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『力』を持つ者の定め 『特殊な部隊』の通過儀礼としての『事件』

第63話 捕らえられた誠

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 四階は事務所の跡のようで廊下に連れ込まれた誠の前に三つの扉が目に入った。銃を突きつけている背広の男はそのまま一番奥のドアを開けて、中に誠を蹴りこんだ。

 誠は転がされたまま静かに周りを見回した。

 小さな小窓から日差しが入っているところから見て、それほど時間がたっているわけではないようだった。遠くで車の走る音がすることが、少しばかり誠に安心感を与えた。そしてじっと室内を見る。

「どうなるんだろうなあ?」 

 誠は不安を紛らわすために、自分で声を出してそう言った。

 司法局実働部隊の隊員の誘拐略取。それなりの武装をしている彼等は、自分達で今すぐ誠をどうこうするつもりは無いようだった。

 誠の誘拐を依頼した『クライアント』に誠の身を引き渡すまでは、彼等は誠の身の安全は保障してくれるだろう。それまでは自分の命がなくなることない。

 それから先は……、誠は考えるのをやめた。その方が賢明だろうというくらいの理性は、まだ彼に残っていた。

 手錠が手首に食い込んで痛む。そんな彼を無視するかのように、誠を監視している男の鼻歌が誠の耳にも届いていた。

 部屋に転がっている体を起こした。そして自分が誘拐される理由を考えてみた。司法局への意趣返しの線はなかった。それならそのまま車を山沿いにでも向けて林道で誠を殺していることだろう。その方が証拠が残らずに済む。

 『クライアント』がテロリストや非合法の武装組織ならば、東和の司法組織に身柄を拘束された同志の解放を求める為という線も無いではないが、同盟直属のまだ実績の無い司法機関の隊員を交換のカードに使う意味が誠にはわからなかった。

 誠はそこまで考えてみたが結論は出ない。そのまま高い格子戸からさしてくる光を見ながら誠はとりあえず体を休めようと横になろうとした。

 誠の理性を保っている命綱の『嵯峨の手渡した補聴器』からは、いまだ何一つ指示のようなものは聞こえてこなかった。
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