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ハイカラなホテル
第29話 かなめの生まれた国
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「そう言えば、西園寺。この機会に神前に自分の生まれた国を紹介してやったらどうだ?」
突然、カウラが真顔でそう言った。下戸の彼女の白い頬が朱に染まっているので、それなりに酔ったうえでの言葉なのだと誠にも分かる。
「そうよね……誠ちゃんは社会常識ゼロの理系馬鹿だもんね」
アメリアまでそう言って笑うので誠は頭を掻くしかなかった。
「なんでアタシがあんな国の話をしなきゃなんねえんだよ……その前にだ。アタシの名前について話した方がいいだろ?色々面倒だから」
「さすが、『太閤殿下』ってわけね」
そう言って空いたグラスにギャルソンがワインを注ぐのを眺めているアメリアは悪戯っぽい顔でかなめを見つめた。
「名前ですか?西園寺さんて芸名なんですか?」
誠はかなめの言葉が理解できずに頓珍漢な話をした。
「なんで芸名を名乗るんだ?アタシはいつからアメリアみたいな女芸人になったんだ?」
「アタシのは『ラジオネーム』よ!」
「自慢になるか!」
二人のやり取りに誠はただ茫然とするばかりだった。
「まずだ。アタシの東和での書類上の名前は『西園寺かなめ』。ちゃんと普通に一般的な漢字の『西園寺』にひらがなで『かなめ』なわけだ」
「はあ、知ってます」
かなめの当たり前すぎる説明に誠はおずおずとそう答えた。
「だが、甲武国のパスポートには『藤原朝臣要子』となるわけだ。藤原は東和でもよくある『藤原』で、そのあとに『の』がついて、名前が重要の『要』に子供の『子』で『ようし』と読むわけだ」
「はあ……なんでなんです?」
誠にはかなめの言葉が全く理解できなかった。
「そんなもん法律でそう決まってんだからしょうがねえだろ?」
理解力の無い誠に半分呆れながらかなめはそう言ってワインを一息で飲み干した。
「さらにだ。アタシを知らない人がその名前で呼ぶのは法律違反なんだな、甲武国では」
「え?」
さらに誠の理解のリミッターに亀裂が入り始めた。
「知り合いなら別にいいんだ。でも……学校とかでは『藤太姫』と呼ぶ決まりなんだ」
「なんですか?それ?」
だんだん誠は訳が分からなくなってきた。
「あれでしょ?甲武国の貴族の半数以上は姓『藤原』なのよ。その中の一番の人物が『藤太』で、かなめちゃんは女だから『姫』……結婚すると『殿』になるんだっけ?」
アメリアはどうやらかなめのその名前の法則を理解しているようでそうサラリと言ってのける。
「まあな、つーかめんどくさいからアタシが『姫』と呼ばせてたから……甲武でアタシの周りで『姫』と言ったらアタシのこと……他の場所は知らねえけど、アタシの前では呼び捨てにするルールなの」
またもや誠には理解不能なルールがかなめから発せられた。
「しかし、軍では違うんだろ?」
カウラがそう言うということは東和でも甲武国について知っている人にとっては常識のことらしいと誠は感じて少し恥ずかしくなった。
「そうだな。軍は武家の勢力下だかんな……」
「武家?……もしかして『サムライ』ですか?」
誠はまたもや子供のような言葉を吐いていた。
「あのなあ……甲武国は『大正ロマンあふれる国』とか東和で笑われてるだろ?大正時代って言ったら……華族がいて、士族がいて、平民がいる。それが大正時代。士族は役人や軍人や警察官に優先的になれる。平民は大根飯を食って飢えてる。それが大正ロマンの真実だ」
かなめはズバリそう言い切った。
「あの……今でも甲武国の平民は『大根飯』とか言うものを食ってるんですか……っていうか『大根飯』ってどんな料理ですか?」
誠の言葉に三人の女上司は大きなため息をついた。
「甲武国はね、身分制度があるのよ……まあ、ゲルパルトも『バロン』とか『ロード』とか『ナイト』とかあって、苗字に『フォン』とかつけてる人はいるけど……甲武国ほど露骨じゃないわね」
とりあえず誠が理解したことは自分が庶民的な東和共和国に生まれてよかったということだけだった。
突然、カウラが真顔でそう言った。下戸の彼女の白い頬が朱に染まっているので、それなりに酔ったうえでの言葉なのだと誠にも分かる。
「そうよね……誠ちゃんは社会常識ゼロの理系馬鹿だもんね」
アメリアまでそう言って笑うので誠は頭を掻くしかなかった。
「なんでアタシがあんな国の話をしなきゃなんねえんだよ……その前にだ。アタシの名前について話した方がいいだろ?色々面倒だから」
「さすが、『太閤殿下』ってわけね」
そう言って空いたグラスにギャルソンがワインを注ぐのを眺めているアメリアは悪戯っぽい顔でかなめを見つめた。
「名前ですか?西園寺さんて芸名なんですか?」
誠はかなめの言葉が理解できずに頓珍漢な話をした。
「なんで芸名を名乗るんだ?アタシはいつからアメリアみたいな女芸人になったんだ?」
「アタシのは『ラジオネーム』よ!」
「自慢になるか!」
二人のやり取りに誠はただ茫然とするばかりだった。
「まずだ。アタシの東和での書類上の名前は『西園寺かなめ』。ちゃんと普通に一般的な漢字の『西園寺』にひらがなで『かなめ』なわけだ」
「はあ、知ってます」
かなめの当たり前すぎる説明に誠はおずおずとそう答えた。
「だが、甲武国のパスポートには『藤原朝臣要子』となるわけだ。藤原は東和でもよくある『藤原』で、そのあとに『の』がついて、名前が重要の『要』に子供の『子』で『ようし』と読むわけだ」
「はあ……なんでなんです?」
誠にはかなめの言葉が全く理解できなかった。
「そんなもん法律でそう決まってんだからしょうがねえだろ?」
理解力の無い誠に半分呆れながらかなめはそう言ってワインを一息で飲み干した。
「さらにだ。アタシを知らない人がその名前で呼ぶのは法律違反なんだな、甲武国では」
「え?」
さらに誠の理解のリミッターに亀裂が入り始めた。
「知り合いなら別にいいんだ。でも……学校とかでは『藤太姫』と呼ぶ決まりなんだ」
「なんですか?それ?」
だんだん誠は訳が分からなくなってきた。
「あれでしょ?甲武国の貴族の半数以上は姓『藤原』なのよ。その中の一番の人物が『藤太』で、かなめちゃんは女だから『姫』……結婚すると『殿』になるんだっけ?」
アメリアはどうやらかなめのその名前の法則を理解しているようでそうサラリと言ってのける。
「まあな、つーかめんどくさいからアタシが『姫』と呼ばせてたから……甲武でアタシの周りで『姫』と言ったらアタシのこと……他の場所は知らねえけど、アタシの前では呼び捨てにするルールなの」
またもや誠には理解不能なルールがかなめから発せられた。
「しかし、軍では違うんだろ?」
カウラがそう言うということは東和でも甲武国について知っている人にとっては常識のことらしいと誠は感じて少し恥ずかしくなった。
「そうだな。軍は武家の勢力下だかんな……」
「武家?……もしかして『サムライ』ですか?」
誠はまたもや子供のような言葉を吐いていた。
「あのなあ……甲武国は『大正ロマンあふれる国』とか東和で笑われてるだろ?大正時代って言ったら……華族がいて、士族がいて、平民がいる。それが大正時代。士族は役人や軍人や警察官に優先的になれる。平民は大根飯を食って飢えてる。それが大正ロマンの真実だ」
かなめはズバリそう言い切った。
「あの……今でも甲武国の平民は『大根飯』とか言うものを食ってるんですか……っていうか『大根飯』ってどんな料理ですか?」
誠の言葉に三人の女上司は大きなため息をついた。
「甲武国はね、身分制度があるのよ……まあ、ゲルパルトも『バロン』とか『ロード』とか『ナイト』とかあって、苗字に『フォン』とかつけてる人はいるけど……甲武国ほど露骨じゃないわね」
とりあえず誠が理解したことは自分が庶民的な東和共和国に生まれてよかったということだけだった。
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