【改訂版】特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第一部 『特殊な部隊始まる』

橋本 直

文字の大きさ
上 下
111 / 137
戦地

第111話 国士の悪あがき

しおりを挟む
「敵正面の友軍機……全機撃墜されました……」

 第六艦隊分遣艦隊旗艦『那珂』の狭いブリッジに通信士の悲痛な言葉が響いた。

「近藤さん……」

 艦長は複雑な表情で事態を黙って見つめていた近藤中佐に声をかけた。

「まだだ……我々が正面だけに戦力を配置していると思ったのか?クバルカ・ラン中佐。『人類最強』と名乗ってはいるが……やはり見た目通りの8歳女児と言う所かな……」

 近藤はそう言って、艦橋に映し出される画面を眺めた。そこには彼の呪うべき敵、『ふさ』の背後からの映像が映っていた。

「馬鹿が……正面の機体は『おとり』だよ……あの馬鹿な幼女とおしゃべりをしている間に展開させた……さて……仕上げといくかね?母艦を沈められたらさすがの『飛将軍』も手も足もでんだろうて」

 そう言って近藤はうなづく。

「『国士』各機……攻撃よろし……」

 通信士がそうつぶやいた瞬間、『ふさ』の背後を映していた画面が途切れた。

「なに!」

 近藤は叫び、そして舌打ちした。回り込んだ友軍機が次々と爆発する光景が拡大された映像で見て取れた。

「『ビッグブラザー』……意地でも『東和共和国』には手を出させんと言うつもりか……そうまでして自国の利益だけを守って……」

 艦橋にいる全員が悟った。『ふさ』には多数の『東和共和国』の国籍を持つ『特殊な部隊』の隊員が乗っている以上、『東和共和国』の戦死者をゼロにすることだけを考える『ビッグブラザー』の電子戦の魔の手からは逃れることができないということを。

「確か、クバルカ・ラン中佐も『遼南共和国』から亡命後、『東和共和国』の国籍を取って東和共和国陸軍からの出向と言う形であの『馬鹿集団』の指揮をしているとか……我々にはもう……」

 艦長の言葉にはもう希望の色は残ってはいなかった。

「このままで終われるか……我々は『狼煙のろし』とならねばならん……後ろに続く同志達のためにも……一矢報いねば……」

 機動性に欠ける司法局実働部隊の05式の戦線到着にはまだ時間があった。

「そうだ……『東和共和国』の国民でなければいいわけだ……丁度いいのがいるな……」

 そんな独り言を言った近藤は索敵担当のレーダー担当者のメガネの大尉の肩を叩いた。

「アクティブセンサーの感度を上げろ」

「そんな!『ふさ』の主砲の射程範囲内です!そんなことをしたら、旧式で射程の短い『那珂』は一方的に撃沈されます!」

 メガネの大尉はそう言って反論した。

「せめて、あの『民派』の首魁、宰相・西園寺義基の娘を道ずれにしてやる……あの娘の国籍は甲武だ!いくら光学迷彩とジャマーで隠れていようがセンサーの感度を上げれば引っかかるはずだ。そこにこちらのミサイルをあるだけバラまけば……いくら装甲が厚い05式でも無事では済むまい?」

 艦橋の全員が静かにうなづいた。

 もはや、彼等には『処刑』を免れる手段は無かった。せめて、あの女王様気取りの素行不良の女サイボーグを血祭りにあげて、『貴族主義者』の意地を故国に見せつける以外にできることは残されていなかった。

 彼等は自分達が『捨て石』であることに誇りを持っていた。その矜持だけで今まで耐えがたい現状に耐えてきた。

「道連れにしてやる……」

 近藤の心にはすでに迷いは無かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

我ら新興文明保護艦隊

ビーデシオン
SF
もしも道行く野良猫が、百戦錬磨の獣戦士だったら? もしも冴えないサラリーマンが、戦争上がりのアンドロイドだったら? これは、実際にそんな空想めいた素性をもって、陰ながら地球を守っているエージェントたちのお話。 ※表紙絵はひのたけきょー(@HinotakeDaYo)様より頂きました!

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Panssarivaunu Saga

高鉢 健太
SF
ふと気が付くとどうやら転生したらしい。 片田舎の村でのんびりスローライフが送れていたんだけど、遺跡から多脚戦車を見つけた事で状況が変わってしまった。 やれやれ、せっかくのスローライフを返してほしい。 ビルマの鉄脚の主人公「戦闘騎」を魔法世界へ放り込んでみた作品。

鎌倉最後の日

もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...