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やりすぎた『手洗い歓迎』にあきれる『駄目人間』と『盗聴』

第39話 『体育会系の歓迎』に耐えきった誠

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 実働部隊、隊長室。

 相変わらずの46歳バツイチには見えない見た目が若すぎる『駄目人間』である嵯峨惟基特務大佐が、隊長室でぼんやりと雑誌を読んでいる。

 同じくやけに迫力のある8歳女児にしか見えない『中佐殿』、クバルカ・ラン中佐は相変わらず小さな手に『殺人機能付き文化財』を握りしめて黙って立っていた。

「おい、ちっちゃい『人斬り』。俺はいつ、神前を立派な『体育会系・営業マン』にしてくれって言った?」

 嵯峨は相変わらずぼんやりと目の前の『下世話な大人向け情報誌』を読みながらそう言った。

「アイツの逃げる道を、すべて潰せ。そう言ったな、隊長は」

 いかにも『褒めてくれ』と言わんばかりの大きな態度で、ランはそう言い放つ。

「神前の逃げ道を潰す方はな、俺が各方面にねじ込んで『法的』な方法でやっといたから」

 嵯峨はさらりと恐ろしいことを言った。そして、手元の小さなバッジをランに見えるように差し出した。

 それは『弁護士バッジ』と呼ばれるものだった。意味するところは、嵯峨が東和共和国の『弁護士資格』を持っていて、法律関係のスペシャリストであるということだった。

「だからさあ、『中佐殿』。オメーは神前を『普通に歓迎』してやればいいの。『特殊な歓迎』は要らないの。うちはただでさえ『特殊な馬鹿』の集団だと思われてるんだから……これ以上俺に手間をかけさせんなよ」

 相変わらず嵯峨はランとは目を合わせずに、雑誌を読んでいる。

「アイツら神前をすごく『歓迎』してるって言ってたぞ。今度の新入りはいじりがいがあって、本当に気に入ったって。アタシもちょっとうらやましくなるくらい『歓迎』してやってるみたいだぞ」

 反省の色の全く見えないランを嵯峨が見つめる。そこには落胆の色が見えた。

「あれは『歓迎』じゃなくて、今の世の中では『いじめ』っていうの。20世紀末の『体育会系社会』には似たようなのあったのは事実だけどさ。違うでしょ、普通」

 ランは完全に無視を決め込んだかのように視線を左手の『人切り包丁』に落とす。

「ランよ。確かに、いつでもどこでも生き物の歴史には『そんな組織』ばっかりなのは事実だけど、ちょっと違うじゃん。生きていれば『そういう組織』に入らない方が難しいなんて、普通の人は知らなくていいの。社会を知らない『おめでたい人』と、見て見ぬ振りができる『残酷な賢い人』も、世の中『そういう組織』ばっかりなのは、察してるよ」

 嵯峨は『法律家』らしく、あいまいな断定回避ワードを駆使してそう言った。そして大きくため息をつき、別の『下世話な大人の情報誌』に手を伸ばす。

「神前もさー。馬鹿だよな。一言、『ある筋』に『逃げたい』って言えばいいのに……アイツ『社会』とやらを誤解してんぜ」

 タバコを『マックスコーヒー』のロング缶に置いた嵯峨は、ランの存在を無視したようにスルメを口に運ぶ。

「誤解させたのは誰だよ」

 ランは何度も『刀剣マニアがあこがれる芸術作品』を抜くふりをしながらそう言った。

「俺達……ちょっとひどい大人だったかな?」

 そして嵯峨は手元の袋から取り出したスルメを噛みながら、静かに視線を机に落とす。

「まあな」

 ランも少しは自覚があるようで静かに頭を掻いた。
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