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『嘔吐』の果てに主人公が見た『現実』
第118話 『逃げられる時は迷わず逃げろ』と『特殊な部隊』の隊長は言う
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医務室から出た誠は『展望ルーム』にたどり着いた。
巨大な窓の外には果てしなく続く『宇宙』があった。
そこの長いベンチに、この『特殊な部隊』の隊長の『やけに若く見える駄目中年、46歳、バツイチ』、嵯峨惟基特務大佐の姿を誠は見つけた。
「おう!神前!」
嵯峨は手を振って広い展望ルームの端から誠に声をかけた。
誠は食事ができないので受けていた、右腕の点滴の跡を気にしながら、タバコをふかしている嵯峨のところに歩いて行った。
「ここはタバコを吸っていい場所なんですか?」
そんなひねくれた誠の問いを嵯峨は完全に無視した。
「いいじゃん。俺の『特殊な部隊』なんだから。それより、神前。結局逃げずに乗ったんだ……この艦に」
嵯峨の呆れたような口調の言葉の意味を理解して、誠は嵯峨以上に呆れた。
「自分の部下に『乗ったんだ』って……逃げればよかったんですか?」
完全に自分が『逃げる』ことが前提で話している嵯峨にそう言って抗議した。
「逃げるってのは勇気がいるんだよ、実際。意気地なしは逃げられないの。すべての人生をリセットする覚悟の無い『子供』は逃げることができないわけだが……神前は自分の行動に責任が持てる『大人』だから逃げればいいじゃん。パイロット向きじゃないことは分かってるんだから俺達に付き従う義理はねえよ」
嵯峨はタバコをくわえてそう言って誠を見つめた。その目は完全に誠を馬鹿にしていた。
「僕の逃げ道は全力で潰す……って言ってませんでしたっけ?」
自棄になった誠はそう言って嵯峨をにらみつける。
「神様じゃねえからな、俺は。できることとできないことがある。おまえさんが本気で逃げたらどうにもならねえよ。今からでも『逃げたい』なら、東和共和国のアステロイドベルトにある基地にでも送ろうか?」
そんなふざけたことを誠に言う、嵯峨の目は完全に死んでいた。
「逃げません!僕は社会人です!ちゃんと与えられた仕事はします!」
『脳ピンク』の『駄目な喫煙者』である嵯峨から目を逸らした誠は、その視線を外に向けた。
誠は大きな窓の隣の表示板に目をやった。
そこは、この外の景色が遼州第四惑星『甲武』と第五惑星『ゲルパルト』の間のアステロイドベルトの付近だと表示されていた。
「社会人でも逃げるときは逃げていいんだよ。おまえさんが逃げた結果、俺達『特殊な部隊』の面々が死のうがどうしようが関係ねえじゃん。どうせ逃げるんだから……俺達がどうなろうが」
嵯峨はそんな独り言を言って静かにタバコをくゆらせていた。
「まるで僕に逃げてほしいみたいなこと言うんですね」
誠は嵯峨とは目を合わせずに外の小惑星を眺めていた。
「人間はね、生きていればなんとかなるの。何回でも『生きなおせる』の。ただ、その時はこれまでの貯金をすべて『チャラ』にしなきゃならねえんだ。それはかなり勇気のいる話だよ。そんなことをできる人間を俺は尊敬するね。『お釈迦様』や『西行法師』じゃなきゃできねえ大した偉業なんだよ、本気で逃げるってことは」
『お釈迦様』は誠も家が『真言宗智山派』なので知っていたが、『西行法師』と言う人物の名前は誠の記憶には無かった。
「逃げることが『偉業』なんですか?」
戸惑いながら誠は喫煙中の嵯峨の顔を覗き込んだ。
「そうだよ、逃げることは『偉業』だよ。無茶な戦いから逃げずに戦えば『あの世』に逃げることができるんだ。でも、決戦を避けて逃げてもいずれは本当の『戦い』がそこに訪れる。おまえさんも俺達が危ないようなら迷わず逃げな。俺達はおまえさんを責めないよ」
誠の視界の中で、嵯峨はそう言ってほほ笑んだ。
「見殺しにしても怒らないってことですか?」
自分を卑怯者に仕立てようとする『特殊』な部隊長に向かって誠は自分の疑問をぶつける。
「そうすれば、おまえさんは俺達みたいな『特殊な人間』のことを覚えていてくれる。死んだあとにそう言う人間がいてくれるなら、俺達みたいな馬鹿は安心して死ねる……まあ、今回は死ぬのは無しだな。それより人を殺しそうだ」
誠の顔を真正面に見てそう言った嵯峨の目は少しうるんでいた。
巨大な窓の外には果てしなく続く『宇宙』があった。
そこの長いベンチに、この『特殊な部隊』の隊長の『やけに若く見える駄目中年、46歳、バツイチ』、嵯峨惟基特務大佐の姿を誠は見つけた。
「おう!神前!」
嵯峨は手を振って広い展望ルームの端から誠に声をかけた。
誠は食事ができないので受けていた、右腕の点滴の跡を気にしながら、タバコをふかしている嵯峨のところに歩いて行った。
「ここはタバコを吸っていい場所なんですか?」
そんなひねくれた誠の問いを嵯峨は完全に無視した。
「いいじゃん。俺の『特殊な部隊』なんだから。それより、神前。結局逃げずに乗ったんだ……この艦に」
嵯峨の呆れたような口調の言葉の意味を理解して、誠は嵯峨以上に呆れた。
「自分の部下に『乗ったんだ』って……逃げればよかったんですか?」
完全に自分が『逃げる』ことが前提で話している嵯峨にそう言って抗議した。
「逃げるってのは勇気がいるんだよ、実際。意気地なしは逃げられないの。すべての人生をリセットする覚悟の無い『子供』は逃げることができないわけだが……神前は自分の行動に責任が持てる『大人』だから逃げればいいじゃん。パイロット向きじゃないことは分かってるんだから俺達に付き従う義理はねえよ」
嵯峨はタバコをくわえてそう言って誠を見つめた。その目は完全に誠を馬鹿にしていた。
「僕の逃げ道は全力で潰す……って言ってませんでしたっけ?」
自棄になった誠はそう言って嵯峨をにらみつける。
「神様じゃねえからな、俺は。できることとできないことがある。おまえさんが本気で逃げたらどうにもならねえよ。今からでも『逃げたい』なら、東和共和国のアステロイドベルトにある基地にでも送ろうか?」
そんなふざけたことを誠に言う、嵯峨の目は完全に死んでいた。
「逃げません!僕は社会人です!ちゃんと与えられた仕事はします!」
『脳ピンク』の『駄目な喫煙者』である嵯峨から目を逸らした誠は、その視線を外に向けた。
誠は大きな窓の隣の表示板に目をやった。
そこは、この外の景色が遼州第四惑星『甲武』と第五惑星『ゲルパルト』の間のアステロイドベルトの付近だと表示されていた。
「社会人でも逃げるときは逃げていいんだよ。おまえさんが逃げた結果、俺達『特殊な部隊』の面々が死のうがどうしようが関係ねえじゃん。どうせ逃げるんだから……俺達がどうなろうが」
嵯峨はそんな独り言を言って静かにタバコをくゆらせていた。
「まるで僕に逃げてほしいみたいなこと言うんですね」
誠は嵯峨とは目を合わせずに外の小惑星を眺めていた。
「人間はね、生きていればなんとかなるの。何回でも『生きなおせる』の。ただ、その時はこれまでの貯金をすべて『チャラ』にしなきゃならねえんだ。それはかなり勇気のいる話だよ。そんなことをできる人間を俺は尊敬するね。『お釈迦様』や『西行法師』じゃなきゃできねえ大した偉業なんだよ、本気で逃げるってことは」
『お釈迦様』は誠も家が『真言宗智山派』なので知っていたが、『西行法師』と言う人物の名前は誠の記憶には無かった。
「逃げることが『偉業』なんですか?」
戸惑いながら誠は喫煙中の嵯峨の顔を覗き込んだ。
「そうだよ、逃げることは『偉業』だよ。無茶な戦いから逃げずに戦えば『あの世』に逃げることができるんだ。でも、決戦を避けて逃げてもいずれは本当の『戦い』がそこに訪れる。おまえさんも俺達が危ないようなら迷わず逃げな。俺達はおまえさんを責めないよ」
誠の視界の中で、嵯峨はそう言ってほほ笑んだ。
「見殺しにしても怒らないってことですか?」
自分を卑怯者に仕立てようとする『特殊』な部隊長に向かって誠は自分の疑問をぶつける。
「そうすれば、おまえさんは俺達みたいな『特殊な人間』のことを覚えていてくれる。死んだあとにそう言う人間がいてくれるなら、俺達みたいな馬鹿は安心して死ねる……まあ、今回は死ぬのは無しだな。それより人を殺しそうだ」
誠の顔を真正面に見てそう言った嵯峨の目は少しうるんでいた。
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