特殊装甲隊 ダグフェロン『廃帝と永遠の世紀末』 遼州の闇

橋本 直

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主人公の知らない『05式特戦乙型』の秘密

第117話 誠が『嘔吐』の末、医務室に閉じ込められていた間の出来事

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「これが『05式特戦乙型』……」 

 技術部部長代理兼整備班長の島田正人曹長はじっと緑色の巨人を見上げてそう言った。

 運用艦『ふさ』のブリッジ下の『アサルト・モジュール』デッキに完成したその姿は現れた。

「回収・補給用の機材はどうしたんだ?」

 西園寺かなめ大尉は島田の背後からそう言って、目の前の人型兵器を眺めた。

「それは神前の目を逸らすための『詭弁』だ。貴様も初めから聞いていただろ?」

 エメラルドグリーンのポニーテールの毛先を、その繊細そうな手で軽く撫でながら、『小隊長』カウラ・ベルガーはかなめにそうつぶやく。

「そうよ、かなめちゃんも隊長にも聞いてるんでしょ?こいつの特殊なシステムについては今は誠ちゃんには話せないの。パイロットが『法術師』として覚醒してはじめて『05式特戦乙型』の本来の能力が反映される……」 

 糸目のはずの長身の女性の目は開かれていた。

 運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ少佐。

 彼女はそう言ってほほ笑んだ。

「パーラ!とりあえず乗降ゲートをパージ!コックピットハッチと前部装甲板の動作確認だ!」 

 05式特戦乙型の操縦席から機動部隊隊長、クバルカ・ラン中佐のかわいらしい叫び声がデッキに響いた。

「わかりました!『中佐殿』!……なんで私が……」

 デッキの入り口にあるコントロールパネルの前には水色のショートヘアーの女性が立っていた。

 『特殊な部隊』の数少ない常識人、パーラ・ラビロフ中尉は愚痴りながら操作する。

「島田の兵隊がミスって突然05式特戦乙型これがぶっ壊れたりして」

 かなめは島田をそのたれ目で見つめながらそう言った。格納デッキいっぱいに金属音が響き始める。

 少しづつ05式特戦乙型腹部のコックピットの周りの乗降ゲートが動き出した。

「しかし……『偉大なる中佐殿』は大柄の神前のコックピットにどう座っているんだ?足は操作ペダルに届かないし、手も操縦桿そうじゅうかんに届かないだろ」

 カウラはそう言って、いつもの糸目の笑顔に戻ったアメリアに尋ねた。

「大丈夫!ちゃんと『ゲーム機のコントローラー』で動かしてるから!『Bボタン連打』ですべて解決よ!」

 コックピットの閉鎖を邪魔していた乗降ゲートが移動を終えた。05式特戦乙型のコックピットハッチと前部装甲板が閉じた。

「ここからが……本番……『中佐殿』!どうです?」

 島田はポケットから出したマイクで、05式特戦乙型の中のランに話しかけた。

『『法術インジケーター』は……ばっちりだ。ちゃーんと反応してるな。全周囲モニターも問題ねーや。これで神前も自分が単なる『回収・補給』係だと信じ込むだろーな』

 満足げなランの言葉に四人も笑顔を浮かべた。

「誠ちゃんはただの『回収・補給』係。今回の演習のふりをした『クーデター首謀者抹殺』作戦についても直前までは秘密よね」

 アメリアはそう言っていつもの『女芸人』風の笑みを浮かべる。

「神前君……かわいそうに……」

 悪そうな笑顔のかなめ、カウラ、アメリア、島田の様子をパーラは見守りながらため息をついた。

 誠は当然この事実を知らない。

 運用艦『ふさ』が出港してから、彼はひたすら『吐き気』との格闘に夢中で医務室に寝たきりである。

 『特殊な部隊』の機体の新人、神前誠少尉候補生の手による『甲武国海軍クーデター阻止作戦』の計画が、こうして着実に進行していたのだった。
 
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