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『駄目人間』の先読みの『一手』

第107話 不可解な演習地

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「『偉大なる中佐殿』の珍奇行動はどうにかならねえかな。まあお前さんに愚痴ってもしょうがないか。それより、今度の演習、休んでもいいんだぜ」 

 嵯峨は口調を変えずにそう切り出した。突然の言葉に誠は嵯峨の言葉の意味がわからなかった。

「どういうことです?」 

 誠はそんな言葉を口にするのが精一杯だった。

「鈍い奴だな。何でわざわざ政情が安定していない甲武国の、しかも殆どの宙域が使用不能になってる演習場を選んで訓練しようなんておかしいと思わないか?」 

 嵯峨はそう言いながら、吸い終わったタバコの火をゆっくりともみ消した。

「それは実働部隊としての隊の練度向上のため……」 

「そいつは俺が今回の演習を同盟機構に上申した時に使った方便だ。でも、お前さんもそれにしちゃあおかしいなあ、とか思ってんだろ?」 

 この人に隠し事は通用しない。誠は観念したようにうなづく。

 嵯峨は再び胸のポケットからタバコを取り出すと火をつけ、上体を起こして天井に向けて煙を吐いた。

「これから話すことは他言無用だ」 

 そう言った嵯峨の目は、先ほどとはうって変わった鋭いものだった。

「今回の演習宙域は胡州海軍第六艦隊の管轄だ。しかも隣の宙域には遼州星系最大の地球連邦政府軍の基地がある小惑星が存在する。そのくらいは演習の綱領に書いてあるだろ?」 

「ええ、まあ……」

 誠は嵯峨の言葉に引っ張られるようにして肯定して見せた。しかし、確かに改めてその事実を突きつけられると、いつ衝突が起きてもおかしくないその緊張した宙域に行くことの意味がさらに不可解に思えてきた。
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