上 下
75 / 187
『悪党の狩場』

第75話 『駄目人間』のけじめ

しおりを挟む
「舐めんじゃねえぞ糞餓鬼。東都警察がテメエの配下の下部組織を四つ潰して台所が火の車だってことは分かってるんだよ。どうせこのまま行ったら次の旦那衆の会合次第で、そこに飾ってある家族ともども地球の地中海で魚の餌になる予定なんだろ?今のテメエならカネの為なら何でもすることくらいお見通しだよ。な・め・る・な・よ」

 嵯峨の言葉は深い重みをもっていた。表情を変えずにそれを聞くカルヴィーノの肩がかすかに震えていた。

 カルヴィーノは静かに乱れた金色の前髪を血にぬれた手で撫で付けている。それを見ると冷たい笑みを浮かべた嵯峨が言葉を続けた。

「カネに困ったおまえさんは手っ取り早くカネになりそうな博打に出たわけだ。東和共和国以外の金持ちの政府関係者が探している俺達『法術師』を捕まえて売れば、当然、相当なカネになる」

 そう言いながら嵯峨は怯えるカルヴィーノを無視して今度は壁に掛けられた絵に視線を飛ばす。

「それも一番、カネになるのはその異能力者、俺達『法術師』を、生きたまま捕獲する。そうすれば、一気に旦那衆から土下座されてトップになれる。そうオメエさんは考えたが……相手が悪かったな」 

 嵯峨はそう言い終わると胸のポケットから軍用タバコ『錦糸』を取り出した。

「この部屋は禁煙ですよ。大佐殿」 

 青ざめた顔をしながらも、東都の地球系マフィアを統べるボスとしてのプライドから、カルヴィーノは引きつった笑みを浮かべながらそう言った。

「オメエはタバコはやらねえんだったよな。まったく『この業界』で禁煙主義なんてつまんねえ人生送ったな。『同業者』としては理解不能だ」 

 嵯峨はカルヴィーノの言葉を無視してタバコに火をつける。カルヴィーノは肩を落として嵯峨の姿をただ見つめていた。

「どうせ何も話すつもりは無いんだろ?地球系マフィアのその忠誠心はいつも感心させられるよ。遼州系のチンピラにも教えてやってくれよ、その『美徳』を」 

 そんな嵯峨の皮肉にピクリとカルヴィーノはこめかみを動かした。

「まあここでテメエを斬ってやってもいいんだが……」

「斬らないのか?珍しいことだ」

 苦々しげに呟くカルヴィーノに嵯峨は不敵な笑みで応える。

「テメエは生かしといた方が面白いからな。当局にテメエの身柄がある限りテメエの家族の安全ははどうなるかわからない……」

 そう言って嵯峨は憐れむような笑みをカルヴィーノに投げかける。

 カルヴィーノはムキになったように嵯峨の手を振りほどいた。

「言うな!」

 嵯峨の手から解放されたカルヴィーノは、思いつめたような表情を浮かべてネクタイを締めなおす。。

「まあ、落ちた『極道の行先』はどこでも『地獄』って決まってるんだ。完全黙秘で刑期を終えりゃあ女房の葬式には間に合うだろ」

 嵯峨がそこまで言った時、アメリア貴下の運航部の女性隊員達がそれぞれ小銃を手に部屋になだれ込んでくる。

「動くな!」

 長身のアメリアが手にした拳銃を素早く構えてカルヴィーノの額を狙う。

「おお、ご苦労さん。まあ、これから完全黙秘を貫こうとする『アウトロー世界の勇者』だ。丁寧に扱ってくれよ」

 嵯峨の言葉を聞くとアメリアの部下達の『自称女芸人』はカルヴィーノを引き立てて部屋を出ていく。

「一件落着ってことか……いや、これからが問題か……」

 嵯峨はそう言うとゆっくりと刀を鞘に収めた。

「クラウゼ、あとは頼むわ」

「了解しました」

 紺色の髪に青いベレー帽をかぶった指揮官らしい姿のアメリアに嵯峨はそう言った。

 彼はタバコを咥えたままこの店の『真の主』がいた部屋を後にした。

「こちらのカードは順調に良い手になるように集まってる……さあ、『ネオナチ』の旦那。そっちのカードの手は何だろうな……」

 そうつぶやくと嵯峨は煙草の煙を天井に向けて吐いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者パーティを追放されかけた魔法剣士は、昭和バブルの夢を見るか?

石のやっさん
ファンタジー
パーティーでお荷物扱いされていた俺は、とうとう勇者でありパーティーリーダーのガイアにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全員がガイアに賛成で、居場所がどこにもないことを悟った。 余りのショックで、頭痛が起きて気を失った。 そして、俺は…前世の自分を思い出した。 その結果『仲間達が正しい』と理解してしまった。 そんな俺がとった行動は… ちょっと変わった『ざまぁ』の方法を書いてみたくてチャレンジです。 最初の1話は「自分の作品からアレンジしました」 大きく物語が変わるのは2話からです。 今度の主人公の前世は…昭和生まれです

SFゲームの世界に転移したけど物資も燃料もありません!艦隊司令の異世界宇宙開拓紀

黴男
SF
数百万のプレイヤー人口を誇るオンラインゲーム『SSC(Star System Conquest)』。 数千数万の艦が存在するこのゲームでは、プレイヤーが所有する構造物「ホールドスター」が活動の主軸となっていた。 『Shin』という名前で活動をしていた黒川新輝(くろかわ しんき)は自らが保有する巨大ホールドスター、『Noa-Tun』の防衛戦の最中に寝落ちしてしまう。 次に目を覚ましたシンの目の前には、知らない天井があった。 夢のような転移を経験したシンだったが、深刻な問題に直面する。 ノーアトゥーンは戦いによってほぼ全壊! 物資も燃料も殆どない! 生き残るためにシンの手にある選択肢とは....? 異世界に転移したシンキと、何故か一緒に付いてきた『Noa-Tun』、そして個性派AIであるオーロラと共に、異世界宇宙の開拓が始まる! ※小説家になろう/カクヨムでも連載しています

チート生産魔法使いによる復讐譚 ~国に散々尽くしてきたのに処分されました。今後は敵対国で存分に腕を振るいます~

クロン
ファンタジー
俺は異世界の一般兵であるリーズという少年に転生した。 だが元々の身体の持ち主の心が生きていたので、俺はずっと彼の視点から世界を見続けることしかできなかった。 リーズは俺の転生特典である生産魔術【クラフター】のチートを持っていて、かつ聖人のような人間だった。 だが……その性格を逆手にとられて、同僚や上司に散々利用された。 あげく罠にはめられて精神が壊れて死んでしまった。 そして身体の所有権が俺に移る。 リーズをはめた者たちは盗んだ手柄で昇進し、そいつらのせいで帝国は暴虐非道で最低な存在となった。 よくも俺と一心同体だったリーズをやってくれたな。 お前たちがリーズを絞って得た繁栄は全部ぶっ壊してやるよ。 お前らが歯牙にもかけないような小国の配下になって、クラフターの力を存分に使わせてもらう! 味方の物資を万全にして、更にドーピングや全兵士にプレートアーマーの配布など……。 絶望的な国力差をチート生産魔術で全てを覆すのだ! そして俺を利用した奴らに復讐を遂げる!

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。

きゅりおす
SF
ハーレム主人公は元囚人?!ハーレム風SFアクション開幕! 突如として男性の殆どが消滅する事件が発生。 そんな人口ピラミッド崩壊な世界で女子生徒が待ち望んでいる中、現れる男子生徒、ハーレムの予感(?) 異色すぎる主人公が周りを巻き込みこの世界を駆ける!

グラッジブレイカー! ~ポンコツアンドロイド、時々かたゆでたまご~

尾野 灯
SF
人類がアインシュタインをペテンにかける方法を知ってから数世紀、地球から一番近い恒星への進出により、新しい時代が幕を開ける……はずだった。 だが、無謀な計画が生み出したのは、数千万の棄民と植民星系の独立戦争だった。 ケンタウリ星系の独立戦争が敗北に終ってから十三年、荒廃したコロニーケンタウルスⅢを根城に、それでもしぶとく生き残った人間たち。 そんな彼らの一人、かつてのエースパイロットケント・マツオカは、ひょんなことから手に入れた、高性能だがポンコツな相棒AIノエルと共に、今日も借金返済のためにコツコツと働いていた。 そんな彼らのもとに、かつての上官から旧ケンタウリ星系軍の秘密兵器の奪還を依頼される。高額な報酬に釣られ、仕事を受けたケントだったが……。 懐かしくて一周回って新しいかもしれない、スペースオペラ第一弾!

ニケ… 翼ある少女

幻田恋人
SF
現代の日本にギリシア神話に登場する二人の女神が母と娘として覚醒した…アテナとニケである。 彼女達をめぐって、古よりの妖や現代テクノロジーによって生み出された怪物、そして日本を引いては世界をも支配しようとする組織との戦いが巻き起こる。 一方で二人を守り共に戦う正義の人々… 様々な思いや権謀術数が入り乱れた争いの火ぶたが、日本を舞台に切って落とされた。 二人の女神は愛する日本を、愛する人々を守り抜くことが出来るのか?

処理中です...