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『出動』のブリーフィング

第136話 『特殊な部隊』の決め事としての『遺書』

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「僕……逃げません!」

 誠はそう言い切った。

 彼の言葉を聞くとランは静かにうなづいて周りを見回す。

「すべて搭乗後に連絡すっからな。今回の作戦は無茶なクーデターの阻止だから敵がどれくらい出てくるか正直、予想がつかねーんだ。それに現状で静観を保っている地球等の異星艦隊の動きがどうなるか読めねーしな。作戦開始時まで何箇所かある進行ルート候補の絞込みを行ってから連絡を入れる」 

 そう言うとランは誠に歩み寄ってきた。

「わかったけど……ほんと、神前に何やらせんの?」 

 かなめは誠を白い目で見ながらそうつぶやいた。

「こいつは補給係。西園寺はあっちの主力の『甲武国』制式・アサルト・モジュール『火龍』程度は敵じゃねーだろ?『火龍』の建造費の5倍はする機体なんだぜ『05式』は。落とされたら司法局の経理関係の連中が発狂すんぞ」 

「ふうん。けど『アレ』な隊長と実戦経験ゼロの新入り。不測の事態って奴がな……」

 ランの言葉にかなめは不服そうにそう言った。 

「何だ、西園寺は自信がねーのか?」 

 明らかに挑発する調子でランがきり返す。

「そんなこといつ言った!このちんちくりん!」 

「やめろ!」 

 カウラの一喝にかなめは黙り込んだ。誠は三人の女性士官の表情をうかがった。

 ランは相変わらず余裕の笑みを浮かべていた。

 一方、かなめは挑戦的な視線をカウラに投げた。誠はじっとしてとりあえず雷が自分に落ちないようにじっとしていた。

「ともかくこれが現状でのアタシの命令ってわけだ。各員出撃準備にかかれ。それと一応聞いておくけど遺書とか書いとくか?」 

「馬鹿言うなよ。アタシが簡単にくたばるように見えるか?」 

「必要ない。死ぬつもりは今のところ無い」 

 かなめとカウラはそれだけ言うとドアに向けて歩き始めた。

「僕は書きます」 

 自然と誠の口をついて出た言葉に全員が注目した。つかつかとかなめは誠に歩み寄り、平手で誠の頬を打った。

「勝手に死ぬな馬鹿!オメエはアタシの『ペット』だ!オメエが死んでいいのはな!カウラかアタシが命令した時だけだ!勝手に死んでみろ!地獄までついて行って、もう一回殺してやる!」 

 それだけ言うとかなめは振り向きもせずに、ドアの向こうに消えていった。

「へー、あの『自分以外は愚民』が合言葉の西園寺がねえ。カウラはどう思ってるの?こいつのこと」 

 ランはそう言って、呆然と突っ立っている誠を指差した。

「仰ってる意味がわかりませんが?」 

 本当に不思議そうにカウラは緑色の髪をなびかせながら答えた。

 誠はそのエメラルドグリーンの瞳を見つめた。その瞳は本心からランの言葉の意味を理解していないように見えた。

「まあどうでもいーや。神前、どうする?遺書書いとくか?」 

 投げやりに言うランを前に、静かに誠は首を横に振った。

「まーあれだ。05式は『タイマン勝負』最強が売りだからな。素人のオメーが乗っても火龍程度は軽くあしらえるスペックなんだ。いざという時は機体を信じろ。まーアタシの言えることはそれくらいだな。オメーに後で『酔い止め』やるから飲んどけ。薬局でも売ってない特別製だ」 

 ランはそう言うと部屋から出て行った。誠はただ茫然とその場に立ち尽くしていた。
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