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引っ越し
第82話 法術特捜
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「私の話なんてつまんねえだろ?良いんだぜ。とっとと忘れても」
「そんな……忘れるだなんて……すばらしいことをおっしゃいますわね、かなめお姉さま」
かなめがその声に血色を変えて振り返った先には朱色の留袖にたすきがけと言う姿の茜が立っていた。
「脅かすんじゃねえよ、あれが来たかと思ったじゃねえか!」
「かえでさんのことそんなにお嫌いなのですか?一応実の妹じゃないですの」
明らかにかなめをからかうことが楽しいと言うような表情を茜は浮かべた。かなめはその表情が憎らしいと言うように口をへの字にした後、落ち着きを取り戻そうと深呼吸をしている。
「あのなあ、アタシにゃあそう言う趣味はねえんだよ!いきなり胸広げて待ち針を差し出されて『苛めてください』なんて言われてみろ!かなり引くぞ」
タバコを携帯灰皿に押し込みながらかなめが上目遣いに茜を見る。
「そうですわね。……それにかなめさんは神前くんのこと気に入ってらっしゃるようですし」
「ちょっと待て、ちょっと待て!茜!」
小悪魔のような笑顔を浮かべると茜はかなめの汚れた雑巾を取り上げてバケツに持ち込んで洗い始めた。
「なんでオメエがいるんだ?」
「かなめさん。昨日、引越しをするとおっしゃってませんでしたか?」
茜は慣れた手つきで畳の目にそってよく絞った雑巾を動かす。
「オメエの引越しは……東都のオメエんちからだと、ここは結構遠いぞ……車じゃ渋滞するし、電車は乗り換えないとダメだし」
冷や汗を流しながらかなめが口を開く。
「お父様には以前から部屋を探していただいていたので、すでに終わってますわ。それにここに常駐するわけではありませんもの。平気ですわよ」
すばやく雑巾をひっくり返し、茜は作業を続ける。
「でもいきなり休みってのは……」
そう言うかなめに茜は一度雑巾を置いて正座をして見つめ返す。
「かなめさん……いや、西園寺大尉」
茜は視線を畳から座り込んでいるかなめに向ける。
「なんだよ」
突然の茜の正座に不思議そうにかなめが応える。
「第二小隊の皆さんには私達、法術特捜の予備人員として動いていただくことになりましたの。このくらいのお手伝いをするのは当然のことでなくて?」
沈黙する部屋。かなめはあきれ返っていた。誠はまだ茜の言葉の意味がわかりかねた。
「そんなに驚かれること無いんじゃありませんの?法術に関する公式な初の発動経験者が現場に出るということの形式的意味というものを考えれば当然ですわ。テロ組織にとって初の法術戦経験者の捜査官が目の前に立ちはだかると言う恐怖。この認識が続いているこの機に法術犯罪の根本的な予防の対策を図る。このタイミングを逃すのは愚かな人のなさることですわ」
「そりゃあわかるんだよ。あんだけテレビで流れたこいつの戦闘シーンが頭に残ってる時に叩くってのは戦術としちゃあありだからな。でも……」
かなめは不思議そうな顔で覗き込んでくる茜の視線から逃れるようにうなだれた。
「第二小隊ってことはカウラさんも入るんですか?」
今度は窓を拭きながら誠が尋ねる。
「当然ですわ。あの方には第二小隊をまとめていただかなくてはなりませんし」
そう言うと茜は再び良く絞った雑巾で丁寧に畳を撫でるように拭く。
「結局、あいつの面を年中拝むわけか」
「他には本人の要請でアメリアさんも状況分析担当で編入予定ですわ」
しばらく茜の言葉にかなめはせき込んでタバコの煙を吐き出した。しばらくしてその目は楽しそうに自分を見つめている茜へと向けられる。
「まじかよ……」
かなめは茜の言葉にただ茫然と立ち尽くしていた。
「嘘をついても仕方ありません」
茜はそれだけ言うと慣れた調子で着々と畳を拭いていた。
「そんな……忘れるだなんて……すばらしいことをおっしゃいますわね、かなめお姉さま」
かなめがその声に血色を変えて振り返った先には朱色の留袖にたすきがけと言う姿の茜が立っていた。
「脅かすんじゃねえよ、あれが来たかと思ったじゃねえか!」
「かえでさんのことそんなにお嫌いなのですか?一応実の妹じゃないですの」
明らかにかなめをからかうことが楽しいと言うような表情を茜は浮かべた。かなめはその表情が憎らしいと言うように口をへの字にした後、落ち着きを取り戻そうと深呼吸をしている。
「あのなあ、アタシにゃあそう言う趣味はねえんだよ!いきなり胸広げて待ち針を差し出されて『苛めてください』なんて言われてみろ!かなり引くぞ」
タバコを携帯灰皿に押し込みながらかなめが上目遣いに茜を見る。
「そうですわね。……それにかなめさんは神前くんのこと気に入ってらっしゃるようですし」
「ちょっと待て、ちょっと待て!茜!」
小悪魔のような笑顔を浮かべると茜はかなめの汚れた雑巾を取り上げてバケツに持ち込んで洗い始めた。
「なんでオメエがいるんだ?」
「かなめさん。昨日、引越しをするとおっしゃってませんでしたか?」
茜は慣れた手つきで畳の目にそってよく絞った雑巾を動かす。
「オメエの引越しは……東都のオメエんちからだと、ここは結構遠いぞ……車じゃ渋滞するし、電車は乗り換えないとダメだし」
冷や汗を流しながらかなめが口を開く。
「お父様には以前から部屋を探していただいていたので、すでに終わってますわ。それにここに常駐するわけではありませんもの。平気ですわよ」
すばやく雑巾をひっくり返し、茜は作業を続ける。
「でもいきなり休みってのは……」
そう言うかなめに茜は一度雑巾を置いて正座をして見つめ返す。
「かなめさん……いや、西園寺大尉」
茜は視線を畳から座り込んでいるかなめに向ける。
「なんだよ」
突然の茜の正座に不思議そうにかなめが応える。
「第二小隊の皆さんには私達、法術特捜の予備人員として動いていただくことになりましたの。このくらいのお手伝いをするのは当然のことでなくて?」
沈黙する部屋。かなめはあきれ返っていた。誠はまだ茜の言葉の意味がわかりかねた。
「そんなに驚かれること無いんじゃありませんの?法術に関する公式な初の発動経験者が現場に出るということの形式的意味というものを考えれば当然ですわ。テロ組織にとって初の法術戦経験者の捜査官が目の前に立ちはだかると言う恐怖。この認識が続いているこの機に法術犯罪の根本的な予防の対策を図る。このタイミングを逃すのは愚かな人のなさることですわ」
「そりゃあわかるんだよ。あんだけテレビで流れたこいつの戦闘シーンが頭に残ってる時に叩くってのは戦術としちゃあありだからな。でも……」
かなめは不思議そうな顔で覗き込んでくる茜の視線から逃れるようにうなだれた。
「第二小隊ってことはカウラさんも入るんですか?」
今度は窓を拭きながら誠が尋ねる。
「当然ですわ。あの方には第二小隊をまとめていただかなくてはなりませんし」
そう言うと茜は再び良く絞った雑巾で丁寧に畳を撫でるように拭く。
「結局、あいつの面を年中拝むわけか」
「他には本人の要請でアメリアさんも状況分析担当で編入予定ですわ」
しばらく茜の言葉にかなめはせき込んでタバコの煙を吐き出した。しばらくしてその目は楽しそうに自分を見つめている茜へと向けられる。
「まじかよ……」
かなめは茜の言葉にただ茫然と立ち尽くしていた。
「嘘をついても仕方ありません」
茜はそれだけ言うと慣れた調子で着々と畳を拭いていた。
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