2 / 111
事の起こりは
第2話 すっかり『クラゲだらけ』の海に行くことに
しおりを挟む
「アメリアの判断は的確だ。特に問題にはならないだろう」
カウラは喜んでいいのか呆れるべきなのか判断しかねたような困った表情でアメリアの得意顔を見つめている。
しかしそのままアメリアがニヤニヤ笑いながら顔を近づけてくるのでカウラは少しばかり後ずさった。
「カウラちゃん!あなた『近藤事件』の時、誠ちゃんに『一緒に海に行って!』て言ってたそうじゃないの……」
アメリアの一言は実働部隊の他の隊員の耳も刺激することになった。一同の視線は自然と頬を赤らめて照れるカウラへと向けられた。
「それは……」
カウラは口ごもる。見事なエメラルドグリーンの髪を頭の後ろで結んでポニーテールにしている彼女もまた戦闘用人造人間『ラストバタリオン』である。比較的表情が希薄なところから彼女は少し人造人間らしく見えた。そんなカウラが珍しく顔を赤らめ羞恥の表情を浮かべている。
誠はそんなカウラを見ながら冷や汗をかきながら机に突っ伏した。
先月、配属になったばかりの誠はすぐに実戦を経験することになった。
遼州星系第四惑星を領有する国家、『甲武国』の貴族主義者の過激派、近藤貴久中佐によるクーデター未遂事件。遼州同盟司法局実働部隊隊は奇襲作戦を仕掛け、数に勝る決起軍を撃破した。その作戦中の緊張感を思い出しながら誠はカウラの横顔を眺めた。
気丈な性格、それでいてどこかはかなげで、目を離せばどこかへ消えてしまいそうな印象のあるカウラとの約束。思い出すと恥ずかしくて身もだえてしまうような気分になる。
満足げに誠の隣まで歩み寄ってきたアメリアの姿を見ると、机の上で書類の束にハンコを押していた小学校低学年にしか見えない実働部隊副長、クバルカ・ラン中佐はそのまま立ち上がった。
誠がここ数日で知ったことと言えばランは典型的なアメリアの妄想話や馬鹿話を勝手に広められた被害者である。東和国防省の女性職員の間ではランは『フィギュアのランちゃん』として常に人形を隠し持って事あるごとに独り言をつぶやいている幼女と言う根も葉もない噂が広まっていた。
むしろ誠はには、日常を着流し姿に雪駄、白鞘を手に悠然と町を練り歩いている姿の写真がなぜ出回らないのか不思議だった。
『任侠団体』の組事務所に『客分』として居候をしていて、彼等からただ飯ただ酒の接待を受けて暮らしているという目に見える『リアル』方がよっぽど面白いとは思っていたが、暴力団対策新法の施行されている時代には少し不祥事の匂いがするからだろうとなんとなく納得していた。
「実はね、これは先週のゲリラライブの慰労会も兼ねてるわけよ。あの時の誠ちゃんの『萌え萌えビラ』が大好評で……そっち系のオタク達がひそかに私達の情報を拡散してくれているのよ……まあ、ネタが下品すぎて放送禁止だっていう意見が大半だけど」
「海か?行ってこいや。どうせ9月まで海水浴場やってんだから。なんなら軟式野球部の夏合宿でもいいぞ」
ランがいつも通り将棋盤から目を離さずにそう言うと、アメリアは大きくうなづいて周りを見回した。
「じゃあ、機動部隊は全員参加でいいわね!」
そう言うとアメリアは機動部隊詰め所を後にしようとした。
「ああ、アタシは仕事だかんな!」
ランが軽く手を挙げながらつぶやく。
「えー!ランちゃんいないの?」
いかにも残念そうなアメリアの叫びが部屋に響く。
「副隊長は大変なんだよ、いろいろと。まあ楽しんで来いや」
ランは腕組みしながら満面の笑みでつぶやく。
「仕事なら仕方ないわね。機動部隊は一名欠員……っと」
アメリアはそう言って手元のメモ帳に印をつけた。
カウラは喜んでいいのか呆れるべきなのか判断しかねたような困った表情でアメリアの得意顔を見つめている。
しかしそのままアメリアがニヤニヤ笑いながら顔を近づけてくるのでカウラは少しばかり後ずさった。
「カウラちゃん!あなた『近藤事件』の時、誠ちゃんに『一緒に海に行って!』て言ってたそうじゃないの……」
アメリアの一言は実働部隊の他の隊員の耳も刺激することになった。一同の視線は自然と頬を赤らめて照れるカウラへと向けられた。
「それは……」
カウラは口ごもる。見事なエメラルドグリーンの髪を頭の後ろで結んでポニーテールにしている彼女もまた戦闘用人造人間『ラストバタリオン』である。比較的表情が希薄なところから彼女は少し人造人間らしく見えた。そんなカウラが珍しく顔を赤らめ羞恥の表情を浮かべている。
誠はそんなカウラを見ながら冷や汗をかきながら机に突っ伏した。
先月、配属になったばかりの誠はすぐに実戦を経験することになった。
遼州星系第四惑星を領有する国家、『甲武国』の貴族主義者の過激派、近藤貴久中佐によるクーデター未遂事件。遼州同盟司法局実働部隊隊は奇襲作戦を仕掛け、数に勝る決起軍を撃破した。その作戦中の緊張感を思い出しながら誠はカウラの横顔を眺めた。
気丈な性格、それでいてどこかはかなげで、目を離せばどこかへ消えてしまいそうな印象のあるカウラとの約束。思い出すと恥ずかしくて身もだえてしまうような気分になる。
満足げに誠の隣まで歩み寄ってきたアメリアの姿を見ると、机の上で書類の束にハンコを押していた小学校低学年にしか見えない実働部隊副長、クバルカ・ラン中佐はそのまま立ち上がった。
誠がここ数日で知ったことと言えばランは典型的なアメリアの妄想話や馬鹿話を勝手に広められた被害者である。東和国防省の女性職員の間ではランは『フィギュアのランちゃん』として常に人形を隠し持って事あるごとに独り言をつぶやいている幼女と言う根も葉もない噂が広まっていた。
むしろ誠はには、日常を着流し姿に雪駄、白鞘を手に悠然と町を練り歩いている姿の写真がなぜ出回らないのか不思議だった。
『任侠団体』の組事務所に『客分』として居候をしていて、彼等からただ飯ただ酒の接待を受けて暮らしているという目に見える『リアル』方がよっぽど面白いとは思っていたが、暴力団対策新法の施行されている時代には少し不祥事の匂いがするからだろうとなんとなく納得していた。
「実はね、これは先週のゲリラライブの慰労会も兼ねてるわけよ。あの時の誠ちゃんの『萌え萌えビラ』が大好評で……そっち系のオタク達がひそかに私達の情報を拡散してくれているのよ……まあ、ネタが下品すぎて放送禁止だっていう意見が大半だけど」
「海か?行ってこいや。どうせ9月まで海水浴場やってんだから。なんなら軟式野球部の夏合宿でもいいぞ」
ランがいつも通り将棋盤から目を離さずにそう言うと、アメリアは大きくうなづいて周りを見回した。
「じゃあ、機動部隊は全員参加でいいわね!」
そう言うとアメリアは機動部隊詰め所を後にしようとした。
「ああ、アタシは仕事だかんな!」
ランが軽く手を挙げながらつぶやく。
「えー!ランちゃんいないの?」
いかにも残念そうなアメリアの叫びが部屋に響く。
「副隊長は大変なんだよ、いろいろと。まあ楽しんで来いや」
ランは腕組みしながら満面の笑みでつぶやく。
「仕事なら仕方ないわね。機動部隊は一名欠員……っと」
アメリアはそう言って手元のメモ帳に印をつけた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
アルビオン王国宙軍士官物語(クリフエッジシリーズ合本版)
愛山雄町
SF
ハヤカワ文庫さんのSF好きにお勧め!
■■■
人類が宇宙に進出して約五千年後、地球より数千光年離れた銀河系ペルセウス腕を舞台に、後に“クリフエッジ(崖っぷち)”と呼ばれることになるアルビオン王国軍士官クリフォード・カスバート・コリングウッドの物語。
■■■
宇宙暦4500年代、銀河系ペルセウス腕には四つの政治勢力、「アルビオン王国」、「ゾンファ共和国」、「スヴァローグ帝国」、「自由星系国家連合」が割拠していた。
アルビオン王国は領土的野心の強いゾンファ共和国とスヴァローグ帝国と戦い続けている。
4512年、アルビオン王国に一人の英雄が登場した。
その名はクリフォード・カスバート・コリングウッド。
彼は柔軟な思考と確固たる信念の持ち主で、敵国の野望を打ち砕いていく。
■■■
小説家になろうで「クリフエッジシリーズ」として投稿している作品を合本版として、こちらでも投稿することにしました。
■■■
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しております。
落ちこぼれ聖女と、眠れない伯爵。
椎名さえら
恋愛
お前なんていらない
と放り出された落ちこぼれ聖女候補、フィオナ。
生き延びるために【ちから】を隠していた彼女は
顔も見たことがない父がいるはずの隣国で【占い師】となった。
貴族の夜会で占いをして日銭を稼いでいる彼女は
とある影のある美青年に出会う。
彼に触れると、今まで見たことのない【記憶】が浮かび上がる。
訳あり聖女候補が、これまた訳あり伯爵と出会って、
二人の運命が大きく変わる話。
現実主義な元聖女候補✕不憫イケメン不眠症伯爵
※5月30日から二章を連載開始します(7時&19時)が
私生活多忙のため、感想欄は閉じたままにさせていただきます
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/sf.png?id=74527b25be1223de4b35)
乾坤一擲
響 恭也
SF
織田信長には片腕と頼む弟がいた。喜六郎秀隆である。事故死したはずの弟が目覚めたとき、この世にありえぬ知識も同時によみがえっていたのである。
これは兄弟二人が手を取り合って戦国の世を綱渡りのように歩いてゆく物語である。
思い付きのため不定期連載です。
ヒナの国造り
市川 雄一郎
SF
不遇な生い立ちを持つ少女・ヒナこと猫屋敷日奈凛(ねこやしき・ひなりん)はある日突然、異世界へと飛ばされたのである。
飛ばされた先にはたくさんの国がある大陸だったが、ある人物から国を造れるチャンスがあると教えられ自分の国を作ろうとヒナは決意した。
レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞
橋本 直
SF
地球人類が初めて地球外人類と出会った辺境惑星『遼州』の連合国家群『遼州同盟』。
その有力国のひとつ東和共和国に住むごく普通の大学生だった神前誠(しんぜんまこと)。彼は就職先に困り、母親の剣道場の師範代である嵯峨惟基を頼り軍に人型兵器『アサルト・モジュール』のパイロットの幹部候補生という待遇でなんとか入ることができた。
しかし、基礎訓練を終え、士官候補生として配属されたその嵯峨惟基が部隊長を務める部隊『遼州同盟司法局実働部隊』は巨大工場の中に仮住まいをする肩身の狭い状況の部隊だった。
さらに追い打ちをかけるのは個性的な同僚達。
直属の上司はガラは悪いが家柄が良いサイボーグ西園寺かなめと無口でぶっきらぼうな人造人間のカウラ・ベルガーの二人の女性士官。
他にもオタク趣味で意気投合するがどこか食えない女性人造人間の艦長代理アイシャ・クラウゼ、小さな元気っ子野生農業少女ナンバルゲニア・シャムラード、マイペースで人の話を聞かないサイボーグ吉田俊平、声と態度がでかい幼女にしか見えない指揮官クバルカ・ランなど個性の塊のような面々に振り回される誠。
しかも人に振り回されるばかりと思いきや自分に自分でも自覚のない不思議な力、「法術」が眠っていた。
考えがまとまらないまま初めての宇宙空間での演習に出るが、そして時を同じくして同盟の存在を揺るがしかねない同盟加盟国『胡州帝国』の国権軍権拡大を主張する独自行動派によるクーデターが画策されいるという報が届く。
誠は法術師専用アサルト・モジュール『05式乙型』を駆り戦場で何を見ることになるのか?そして彼の昇進はありうるのか?
雪原脳花
帽子屋
SF
近未来。世界は新たな局面を迎えていた。生まれてくる子供に遺伝子操作を行うことが認められ始め、生まれながらにして親がオーダーするギフトを受け取った子供たちは、人類の新たなステージ、その扉を開くヒトとしてゲーターズ(GATERS=GiftedAndTalented-ers)と呼ばれた。ゲーターズの登場は世界を大きく変化させ、希望ある未来へ導く存在とされた。
希望の光を見出した世界の裏側で、存在情報もなく人間として扱われず組織の末端で働く黒犬と呼ばれ蔑まれていたジムは、ある日、情報部の大佐に猟犬として拾われ、そこで極秘裏に開発されたアズ(AZ)を用いる実験部隊となった。AZとは肉体を人間で構築し、その脳に共生AIであるサイ(SAI)を搭載した機械生物兵器、人工の子供たちだった。ジムは配備された双子のAZとともに、オーダーに従い表裏の世界を行き来する。
光の中の闇の王、食えない機械の大佐、変質的な猫、消えた子供、幽霊の尋ね人。
AIが管理する都市、緑溢れる都市に生まれ変わった東京、2.5次元バンド、雪原の氷花、彷徨う音楽、双子の声と秘密。
曖昧な世界の境界の淵から光の世界を裏から眺めるジムたちは何を見て何を聴き何を求めるのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/sf.png?id=74527b25be1223de4b35)
魔法刑事たちの事件簿
アンジェロ岩井
SF
魔法が空想のものではなく、現実にあるものだと認められ、浸透していった2329年。日本共和国の首都ビッグ・トーキョー
郊外にある白籠市は地元を支配するヤクザ・刈谷阿里耶(かりたにありや)に支配され、町の人々は苦しめられていた。彼はタバコや酒等を自由自在に売り捌き、賄賂や脅迫で地元の警察官すら意のままに操っていた。
また、彼は逆らう人間には自身か部下の強力な魔法で次々と街から人を消していく。
そんな中ビッグ・トーキョーの連邦捜査局から一人の女性が派遣された。
彼女の名前は折原絵里子。警察庁の連邦捜査官であり、彼女は刈谷に負けないくらいの強力な魔法を有していたが、何せ暑苦しい正義感のために派遣された地元の警察官からは、疎まれていた。
そんな時に彼女は一人の若い警官と出会った。彼女は若い警官との出会いをキッカケに刈谷の逮捕へと走っていく。
そして、魔法による凶悪事件を防ぐために、日夜白籠市のアンタッチャブルは奔走して行く……。
お気に入り登録と感想を書いていただければ、作者はとても幸せな気分になります!
もし、この作品を楽しんでいただけたのならば、どちらを。或いは両方をしていただければ、作者はとても幸せな気分になります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる