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戦地
第111話 国士の悪あがき
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「敵正面の友軍機……全機撃墜されました……」
第六艦隊分遣艦隊旗艦『那珂』の狭いブリッジに通信士の悲痛な言葉が響いた。
「近藤さん……」
艦長は複雑な表情で事態を黙って見つめていた近藤中佐に声をかけた。
「まだだ……我々が正面だけに戦力を配置していると思ったのか?クバルカ・ラン中佐。『人類最強』と名乗ってはいるが……やはり見た目通りの8歳女児と言う所かな……」
近藤はそう言って、艦橋に映し出される画面を眺めた。そこには彼の呪うべき敵、『ふさ』の背後からの映像が映っていた。
「馬鹿が……正面の機体は『囮』だよ……あの馬鹿な幼女とおしゃべりをしている間に展開させた……さて……仕上げといくかね?母艦を沈められたらさすがの『飛将軍』も手も足もでんだろうて」
そう言って近藤はうなづく。
「『国士』各機……攻撃よろし……」
通信士がそうつぶやいた瞬間、『ふさ』の背後を映していた画面が途切れた。
「なに!」
近藤は叫び、そして舌打ちした。回り込んだ友軍機が次々と爆発する光景が拡大された映像で見て取れた。
「『ビッグブラザー』……意地でも『東和共和国』には手を出させんと言うつもりか……そうまでして自国の利益だけを守って……」
艦橋にいる全員が悟った。『ふさ』には多数の『東和共和国』の国籍を持つ『特殊な部隊』の隊員が乗っている以上、『東和共和国』の戦死者をゼロにすることだけを考える『ビッグブラザー』の電子戦の魔の手からは逃れることができないということを。
「確か、クバルカ・ラン中佐も『遼南共和国』から亡命後、『東和共和国』の国籍を取って東和共和国陸軍からの出向と言う形であの『馬鹿集団』の指揮をしているとか……我々にはもう……」
艦長の言葉にはもう希望の色は残ってはいなかった。
「このままで終われるか……我々は『狼煙』とならねばならん……後ろに続く同志達のためにも……一矢報いねば……」
機動性に欠ける司法局実働部隊の05式の戦線到着にはまだ時間があった。
「そうだ……『東和共和国』の国民でなければいいわけだ……丁度いいのがいるな……」
そんな独り言を言った近藤は索敵担当のレーダー担当者のメガネの大尉の肩を叩いた。
「アクティブセンサーの感度を上げろ」
「そんな!『ふさ』の主砲の射程範囲内です!そんなことをしたら、旧式で射程の短い『那珂』は一方的に撃沈されます!」
メガネの大尉はそう言って反論した。
「せめて、あの『民派』の首魁、宰相・西園寺義基の娘を道ずれにしてやる……あの娘の国籍は甲武だ!いくら光学迷彩とジャマーで隠れていようがセンサーの感度を上げれば引っかかるはずだ。そこにこちらのミサイルをあるだけバラまけば……いくら装甲が厚い05式でも無事では済むまい?」
艦橋の全員が静かにうなづいた。
もはや、彼等には『処刑』を免れる手段は無かった。せめて、あの女王様気取りの素行不良の女サイボーグを血祭りにあげて、『貴族主義者』の意地を故国に見せつける以外にできることは残されていなかった。
彼等は自分達が『捨て石』であることに誇りを持っていた。その矜持だけで今まで耐えがたい現状に耐えてきた。
「道連れにしてやる……」
近藤の心にはすでに迷いは無かった。
第六艦隊分遣艦隊旗艦『那珂』の狭いブリッジに通信士の悲痛な言葉が響いた。
「近藤さん……」
艦長は複雑な表情で事態を黙って見つめていた近藤中佐に声をかけた。
「まだだ……我々が正面だけに戦力を配置していると思ったのか?クバルカ・ラン中佐。『人類最強』と名乗ってはいるが……やはり見た目通りの8歳女児と言う所かな……」
近藤はそう言って、艦橋に映し出される画面を眺めた。そこには彼の呪うべき敵、『ふさ』の背後からの映像が映っていた。
「馬鹿が……正面の機体は『囮』だよ……あの馬鹿な幼女とおしゃべりをしている間に展開させた……さて……仕上げといくかね?母艦を沈められたらさすがの『飛将軍』も手も足もでんだろうて」
そう言って近藤はうなづく。
「『国士』各機……攻撃よろし……」
通信士がそうつぶやいた瞬間、『ふさ』の背後を映していた画面が途切れた。
「なに!」
近藤は叫び、そして舌打ちした。回り込んだ友軍機が次々と爆発する光景が拡大された映像で見て取れた。
「『ビッグブラザー』……意地でも『東和共和国』には手を出させんと言うつもりか……そうまでして自国の利益だけを守って……」
艦橋にいる全員が悟った。『ふさ』には多数の『東和共和国』の国籍を持つ『特殊な部隊』の隊員が乗っている以上、『東和共和国』の戦死者をゼロにすることだけを考える『ビッグブラザー』の電子戦の魔の手からは逃れることができないということを。
「確か、クバルカ・ラン中佐も『遼南共和国』から亡命後、『東和共和国』の国籍を取って東和共和国陸軍からの出向と言う形であの『馬鹿集団』の指揮をしているとか……我々にはもう……」
艦長の言葉にはもう希望の色は残ってはいなかった。
「このままで終われるか……我々は『狼煙』とならねばならん……後ろに続く同志達のためにも……一矢報いねば……」
機動性に欠ける司法局実働部隊の05式の戦線到着にはまだ時間があった。
「そうだ……『東和共和国』の国民でなければいいわけだ……丁度いいのがいるな……」
そんな独り言を言った近藤は索敵担当のレーダー担当者のメガネの大尉の肩を叩いた。
「アクティブセンサーの感度を上げろ」
「そんな!『ふさ』の主砲の射程範囲内です!そんなことをしたら、旧式で射程の短い『那珂』は一方的に撃沈されます!」
メガネの大尉はそう言って反論した。
「せめて、あの『民派』の首魁、宰相・西園寺義基の娘を道ずれにしてやる……あの娘の国籍は甲武だ!いくら光学迷彩とジャマーで隠れていようがセンサーの感度を上げれば引っかかるはずだ。そこにこちらのミサイルをあるだけバラまけば……いくら装甲が厚い05式でも無事では済むまい?」
艦橋の全員が静かにうなづいた。
もはや、彼等には『処刑』を免れる手段は無かった。せめて、あの女王様気取りの素行不良の女サイボーグを血祭りにあげて、『貴族主義者』の意地を故国に見せつける以外にできることは残されていなかった。
彼等は自分達が『捨て石』であることに誇りを持っていた。その矜持だけで今まで耐えがたい現状に耐えてきた。
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近藤の心にはすでに迷いは無かった。
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