上 下
185 / 187
力に目覚めるということ

第185話 『廃帝ハド』の野望

しおりを挟む
「まあ、アタシの過去はこのくらいにして……テメーだよな問題なのは」

 ランはそう言うと少し照れたように頬を搔いた。

「僕が……なにか?」

 戸惑ったような誠の問いにランは仕方ないというようにため息をついた後、語り始めた。

「全部わかってたんだ。オメーがあんな化け物じみた力を持ってることはな」

 ランの言葉は半分は予想のついた言葉だった。こんなにパイロットに向かない自分にパイロットをやらせるには何か理由があるとは誠も感じていた。

「母さんから聞いたんですね……僕が『法術師』とか呼ばれる存在だってことを」

 誠は一語一語確かめるようにしてランにそう言った。

「そーだ。オメーは実はかなり前から遼州同盟の加盟国や地球圏の政府から目をつけられてたんだ。ひでー話だが、オメーは8歳の時からプライバシーゼロの環境に置かれていたんだ」

 少し悲しげなランの言葉に誠は驚きを隠せなかった。

「考えてもみろ。立った一撃で戦艦を撃破できる能力や、瞬時に移動できてしまう『干渉空間』を展開する能力。どっちも悪用しようとすれば大変なことになる。だから、どの政府もその存在を公にせずにひそかにその能力者を監視していた……」

 確かにランの言うとおりだった。あのような力があちこちに野放しになれば戦争どころの話ではないことくらい誠にも考えが付く。

「オメーの親父がオメーに剣道を辞めさせたのが八歳。それを進言したのが隊長だ」

「隊長が?余計目立つようになるからですか?」

 誠はそう言って難しい顔をした。

「気合で面を入れたら相手が真っ二つになったなんてのはシャレにならねーだろ?今のオメーは05式乙の法術増幅装置無しではただの無能だが、いずれはそれなしに法術を発動できるようになる……」

 静かなランの言葉だが、誠にはその言葉の意味が分かりすぎるくらい分かった。

「実は、最近こうして各政府が追っていた『潜在的法術師』が行方不明になる事件が多発してるんだ。誰かが何かを目的として『法術師』を集めている……としか思えねー」

 ランの表情が厳しい色を帯びてくる。

「一つの勢力じゃねーな。実際、同盟司法局も『潜在的法術師』を集めていたのは事実だし……例えばオメーな」

 そう言ってランは腕組みをしながら誠を見上げた。

「そんな勢力の中で一番ヤベーのが……『廃帝ハド』だ」

「『廃帝ハド』?」

 誠はその言葉に聞き覚えがあまりなかった。

「かつて遼帝国建国後100年の鎖国を解かせた暴君……奴を遼州の大地に封じて国が開いたときは遼帝国は見る影もなく荒れ果てていたという話だ……力のあるものが力のないものを支配する帝国を作ること。遼帝国一国ではできなくても遼州権や地球圏を巻き込んで多くの国の利害の隙間を縫うように立ち振る舞えばできねー話じゃねーんだ」

 そんなランの恐ろしい言葉に誠は身震いした。

「隊長はオメーには逃げろって言うかもしれねー。アタシもそれは当然だと思う。しかし……アタシ等じゃ対処しきれねーこともある。神前!力を貸してくれ!」

 かわいらしいランは強い眼力で誠をにらみつけながらそう叫んだ。

 誠は静かにうなづきながら自分が持って生まれてしまった力の重さについて考えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんの装備でダンジョン配信

高瀬ユキカズ
ファンタジー
レベル1なのに、ダンジョンの最下層へ。脱出できるのか!? ダンジョンが現代に現れ、ライブ配信が当たり前になった世界。 強さに応じてランキングが発表され、世界的な人気を誇る配信者たちはワールドクラスプレイヤーと呼ばれる。 主人公の筑紫春菜はワールドクラスプレイヤーを兄に持つ中学2年生。 春菜は兄のアカウントに接続し、SSS級の激レア装備である【神王の装備フルセット】を持ち出してライブ配信を始める。 最強の装備を持った最弱の主人公。 春菜は視聴者に騙されて、人類未踏の最下層へと降り立ってしまう。しかし、危険な場所に来たことには無自覚であった。ろくな知識もないまま攻略し、さらに深い階層へと進んでいく。 無謀とも思える春菜の行動に、閲覧者数は爆上がりする。

ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三
SF
※本作はフィクションです。実在の人物や団体、および事件等とは関係ありません。 ※本作は海洋生物の座礁漂着や迷入についての記録や資料ではありません。 ※本作には犯罪・自殺等の描写がありますが、これらの行為を推奨するものではありません。 ※本作はノベルアップ+様でも同様の内容で掲載しております。  西暦二〇五六年、地表から高度八〇〇キロの低軌道上に巨大宇宙ステーション「ルナ・ヘヴンス」が完成した。  宇宙開発競争で優位に立つため、日本政府は「ルナ・ヘヴンス」への移住、企業誘致を押し進めた。  その結果、完成から半年後には「ルナ・ヘヴンス」の居住者は百万にも膨れ上がった。  しかしその半年後、何らかの異常により「ルナ・ヘヴンス」は軌道を外れ、いずこかへと飛び去った。  地球の人々は「ルナ・ヘヴンス」の人々の生存を絶望視していた。  しかし、「ルナ・ヘヴンス」の居住者達は諦めていなかった。  一七年以上宇宙空間を彷徨った後、居住可能と思われる惑星を見つけ「ルナ・ヘヴンス」は不時着した。  少なくない犠牲を出しながらも生き残った人々は、惑星に「エクザローム」と名をつけ、この地を切り拓いていった。  それから三〇年……  エクザロームで生まれ育った者たちの上の世代が続々と成長し、社会の支え手となっていった。  エクザロームで生まれた青年セス・クルスも社会の支え手の仲間入りを果たそうとしていた。  職業人の育成機関である職業学校で発電技術を学び、エクザローム第二の企業アース・コミュニケーション・ネットワーク社(以下、ECN社)への就職を試みた。  しかし、卒業を間近に控えたある日、セスをはじめとした多くの学生がECN社を不採用となってしまう。  そこでセスは同じくECN社を不採用となった仲間のロビー・タカミから「兄を探したらどうか」と提案される。  セスは自分に兄がいるらしいということを亡くなった育ての父から知らされていた。  セスは赤子のときに育ての父に引き取られており、血のつながった家族の顔や姿は誰一人として知らない。  兄に関する手がかりは父から渡された古びた写真と記録ディスクだけ。  それでも「時間は売るほどある」というロビーの言葉に励まされ、セスは兄を探すことを決意した。  こうして青年セス・クルスの兄を探す旅が始まった……

朝起きたら女体化してました

たいが
恋愛
主人公の早乙女駿、朝起きると体が... ⚠誤字脱字等、めちゃくちゃあります

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

フラクタル・スクラッチャーズ

おくむらなをし
SF
VR空間で視覚的なプログラミングができるようになった。 私は開発チームの一員として、プログラミング・ソフトの動作テストを進めている。 だけど変人の社長が余計な機能を実装した。バグが可視化され、VR空間を勝手に動き回るのだ。 バグ退治に追われて全然業務が進まない! これは、私と私のチームの、バグ退治と仕様変更との戦いの記録。 ◇この作品はフィクションです。全27話、完結済み。

VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ
SF
一人暮らしの女子高生、立花明輝(たちばなあきら)は道に迷っていた女性を助けた後日、自宅に謎の荷物が届く。開けてみると、中身は新型の高級VRドライブとプレイヤーがモンスターになれると言う話題の最新ゲーム『Creaturess Union』だった。 早速ログインした明輝だったが、何も知らないまま唯一選んではいけないハズレキャラに手を出してしまう。 リセットができないので、落ち込むところ明輝は持ち前の切り替えの速さと固有スキル【キメラハント】で、倒した敵モンスターから次々能力を奪っていって……。 ハズレキャラでも欲しい能力は奪っちゃえ! 少し個性の強い仲間と共に、let'sキメラハント生活! ※こちらの作品は、小説家になろうやカクヨムでも投稿しております。 個性が強すぎる仲間のせいで、かなり効率厨になる時があります。そういう友達が劇中に登場するので、ゲーム的な展開からかけ離れる時があります。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

処理中です...