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『秩序の守護者』を自任する老人

第46話 二人の『走狗(そうく)』

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「それでは例の計画を早める必要があるのでは?表面的にはわからないことでもこちらから動いて見せれば馬脚を現すこともありますから。少なくとも読書ばかりで頭の回転の良くない『中佐殿』あたりが暴走してくれれば……いくらでも手は打てますが?それで『法術師』の実力の程がわかれば……」

 そんな近藤の言葉に、カーンは落胆したように視線を外のデブリへと移した。

「いや、それについて君が口を挟む必要は無い。下がりたまえ」

 カーンは強い口調でそう言った。その語気に押される様にして近藤は軍人らしく踵を返して部屋を出て行こうとした。

「ですが……」 

 再び口を開いたカーンの言葉を聞くべく近藤は振り返る。

「私達の組織と甲武国海軍第六艦隊は無関係であると言うことを証明できるのであれば、君達は独自に『法術師』の実力調査に動いてくれてもかまわないがね……すでにこちらは『下準備』ができているんだ。あとは君の決断次第……まあ自由にしたまえ」 

 その一言に、近藤は親が新しいおもちゃを与えられた時のような笑顔を浮かべた。

「わかりました!それでは我々は独自に行動を開始します!」

 呪縛から解かれたというように近藤は軽快に敬礼をした。そのままはじかれたように貴賓室を後にした。

 実直に過ぎる近藤が去って部屋は沈黙に包まれた。

 カーンは再びブランデーグラスを眺めると満足げにうなづいた。

「君は君にしてはよくやったよ、近藤君。あくまで『君にしては』だがね。昔の中国のことわざに『走狗死して肉を煮らる』と言うものがある。使い終わった『猟犬』は煮て食われる運命なんだよ、どこでもね。……さて、君達『猟犬』の『肉』にありつくのは私かな?『嵯峨君』かな?」

 カーンはそう言うとブランデーグラスのそこに残った液体を凝視した。楽章が変わって始まった楽曲の盛り上がりにあわせる様にして、カーンはブランデーを飲み干した。静かにため息をつくとカーンは手元のボタンを押した。外の景色を映し出していた窓が光を反射してモニターへと切り替わる。

 そこには冴えない表情の新兵が、いかにも恥ずかしげに映り込んでいる身分証明書の写真と横に説明書きが映し出された。

「『神前誠』……君は何者なんだね?私は君が本当の『法術師』であるという結論にはたどり着きたくない。『秩序の守護者』を自任する私にも望まない結論くらいあるものだ。『無秩序を望む』嵯峨君と言う存在を私は許すことができないんだ。『特殊な部隊』を私は認めることができない」

 まるで孫に語り掛けるようにカーンはそうつぶやいた。手元のボタンを押すといくつもの『神前誠』の日常を写した写真が映し出される。

「まあいい。近藤君も新たな『法術師』、神前誠と言う新兵を英雄にする戦いの『噛ませ犬』を志願してくれたことだ。じっくりと見させてもらおう。ちゃんと『法術師対策』の時間稼ぎの『囮』ぐらいは勤め上げてくれよ。近藤君」

 カーンはそう言って静かに目を閉じてうつむいた。
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