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『特殊な部隊』の『特殊』な宴会

第168話 いびつな四角形

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「じゃあ聞くわ。ベルガー。この『女王様』とその『ペット』がくっつくとなんかおまえさんにとって困る事があるの?」 

 ほとんど鍋の具を一人で食べきった嵯峨がそう尋ねた。

 そして、誠と同い年ぐらいに見える割には46歳らしい老獪ないやらしい笑みを浮かべた嵯峨はカウラを眺めた。誠は助けを呼ぼうと周りのテーブルを見回した。

 技術部の島田の兵隊達やアメリアの部下の運航部の面々は、完全にこの『特殊』な状況を面白がるというように無視を続けていた。

 軍医を探しに行っていたはずのランですら、嵯峨の居た上座の鍋を占拠して誠達を一瞥することもなく箸を鍋に突っ込んでいた。

「それはれすね!西園寺のような『女王様』に苛められると、『ペット』の誠がマゾにめざめるのれす! そうするとアメリアがその様子を盗撮してネットにながすのれす!困るひとはわたしなのれす!」 

「神前がマゾに目覚める?そいつはまずいなあ……ねえ、『偉大なる中佐殿』」 

 意味不明なカウラの言葉に嵯峨はそう言って話題をランに振った。

「違法じゃなきゃいーんじゃねーか?まーそう言う趣味の人もいるみてーだし」 

「ちっちゃいのに何てこというんですか!」

 今のところはマゾに目覚めたくない誠はやる気のないランの言葉にそう叫んで反論した。

「なるほどねえ……かなめちゃんが、誠ちゃんに餌をやったり芸を仕込んだりするところを撮影してネットにあげれば……結構儲かるかも」 

 アメリアは糸目をさらに細くして満足げな笑みを浮かべる。

『誰か止めて!』 

 しかし誰も止めるつもりは無い。それでもまだカウラの演説は続く。

「わたしは!見過ごせないのれす!誠君がタレ目オッパイの『ペット』として覚醒を迎えるのを見過ごせないのれす!ですから隊長!」 

 急にカウラは直立不動の姿勢をとる。

 その時嵯峨は〆のうどん玉を鍋に投入している最中だった。また自分に話題がやってきたことに驚きつつ、嵯峨は仕方なく作業を中断する。

「だからなに?」 

 さすがに飽きてきたのか、嵯峨の口調は投げやりだった。

「こういう状況で何をするべきか、それをおしえれいららきたいのれす!誠!わらしはなにをしたらいいのら!」 

「ベルガーが何をしたらいいのかねえ……って神前支えろ!」

 嵯峨の言葉を聞いて誠はまた仰向けにひっくり返りそうになったカウラを支えた。その誠の頭をぽかぽかとカウラは柔らかいこぶしで殴る。パーラ、サラ、島田の三人は呆れるものの、次のカウラの絡み酒の標的になる事を恐れて退散するタイミングを計っている。

 一方、アメリアは誠がぶっ壊れて意味不明なことを言い出さないので苛立っているように見えた。 

「そりゃあ、愛って奴じゃねえの?」 

 ボソッとランがつぶやいた。

 その場にいた誰もがランの顔を見る。

 ランは自分でもつまらない事を言ったなあと言う表情を作る。隣でクエの身を頬張っていた軍医は彼女にかかわるまいと他人の振りをする。そして、また直立不動の姿でかかとを鳴らして敬礼したカウラに全員の視線が集中した。

「サラ!サラ・グリファン少尉!」 

「ハイ!大尉殿!」 

 その場にいた誰もがカウラに絡まれることが決定したサラに哀れみの視線を投げた。特に島田は彼女を助けに行けない自分の非才を嘆いているような顔をした。

「愛とはなんなろれす?サラ。おしえれもらうしか、ないのれす?」 

「教えろったって……ねえ……」

 サラの表情は明らかに危険を感じており、すぐにでも逃げだしたいように見えた。

 ただ、誠は彼女と島田の日常を知っていたので、二人の意見が全く参考にならないということを知っていたので力を込めて立ち上がった。

「カウラさん休みましょう!さあこっちに来て」 

 誠はサラに絡もうとするカウラを両腕で抱え込んだ。

「もっとするのら!もっとするのら!」 

 次第にアルコールのめぐりが良くなったようで、全身の関節をしならせながらカウラが叫んだ。

「こりゃ駄目だ。神前、ベルガーを部屋まで送ってやんなよ」 

 クエのだしのきいた鍋でうどんを茹でながら嵯峨がそう言った。

「『ペット』が変な気起こすと面倒だからな……アタシが運ぼうか?」

 そう言いながらかなめが自分を見る瞳に殺意がこもっていることを誠は理解していた。

「そうよね私も手伝うわ。それとそこの林軍曹!福島伍長!」 

 巻き込まれたアメリアがゆっくりと動き出す。島田の兵隊では体格がいい林と福島は素早くカウラのそばに立った。

「クラウゼ少佐……本当に自分達でよろしいんでしょうか?」

 二人の目がカウラの細身のからだを舐めまわすように見ているのに気が付いた誠は、この二人を指名したことがアメリアのカウラへの嫌がらせであることをなんとなく察した。

 二人は誠の両脇に走り寄って自分の『女神』であるカウラに手を伸ばそうとする。

「林!福島!目が邪悪すぎる!神前!オメーは体力あんだからなんとかしろ!」 

 隊を知り尽くす『偉大なる中佐殿』の一言に二人はひるんで立ち尽くした。

「そうなのら!タレ目おっぱいとふじょしはひっこんれるのな!誠!いくろな!」 

 そう言うと壊れたようにカウラは笑い始める。

 誠は彼女を背負って、そのまま宴会場であるハンガーを後にした。
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