特殊装甲隊 ダグフェロン『廃帝と永遠の世紀末』 遼州の闇

『力』と『責任』と『敵』

第28話 『不殺不傷』の誓い

　嵯峨はランの『殺人機能付き文化財』に目をやりながら苦笑いを浮かべた。

「別に俺は、俺やランのように、神前に人を斬らせたいわけじゃない。まあ、おまえさんが本当に腹を切らせない程度にいびるのは職権でみとめるけど、『人殺し』を職業にしてほしくないんだよ……まあ、失敗を感じたら即座に『自刃』する地球人の責任感には感銘を覚えているのは事実なんだけどね」

　そう言いながら嵯峨はまたランが『自刃』とか『自決』とか『切腹』とか言い出す機会を与えてあげた。

「そうだ！地球人が失敗して『自刃』しなくなったから堕落してこの遼州系までやってきちまったんだ！あいつ等はちゃんと、失敗したら『自刃』すると言う当たり前の常識を理解してねーんだ。例えば、テストで100点とれなかったらちゃんと、『切腹』しろ！親はちゃんとその娘だか息子だかの首を斬り落としてやれ！そう言うまっとうな教育ができなくなったから地球人は駄目になったんだ！」

　ランの地球人への怒りはマックスに達していた。

「俺等は地球人じゃなくて、『遼州人』だから、別に『切腹』する必要は感じねえんだけど……まあ、神前のお袋も切腹しろとか、人殺しにしろとか俺には頼んじゃいねえよ。ただ、遼州人としては避けて通れない『力』の使い道を教えてくれ……そう頼まれた。だから、俺の手の届くところで導くだけなんだ」

　嵯峨はそう言うとくるりと椅子を戻してランの正面を向いた。

「いーのかい？地球人の『力』とは違って、アタシ達の『力』は……『殺戮者』の『力』にもなる。神前にもその『力』は眠ってんだ。奴にアタシの『不殺不傷ふさつふしょうを教えんのは……難しーぞ。神前はまだ弱よわっちーからな」

　そう言って不敵な笑みを浮かべるランに嵯峨は頭を下げ、空いた左手で祈るような仕草をした。

「お前さんの『不殺不傷ふさつふしょうというご立派な信条。神前が一人前になるまで……中断と言うことにしてくれねえかな」

　手を下げた嵯峨はそういうと静かにランを見つめた。

「俺の得意の『土下座外交』って奴だよ。頼むわ。人間、生きてりゃなんとかなるもんだ。すべての人間は『生きなおせる』ってのが俺のポリシーだ。お前さんには『英雄』を作れとはいわねえよ」

　嵯峨の言葉にランは子供のような顔に戻り、ニヤニヤ笑いながら嵯峨を見つめた。