118 / 137
変革後の世界
第118話 勝敗
しおりを挟む
誠達が去った病室で一人静かに嵯峨はベッドに座り込んでいた。
胸のポケットからタバコを取り出すが、さすがに『駄目人間』な嵯峨もそれを口にすることは無かった。
「カーンの爺さん、俺の負けだよ。俺は『非情』になり切れなかった。近藤さん達を『犯罪者』にはできたが、『社会的に消す』ことはできなかった」
嵯峨はそう言って力なく笑った。
「今回の事件は記録として残る。それだけは止められなかった。そしてその記録を見た同じような思想の『貴族主義者』は俺達の前にもっと強くなって立ちはだかるのも、もう確定事項だ。負けたよ……俺の負けだよ。近藤のおっさんはもっとあんた好みの『非道』な殺し方もできたんだ……記録にさえ乗らないような無様な最期を用意してやることもできたはずだ……どうにもまだ俺は不十分な『駄目人間』みてえだわ」
嵯峨はそう言うと立ち上がり、医務室を眺める。
嵯峨のほかには誰もいない。医務室勤務の『釣りマニア』達は祝勝会の『魚料理』による歓迎に命を懸けているので、ここはもぬけの殻だった。
「俺は隊長失格だな。今回、何人死んだ?近藤さんの部下。近藤さんとその家族につまらない情けを懸けたばっかりに、近藤さんの自殺の道連れ百人越えか。一人を殺して二人を生かすのが正しい……そう思ってきてこのざまか。近藤さんの『妻子』をどうにかすれば……俺にはできねえな。俺の手は汚れてるが、『鬼』になりきることができてねえんだな。そんな『甘ちゃん』の俺をカーンの爺さんは笑ってんだろうな」
そう言って嵯峨は医務室の薬品の入った扉をポケットからカギを取り出して慣れた手つきで開ける。そこには劇薬の類が並んでいた。嵯峨のぼんやりとした視線は変わることが無かった。
「気高い死を望む奴ほど心が脆いもんだ。肉親や仲間にちょっとひどい目を見せてやれば簡単に壊れる。『第二次遼州戦争』で散々使ってた、なじみの手じゃない。今更、この手が汚れたってかまわねえよ。それよりラン……『偉大なる中佐殿』……おめえさんの『不殺不傷の誓いを破らせちまった。神前に『殺し』をやらせちまった。俺の汚れた手でやれば済むことだったんだ……全部、おめえさん達を連れて俺が逃げ出せば済む話だったんだ」
嵯峨の顔に落胆の表情が浮かぶ。致死量数グラム以下の劇薬の小瓶を一つ一つ手にとっては棚に戻す嵯峨。そこにはまるで感情の色が見えなかった。
「なんだか俺の人生『負け』ばっかりだな。生まれるともう負けが決まってた、親父には負けて国を追われた。育った『甲武国』は『第二次遼州戦争』で負けた。妻にはあの世に逃げられた。娘からは小遣い3万円の暮らしだよ……負けばかり。一度は爽快な勝ち方をしたいもんだが……俺には『勝ち運』が無いのかな?」
そう言って嵯峨は一つの青い小瓶を手に取る。『テトロドトキシン』と書かれた小瓶。
「ふぐ毒ねえ……うちの『釣り部』の連中には免許持ってる奴もいるから大丈夫だろ」
嵯峨は静かに『テトロドトキシン』の小瓶を棚に戻して薬品庫にカギをかけた。
「ただ、究極の『剣士』が見つかった。神前は『法術師』として『覚醒』したんだ。爺さんとの勝負には負けたが、これから俺は『廃帝』や『ビッグブラザー』と戦争をする予定だ。そっちの勝ちは譲れねえよ。だから最終的に俺は勝ってるんだ。悪かったな、じ・い・さ・ん」
薬品庫に目をやる嵯峨の口元に微笑みが浮かんだ。
「ただ、今回の神前の『法術師としての覚醒』で、俺やランの見た目が年齢と合わない理由が『全宇宙』にばれちまった。遼州人『リャオ』が文明を必要としない超能力者集団だってことがばれちゃったんだよ。『地球圏』で知ってるのは進駐している軍隊だけだからいいけど、遼州同盟の偉いさんは大変だな……とんでもない『パンドラの函』が開いた。開けたのは俺とランだ。自業自得とはいえ……辛いぞ、これからの『戦い』は」
嵯峨は静かにだらしなく着こんだ司法局実働部隊の制服のネクタイを締めなおして医務室の入り口に足を向ける。
「とりあえず『勝った』らしいから……盗聴中の『ビッグブラザー』関係者のみなさん……俺、とりあえず勝ったんで」
そう言って嵯峨は悠然と医務室を立ち去った。
胸のポケットからタバコを取り出すが、さすがに『駄目人間』な嵯峨もそれを口にすることは無かった。
「カーンの爺さん、俺の負けだよ。俺は『非情』になり切れなかった。近藤さん達を『犯罪者』にはできたが、『社会的に消す』ことはできなかった」
嵯峨はそう言って力なく笑った。
「今回の事件は記録として残る。それだけは止められなかった。そしてその記録を見た同じような思想の『貴族主義者』は俺達の前にもっと強くなって立ちはだかるのも、もう確定事項だ。負けたよ……俺の負けだよ。近藤のおっさんはもっとあんた好みの『非道』な殺し方もできたんだ……記録にさえ乗らないような無様な最期を用意してやることもできたはずだ……どうにもまだ俺は不十分な『駄目人間』みてえだわ」
嵯峨はそう言うと立ち上がり、医務室を眺める。
嵯峨のほかには誰もいない。医務室勤務の『釣りマニア』達は祝勝会の『魚料理』による歓迎に命を懸けているので、ここはもぬけの殻だった。
「俺は隊長失格だな。今回、何人死んだ?近藤さんの部下。近藤さんとその家族につまらない情けを懸けたばっかりに、近藤さんの自殺の道連れ百人越えか。一人を殺して二人を生かすのが正しい……そう思ってきてこのざまか。近藤さんの『妻子』をどうにかすれば……俺にはできねえな。俺の手は汚れてるが、『鬼』になりきることができてねえんだな。そんな『甘ちゃん』の俺をカーンの爺さんは笑ってんだろうな」
そう言って嵯峨は医務室の薬品の入った扉をポケットからカギを取り出して慣れた手つきで開ける。そこには劇薬の類が並んでいた。嵯峨のぼんやりとした視線は変わることが無かった。
「気高い死を望む奴ほど心が脆いもんだ。肉親や仲間にちょっとひどい目を見せてやれば簡単に壊れる。『第二次遼州戦争』で散々使ってた、なじみの手じゃない。今更、この手が汚れたってかまわねえよ。それよりラン……『偉大なる中佐殿』……おめえさんの『不殺不傷の誓いを破らせちまった。神前に『殺し』をやらせちまった。俺の汚れた手でやれば済むことだったんだ……全部、おめえさん達を連れて俺が逃げ出せば済む話だったんだ」
嵯峨の顔に落胆の表情が浮かぶ。致死量数グラム以下の劇薬の小瓶を一つ一つ手にとっては棚に戻す嵯峨。そこにはまるで感情の色が見えなかった。
「なんだか俺の人生『負け』ばっかりだな。生まれるともう負けが決まってた、親父には負けて国を追われた。育った『甲武国』は『第二次遼州戦争』で負けた。妻にはあの世に逃げられた。娘からは小遣い3万円の暮らしだよ……負けばかり。一度は爽快な勝ち方をしたいもんだが……俺には『勝ち運』が無いのかな?」
そう言って嵯峨は一つの青い小瓶を手に取る。『テトロドトキシン』と書かれた小瓶。
「ふぐ毒ねえ……うちの『釣り部』の連中には免許持ってる奴もいるから大丈夫だろ」
嵯峨は静かに『テトロドトキシン』の小瓶を棚に戻して薬品庫にカギをかけた。
「ただ、究極の『剣士』が見つかった。神前は『法術師』として『覚醒』したんだ。爺さんとの勝負には負けたが、これから俺は『廃帝』や『ビッグブラザー』と戦争をする予定だ。そっちの勝ちは譲れねえよ。だから最終的に俺は勝ってるんだ。悪かったな、じ・い・さ・ん」
薬品庫に目をやる嵯峨の口元に微笑みが浮かんだ。
「ただ、今回の神前の『法術師としての覚醒』で、俺やランの見た目が年齢と合わない理由が『全宇宙』にばれちまった。遼州人『リャオ』が文明を必要としない超能力者集団だってことがばれちゃったんだよ。『地球圏』で知ってるのは進駐している軍隊だけだからいいけど、遼州同盟の偉いさんは大変だな……とんでもない『パンドラの函』が開いた。開けたのは俺とランだ。自業自得とはいえ……辛いぞ、これからの『戦い』は」
嵯峨は静かにだらしなく着こんだ司法局実働部隊の制服のネクタイを締めなおして医務室の入り口に足を向ける。
「とりあえず『勝った』らしいから……盗聴中の『ビッグブラザー』関係者のみなさん……俺、とりあえず勝ったんで」
そう言って嵯峨は悠然と医務室を立ち去った。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第二部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。
宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。
そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。
どうせろくな事が怒らないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。
そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。
しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。
この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。
これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。
そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。
そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。
SFお仕事ギャグロマン小説。
基本中の基本
黒はんぺん
SF
ここは未来のテーマパーク。ギリシャ神話 を模した世界で、冒険やチャンバラを楽し めます。観光客でもある勇者は暴風雨のな か、アンドロメダ姫を救出に向かいます。
もちろんこの暴風雨も機械じかけのトリッ クなんだけど、だからといって楽じゃない ですよ。………………というお話を語るよう要請さ れ、あたしは召喚されました。あたしは違 うお話の作中人物なんですが、なんであた しが指名されたんですかね。
異世界召喚され、話したこともないクラスメイトと冒険者になる。
きんさん
ファンタジー
授業中事故に巻き込まれて、4人だけが異世界召喚される。
話したこともない美人優等生とペアをくむことになり、冒険者を始める。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい
みおな
恋愛
何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。
死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。
死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。
三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。
四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。
さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。
こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。
こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。
私の怒りに、神様は言いました。
次こそは誰にも虐げられない未来を、とー
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる