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『駄目人間』の先読みの『一手』
第108話 『流罪』そして『餓死』
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嵯峨は話を続けた。
「第六艦隊司令の本間中将は軍の政治干渉には否定的な人だが、そこの参謀室には『官派』の連中がでかい顔しててね。ああ、『官派』と言ってもお前さんは知らないか。甲武じゃ貴族趣味のいけ好かない連中のことをそう言うわけだ」
そう言うと苦笑いを浮かべてタバコを咥えるさが。そして彼は話を続ける。
「まあその貴族趣味の連中がちょっとおかしな動きしてるんで、ある人物の『素性』をリークして、どう言う反応が出るか試してみたんだ。そしたらまんまと食いついてきやがってね」
「誰の情報をリークしたんですか?」
すかさず誠はそうたずねた。
「お前さんのだよ」
嵯峨は表情も変えずにそう答えた。あまりにも唐突な言葉に誠は息を呑む。だが嵯峨の表情は変わらない。
「そんな僕に何か変わったことでも?」
自分はただの一般的な遼州人であると誠は思っていた。
剣道場主の母と全寮制私立高教員の父の間に生まれた普通の理系高学歴、誠はそう自覚していた。
そんな国や組織が求めるような力は無いと思っている。確かに脳波に一部、他の人類には見られない特徴的な波動が有ると言われたことはある。
また神前という苗字は『遼帝国』の『帝室』が東和共和国に『亡命』した人達の末裔だとされるが、誠の家は普通の家庭である。奇習と呼ばれるものは何もない。
東和宇宙軍に入隊した時も特に変わったところはなかった。
『この脳波は……遼州人に時々あるんだよね、この異常な波動』
入隊時の身体検査で脳波を見ていた医者が言ったのはそれだけだった。誠はそれがどういう意味かは理解していなかった。ただ何かある。誠は嵯峨の様子にそう確信した。
嵯峨はさらに続けた。
「その人物は『あるシステム』を起動するキーになる可能性があるってのが、『その筋』の専門家の一致した見解だ。俺はそいつがモルモットにされるのがかわいそうで部隊に引き取ったんだが……まあいいか、そんなことは」
そう言うと嵯峨はタバコを灰皿に放り込む。
「あるシステム?何ですか?精神波動システムとか、ちょっと眉唾の話ばっかり聞いていたんで」
「俺は文系でね、そう言ったことは専門家……うちなら技術部の野郎の士官の誰かに聞けば分かるかも知れんがね。俺、そう言うの興味ねえんだ。まあ連中が機嫌がいい時に聞いてみろや」
相変わらず、誠の目の前では嵯峨は『若いツバメ風駄目人間』だった。
そんな嵯峨の表情が急に緊張感を帯びたものに変わった。
「それより今回の演習はデブリの多い宙域での『05式特戦』の運用訓練……と言うのは建前で、実際の狙いは『官派』を狩りだすこと。特に武闘派として知られる第六艦隊参謀部副部長、近藤忠久中佐の首を取ることだ」
「近藤中佐の首を取る……」
『駄目人間』の言いだした『好戦的』な言葉に、この『特殊な部隊』が、本来『機動兵器を所有する特殊部隊』である事実を誠に再認識させた。
嵯峨はそう言うと派手に煙を吐き出した。
「それだけじゃない、出来れば第六艦隊の連中に身柄の確保をされる前に内密に動く必要があるな……近藤さんが派手に動くと甲武国の特別ルールの『連座制』でやたらと死人が出そうなんだわ」
目の前の『稀代の策謀家』は誠の目の前で本来の姿を現した。
「第六艦隊提督の本間中将も馬鹿じゃない。艦隊の意に沿わない危険な行動を取る前に、近藤を更迭する可能性がある。本間中将は部下の不始末を闇に葬るくらいの芸当はできる御仁だ……まあ上に立つ人間というものはみんなそんなもんだ。そうなりゃ甲武国の『連座制』で近藤の配下の一族郎党、家族親類まで全員全財産没収の上、『流罪』だ」
早口に嵯峨はそう話す。内容は完全に司法局の権限を逸脱しかねない内容である。
そんなことを一士官候補生に話してみせる嵯峨の頭の中が読みきれなくて、誠はただ戸惑っていた。
「『流罪』……」
誠は意味も分からずそう言った。
「甲武の『流罪』は半端じゃねえぞ。まるで江戸時代以前のそれだ。一か月生き延びられたら奇跡だからな。ほとんどは半年で餓死」
「餓死?」
そう言う誠には甲武の仕組みがいまだに理解できずにいた。
「そうだよ。国賊は餓死して当然ってのが甲武国だ。ひでえもんだ。国を批判する貴族は全員餓死。それが甲武。まあ、餓死よりも女はひどい目に逢うんだが……それは言わねえほうがいいか……」
嵯峨の言葉に誠は息をのんだ。甲武国の闇を見た誠はただ黙り込むばかりだった。
「そういう所なんだよ……宇宙なんてのは。息するだけでも税金がかかる。だったら手っ取り早く『餓死』させれば、誰も手を汚さずに良心も傷まない。そんなところなんだ……この空の向こうはね」
そう言って天を見上げる嵯峨を誠はじっと見つめていた。
「東和共和国に生まれたことを感謝しな……ひどいところに生まれようもんなら……死んで当然なのが世の中なんだ……あんまりな話じゃないの」
嵯峨のあきらめたような言葉を聞いて誠はただ自分の世間知らずぶりに唖然とするだけだった。
「第六艦隊司令の本間中将は軍の政治干渉には否定的な人だが、そこの参謀室には『官派』の連中がでかい顔しててね。ああ、『官派』と言ってもお前さんは知らないか。甲武じゃ貴族趣味のいけ好かない連中のことをそう言うわけだ」
そう言うと苦笑いを浮かべてタバコを咥えるさが。そして彼は話を続ける。
「まあその貴族趣味の連中がちょっとおかしな動きしてるんで、ある人物の『素性』をリークして、どう言う反応が出るか試してみたんだ。そしたらまんまと食いついてきやがってね」
「誰の情報をリークしたんですか?」
すかさず誠はそうたずねた。
「お前さんのだよ」
嵯峨は表情も変えずにそう答えた。あまりにも唐突な言葉に誠は息を呑む。だが嵯峨の表情は変わらない。
「そんな僕に何か変わったことでも?」
自分はただの一般的な遼州人であると誠は思っていた。
剣道場主の母と全寮制私立高教員の父の間に生まれた普通の理系高学歴、誠はそう自覚していた。
そんな国や組織が求めるような力は無いと思っている。確かに脳波に一部、他の人類には見られない特徴的な波動が有ると言われたことはある。
また神前という苗字は『遼帝国』の『帝室』が東和共和国に『亡命』した人達の末裔だとされるが、誠の家は普通の家庭である。奇習と呼ばれるものは何もない。
東和宇宙軍に入隊した時も特に変わったところはなかった。
『この脳波は……遼州人に時々あるんだよね、この異常な波動』
入隊時の身体検査で脳波を見ていた医者が言ったのはそれだけだった。誠はそれがどういう意味かは理解していなかった。ただ何かある。誠は嵯峨の様子にそう確信した。
嵯峨はさらに続けた。
「その人物は『あるシステム』を起動するキーになる可能性があるってのが、『その筋』の専門家の一致した見解だ。俺はそいつがモルモットにされるのがかわいそうで部隊に引き取ったんだが……まあいいか、そんなことは」
そう言うと嵯峨はタバコを灰皿に放り込む。
「あるシステム?何ですか?精神波動システムとか、ちょっと眉唾の話ばっかり聞いていたんで」
「俺は文系でね、そう言ったことは専門家……うちなら技術部の野郎の士官の誰かに聞けば分かるかも知れんがね。俺、そう言うの興味ねえんだ。まあ連中が機嫌がいい時に聞いてみろや」
相変わらず、誠の目の前では嵯峨は『若いツバメ風駄目人間』だった。
そんな嵯峨の表情が急に緊張感を帯びたものに変わった。
「それより今回の演習はデブリの多い宙域での『05式特戦』の運用訓練……と言うのは建前で、実際の狙いは『官派』を狩りだすこと。特に武闘派として知られる第六艦隊参謀部副部長、近藤忠久中佐の首を取ることだ」
「近藤中佐の首を取る……」
『駄目人間』の言いだした『好戦的』な言葉に、この『特殊な部隊』が、本来『機動兵器を所有する特殊部隊』である事実を誠に再認識させた。
嵯峨はそう言うと派手に煙を吐き出した。
「それだけじゃない、出来れば第六艦隊の連中に身柄の確保をされる前に内密に動く必要があるな……近藤さんが派手に動くと甲武国の特別ルールの『連座制』でやたらと死人が出そうなんだわ」
目の前の『稀代の策謀家』は誠の目の前で本来の姿を現した。
「第六艦隊提督の本間中将も馬鹿じゃない。艦隊の意に沿わない危険な行動を取る前に、近藤を更迭する可能性がある。本間中将は部下の不始末を闇に葬るくらいの芸当はできる御仁だ……まあ上に立つ人間というものはみんなそんなもんだ。そうなりゃ甲武国の『連座制』で近藤の配下の一族郎党、家族親類まで全員全財産没収の上、『流罪』だ」
早口に嵯峨はそう話す。内容は完全に司法局の権限を逸脱しかねない内容である。
そんなことを一士官候補生に話してみせる嵯峨の頭の中が読みきれなくて、誠はただ戸惑っていた。
「『流罪』……」
誠は意味も分からずそう言った。
「甲武の『流罪』は半端じゃねえぞ。まるで江戸時代以前のそれだ。一か月生き延びられたら奇跡だからな。ほとんどは半年で餓死」
「餓死?」
そう言う誠には甲武の仕組みがいまだに理解できずにいた。
「そうだよ。国賊は餓死して当然ってのが甲武国だ。ひでえもんだ。国を批判する貴族は全員餓死。それが甲武。まあ、餓死よりも女はひどい目に逢うんだが……それは言わねえほうがいいか……」
嵯峨の言葉に誠は息をのんだ。甲武国の闇を見た誠はただ黙り込むばかりだった。
「そういう所なんだよ……宇宙なんてのは。息するだけでも税金がかかる。だったら手っ取り早く『餓死』させれば、誰も手を汚さずに良心も傷まない。そんなところなんだ……この空の向こうはね」
そう言って天を見上げる嵯峨を誠はじっと見つめていた。
「東和共和国に生まれたことを感謝しな……ひどいところに生まれようもんなら……死んで当然なのが世の中なんだ……あんまりな話じゃないの」
嵯峨のあきらめたような言葉を聞いて誠はただ自分の世間知らずぶりに唖然とするだけだった。
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