変化を読み取ろうとしているように見えたが、しばらくしてそれもあきらめた。かなめは頭を掻きながら根負けしたように口を開いた。
「何も答えるつもりは無いか……つまり、間違いなく言えることは何も言わずにアタシ等は法術特捜に手を貸せってことだけか」
かなめは茜の沈黙に負けて05式のプロトタイプについて聞きだすのを諦めた。現状として司法局の方針が法術特捜には人員を割くつもりが無い以上、彼女もその指示に従わざるを得なかった。
「そうしていただけると助かりますわ。噂は噂。今は目の前にある現実を受け止めて頂かないと」
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「ったく人使いが荒いねえ。叔父貴は」
「それは今に始まったことではないでしょ」
そう言って茜は笑う。かなめは耐え切れずにタバコを取り出した。
「禁煙ですわよ」
「バーカ。くわえてるだけだよ!」
そう言うとかなめは静かに目をつぶった。
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