114 / 137
戦地
第114話 死を覚悟した女王様
しおりを挟む
「アタシを狙って来たか……やっと、このふざけた体ともおさらばだな……」
西園寺かなめはモニターの中でミサイル発射管を開いて主砲の砲塔を自分に向けてくる敵艦『那珂』を見ながらそうつぶやいた。
彼女の230ミリロングレンジ狙撃用レールガンは『那珂』のブリッジを捉えていたが、彼女はトリガーを引かなかった。
「三歳の時、爺さんを狙ったテロでこの体になって……いつかこういう日が来るのを待ってたんだ……アタシは」
通信はランや誠、カウラや『ふさ』のブリッジクルーにも伝わっていた。
「人を殺すのはもう飽きたんだ……せっかく面白くなってきた人生だが……仕方がねえや」
かなめはそう言うとヘルメットを脱いで、腰のポーチから愛用のタバコ、『コイーバクラブ』を一本取り出した。
『待ってください!』
突然、新米の神前誠がそう叫んだ。それまでは胃の内容物の逆流に耐えながらヘルメットを抑えたりして気を紛らわせていた気の弱い誠の急変にかなめは少し驚いて葉巻用のガスライターに伸ばした手を止めた。
神前誠の専用機『05式特戦乙型』は最新機と言うことで大出力エンジンを搭載していた。
一気に機体は加速して先行していた機動部隊長、クバルカ・ラン中佐の『紅兎』弱×54を追い抜く。
『僕が囮になります!西園寺さん!今のうちに後退を!』
かなめの機体のコックピットに誠の叫びが響いた。誠のその声にかなめは何故かほっとして肩の力が抜けていくのを感じた。
「おいおい、誰に話してるつもりだ?オムツをつけた新入りに指図されるほど落ちぶれちゃいねえよ。敵さんのミサイルはアタシを狙ってる。アタシの『屠殺』を免れた家畜が二匹ほど伏せてる、そいつはオメエが食え!」
そう言うとかなめはロングレンジライフルを投げ捨てて、自機の重力波の想定位置に向けてキャノン砲を連射している火龍に向け突撃をかけた。火龍のセンサーは自分で撒いたチャフによって機能していないのは明らかだった。
「馬鹿が!いい気になるんじゃねえ!」
目視確認できる距離まで詰める。ようやく気づいた2機の火龍だが、近接戦闘を予定していない駆逐アサルト・モジュールには、ダガーを構え切り込んでくるエースクラスの腕前のかなめを相手にすることなど無理な話だった。
「死に損ないが!とっととくたばんな!」
すばやく手前の機体のコックピットにダガーが突き立つ。もう一機は友軍機の陰に隠れるかなめの機体の動きについていけないでいる。
「悪く思うなよ!恨むなら馬鹿な大将を恨みな!」
機能停止した火龍を投げつけながら、その影に潜んで一気に距離を詰めると、かなめは二機目の火龍のエンジン部分をダガーでえぐった。
かなめは敵機のパイロットが死亡したことによる機能停止を確認するともう一度『那珂』に目をやった。
すでに迎撃ミサイルは発射されていた。そして艦の主砲はかなめ機に砲身を向けて待機している。
「神前!来るな!巻き添えを食らうぞ!」
悲痛な『女王様』の悲しい願いが遼州星系のアステロイドベルトに響き渡った。
『西園寺さん……死なないでください……西園寺さん』
誠は口の中に酸を含んだ液体が湧き上がってくるのも構わずに機体を『那珂』めがけて突入させた。
西園寺かなめはモニターの中でミサイル発射管を開いて主砲の砲塔を自分に向けてくる敵艦『那珂』を見ながらそうつぶやいた。
彼女の230ミリロングレンジ狙撃用レールガンは『那珂』のブリッジを捉えていたが、彼女はトリガーを引かなかった。
「三歳の時、爺さんを狙ったテロでこの体になって……いつかこういう日が来るのを待ってたんだ……アタシは」
通信はランや誠、カウラや『ふさ』のブリッジクルーにも伝わっていた。
「人を殺すのはもう飽きたんだ……せっかく面白くなってきた人生だが……仕方がねえや」
かなめはそう言うとヘルメットを脱いで、腰のポーチから愛用のタバコ、『コイーバクラブ』を一本取り出した。
『待ってください!』
突然、新米の神前誠がそう叫んだ。それまでは胃の内容物の逆流に耐えながらヘルメットを抑えたりして気を紛らわせていた気の弱い誠の急変にかなめは少し驚いて葉巻用のガスライターに伸ばした手を止めた。
神前誠の専用機『05式特戦乙型』は最新機と言うことで大出力エンジンを搭載していた。
一気に機体は加速して先行していた機動部隊長、クバルカ・ラン中佐の『紅兎』弱×54を追い抜く。
『僕が囮になります!西園寺さん!今のうちに後退を!』
かなめの機体のコックピットに誠の叫びが響いた。誠のその声にかなめは何故かほっとして肩の力が抜けていくのを感じた。
「おいおい、誰に話してるつもりだ?オムツをつけた新入りに指図されるほど落ちぶれちゃいねえよ。敵さんのミサイルはアタシを狙ってる。アタシの『屠殺』を免れた家畜が二匹ほど伏せてる、そいつはオメエが食え!」
そう言うとかなめはロングレンジライフルを投げ捨てて、自機の重力波の想定位置に向けてキャノン砲を連射している火龍に向け突撃をかけた。火龍のセンサーは自分で撒いたチャフによって機能していないのは明らかだった。
「馬鹿が!いい気になるんじゃねえ!」
目視確認できる距離まで詰める。ようやく気づいた2機の火龍だが、近接戦闘を予定していない駆逐アサルト・モジュールには、ダガーを構え切り込んでくるエースクラスの腕前のかなめを相手にすることなど無理な話だった。
「死に損ないが!とっととくたばんな!」
すばやく手前の機体のコックピットにダガーが突き立つ。もう一機は友軍機の陰に隠れるかなめの機体の動きについていけないでいる。
「悪く思うなよ!恨むなら馬鹿な大将を恨みな!」
機能停止した火龍を投げつけながら、その影に潜んで一気に距離を詰めると、かなめは二機目の火龍のエンジン部分をダガーでえぐった。
かなめは敵機のパイロットが死亡したことによる機能停止を確認するともう一度『那珂』に目をやった。
すでに迎撃ミサイルは発射されていた。そして艦の主砲はかなめ機に砲身を向けて待機している。
「神前!来るな!巻き添えを食らうぞ!」
悲痛な『女王様』の悲しい願いが遼州星系のアステロイドベルトに響き渡った。
『西園寺さん……死なないでください……西園寺さん』
誠は口の中に酸を含んだ液体が湧き上がってくるのも構わずに機体を『那珂』めがけて突入させた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
What a Wonderful World
一兎風タウ
SF
紀元後3518年。
荒廃したこの地には、戦闘用アンドロイド軍『オリュンポス軍』のみが存在していた⋯。
ー⋯はずだった。
十数年前に壊滅させた戦闘用アンドロイド軍『高天原軍』が再侵攻を始めた。
膠着状態となり、オリュンポス軍最高司令官のゼウスは惑星からの離脱、および爆破を決定した。
それに反発したポー、ハデス、ヘスティアの3人は脱走し、この惑星上を放浪する旅に出る。
これは、彼らが何かを見つけるための物語。
SF(すこしふしぎ)漫画の小説版。
我ら新興文明保護艦隊
ビーデシオン
SF
もしも道行く野良猫が、百戦錬磨の獣戦士だったら?
もしも冴えないサラリーマンが、戦争上がりのアンドロイドだったら?
これは、実際にそんな空想めいた素性をもって、陰ながら地球を守っているエージェントたちのお話。
※表紙絵はひのたけきょー(@HinotakeDaYo)様より頂きました!

鎌倉最後の日
もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる