105 / 137
集まり行くギャラリー
第105話 老提督の愚痴
しおりを挟む
地球連邦欧州宇宙軍遼州艦隊。その旗艦である『マルセイユ』は指揮下の艦船を楯にして、じっと遼州系アステロイドベルト外の宙域を進行していた。ブリッジに並ぶ艦隊首脳陣のピケ帽はただ目の前に広がるデブリを見つめていた。
「カルビン提督」
自動ドアが開き、諜報担当士官が入ってきた。カルビン提督と呼ばれたひときわ長身の老提督は、静かに入ってきた若者に視線を送った。
「現在、この宙域には……」
「君。年はいくつかね?」
長身の老人。カルビン提督は若い通信士官の言葉をさえぎって静かにそう言った。驚いたような顔をした後将校は口を開いた。
「はっ、26になります!」
「そうか。それでは君が手にしている情報を当ててみようか?現在この宙域には我々の艦隊ばかりでなく、殆どの宇宙艦隊を所有する勢力の艦隊で埋まっていると言う事だろ?」
「はい!その通りであります!」
青年士官はカルビンの言葉に思わず最敬礼をしていた。
「それだけ知らせてくれれば君の任務は終わりだ。下がって休みたまえ」
「ありがとうございます!」
情報将校はもう一度最敬礼をすると颯爽とブリッジを出て行った。
「アステロイドベルトでは『遼帝国』宇宙軍と地球遼州派遣軍指揮下のアメリカ海兵隊がにらみ合いと……」
手前に立っていた首脳の一人が中央の画面に目をやる。そこには一つの大きめの小惑星を巡りにらみ合う遼帝国軍の艦隊とそれに呼応するように動き出しているアメリカ海兵隊の艦隊の画像があった。
「遼帝国の山猿とアメリカは『茶番』に夢中で我々には関心は無しか……これから起こる出来事には我々にもそれを見学する資格があるらしいね」
静かに老提督ジャン・カルビンはそう口にしていた。手前の白髪の士官はそのままレーザーポインターで画面の端に映っている艦に目をやる。
イギリスの外惑星活動艦の姿がそこにはあった。
「しかしわざわざユニオンジャックが来ていると言う事は、今回の『イベント』は連中にも関心がある出来事のようだ……アメリカの『魔法研究』の情報についてはアングロサクソンの間でもまったく水漏れが無いというところですか?」
艦隊付参謀長が切り出した。
「私も資料に目を通したが、直接この目に見るまではその中身を信用するつもりは無いよ。アメリカが来ないのは見るまでも無く、彼らが『魔法』と呼ぶ遼州人の力のその被害にあったことがあるんだろうね。これはあくまで私の私見だが」
「それでは諜報部からの19年前のネバタ州の実験施設の事故と言うのは?」
カルビンは静かにずれたピケ帽を直しながら言葉を発する。
「まず間違いなく我々がこれから目にするであろう事実と関係がある。その事だけは確かだろう。ゲルパルトの秩序の守護者を自認する老人から私的に送ってもらったメモにも、驚天動地の大スペクタクルの末に、甲武国の貴族主義者が最期を迎えると……それほどうまくいくとは思わんがね」
静かにデブリの中に戦艦の巨体が吸い込まれていく。
「艦長。無人偵察機の用意は出来ているか?」
カルビンは少し離れた所で海図を見ていたマルセイユの艦長にそう尋ねた。
「全て問題有りません!遼州同盟司法局実働部隊の実力と言うものの全てを知る事ができるでしょう」
にこやかに答える艦長の言葉にカルビンは表情をこわばらせつつうなづいた。
「嵯峨惟基。そう簡単に手札を晒す人物ではない。私の聞いてる限り、そう言う男だ。ただし確実にいえることは、これから我々は彼が仕組んだ一つの歴史的事実を目の当たりにする事になると言う事だ。不本意では有るが、我々はもう既に彼の手の内にある。そして彼は何手で我々をチェックメイトするかまで読みきった上でこの事件を仕組んだ。私はそう考えているよ。ルドルフ・カーンは今回の対局は負けと踏んで、次の対局に備えている……やはり、『一流』は違うという所かな」
明らかに不機嫌な提督の反応に、艦長は息を飲んだ。
「原子力爆弾の投下が時代を変えたように、超空間航行が人類の生活空間の拡大を引き起こしたように、明らかにこれから我々の目にする事で時代が変わる。確実にいえることはそれだけだ。地球人の私には不本意な話だが」
そうはき捨てるように言うとカルビン提督は静かに眼を閉じた。
「カルビン提督」
自動ドアが開き、諜報担当士官が入ってきた。カルビン提督と呼ばれたひときわ長身の老提督は、静かに入ってきた若者に視線を送った。
「現在、この宙域には……」
「君。年はいくつかね?」
長身の老人。カルビン提督は若い通信士官の言葉をさえぎって静かにそう言った。驚いたような顔をした後将校は口を開いた。
「はっ、26になります!」
「そうか。それでは君が手にしている情報を当ててみようか?現在この宙域には我々の艦隊ばかりでなく、殆どの宇宙艦隊を所有する勢力の艦隊で埋まっていると言う事だろ?」
「はい!その通りであります!」
青年士官はカルビンの言葉に思わず最敬礼をしていた。
「それだけ知らせてくれれば君の任務は終わりだ。下がって休みたまえ」
「ありがとうございます!」
情報将校はもう一度最敬礼をすると颯爽とブリッジを出て行った。
「アステロイドベルトでは『遼帝国』宇宙軍と地球遼州派遣軍指揮下のアメリカ海兵隊がにらみ合いと……」
手前に立っていた首脳の一人が中央の画面に目をやる。そこには一つの大きめの小惑星を巡りにらみ合う遼帝国軍の艦隊とそれに呼応するように動き出しているアメリカ海兵隊の艦隊の画像があった。
「遼帝国の山猿とアメリカは『茶番』に夢中で我々には関心は無しか……これから起こる出来事には我々にもそれを見学する資格があるらしいね」
静かに老提督ジャン・カルビンはそう口にしていた。手前の白髪の士官はそのままレーザーポインターで画面の端に映っている艦に目をやる。
イギリスの外惑星活動艦の姿がそこにはあった。
「しかしわざわざユニオンジャックが来ていると言う事は、今回の『イベント』は連中にも関心がある出来事のようだ……アメリカの『魔法研究』の情報についてはアングロサクソンの間でもまったく水漏れが無いというところですか?」
艦隊付参謀長が切り出した。
「私も資料に目を通したが、直接この目に見るまではその中身を信用するつもりは無いよ。アメリカが来ないのは見るまでも無く、彼らが『魔法』と呼ぶ遼州人の力のその被害にあったことがあるんだろうね。これはあくまで私の私見だが」
「それでは諜報部からの19年前のネバタ州の実験施設の事故と言うのは?」
カルビンは静かにずれたピケ帽を直しながら言葉を発する。
「まず間違いなく我々がこれから目にするであろう事実と関係がある。その事だけは確かだろう。ゲルパルトの秩序の守護者を自認する老人から私的に送ってもらったメモにも、驚天動地の大スペクタクルの末に、甲武国の貴族主義者が最期を迎えると……それほどうまくいくとは思わんがね」
静かにデブリの中に戦艦の巨体が吸い込まれていく。
「艦長。無人偵察機の用意は出来ているか?」
カルビンは少し離れた所で海図を見ていたマルセイユの艦長にそう尋ねた。
「全て問題有りません!遼州同盟司法局実働部隊の実力と言うものの全てを知る事ができるでしょう」
にこやかに答える艦長の言葉にカルビンは表情をこわばらせつつうなづいた。
「嵯峨惟基。そう簡単に手札を晒す人物ではない。私の聞いてる限り、そう言う男だ。ただし確実にいえることは、これから我々は彼が仕組んだ一つの歴史的事実を目の当たりにする事になると言う事だ。不本意では有るが、我々はもう既に彼の手の内にある。そして彼は何手で我々をチェックメイトするかまで読みきった上でこの事件を仕組んだ。私はそう考えているよ。ルドルフ・カーンは今回の対局は負けと踏んで、次の対局に備えている……やはり、『一流』は違うという所かな」
明らかに不機嫌な提督の反応に、艦長は息を飲んだ。
「原子力爆弾の投下が時代を変えたように、超空間航行が人類の生活空間の拡大を引き起こしたように、明らかにこれから我々の目にする事で時代が変わる。確実にいえることはそれだけだ。地球人の私には不本意な話だが」
そうはき捨てるように言うとカルビン提督は静かに眼を閉じた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞
橋本 直
SF
地球人類が初めて地球外人類と出会った辺境惑星『遼州』の連合国家群『遼州同盟』。
その有力国のひとつ東和共和国に住むごく普通の大学生だった神前誠(しんぜんまこと)。彼は就職先に困り、母親の剣道場の師範代である嵯峨惟基を頼り軍に人型兵器『アサルト・モジュール』のパイロットの幹部候補生という待遇でなんとか入ることができた。
しかし、基礎訓練を終え、士官候補生として配属されたその嵯峨惟基が部隊長を務める部隊『遼州同盟司法局実働部隊』は巨大工場の中に仮住まいをする肩身の狭い状況の部隊だった。
さらに追い打ちをかけるのは個性的な同僚達。
直属の上司はガラは悪いが家柄が良いサイボーグ西園寺かなめと無口でぶっきらぼうな人造人間のカウラ・ベルガーの二人の女性士官。
他にもオタク趣味で意気投合するがどこか食えない女性人造人間の艦長代理アイシャ・クラウゼ、小さな元気っ子野生農業少女ナンバルゲニア・シャムラード、マイペースで人の話を聞かないサイボーグ吉田俊平、声と態度がでかい幼女にしか見えない指揮官クバルカ・ランなど個性の塊のような面々に振り回される誠。
しかも人に振り回されるばかりと思いきや自分に自分でも自覚のない不思議な力、「法術」が眠っていた。
考えがまとまらないまま初めての宇宙空間での演習に出るが、そして時を同じくして同盟の存在を揺るがしかねない同盟加盟国『胡州帝国』の国権軍権拡大を主張する独自行動派によるクーデターが画策されいるという報が届く。
誠は法術師専用アサルト・モジュール『05式乙型』を駆り戦場で何を見ることになるのか?そして彼の昇進はありうるのか?
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第三部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。
一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。
その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。
この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。
そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。
『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。
誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?
歴史改変戦記 「信長、中国を攻めるってよ」
高木一優
SF
タイムマシンによる時間航行が実現した近未来、大国の首脳陣は自国に都合の良い歴史を作り出すことに熱中し始めた。歴史学者である私の書いた論文は韓国や中国で叩かれ、反日デモが起る。豊臣秀吉が大陸に侵攻し中華帝国を制圧するという内容だ。学会を追われた私に中国の女性エージェントが接触し、中国政府が私の論文を題材として歴史介入を行うことを告げた。中国共産党は織田信長に中国の侵略を命じた。信長は朝鮮半島を蹂躙し中国本土に攻め入る。それは中華文明を西洋文明に対抗させるための戦略であった。
もうひとつの歴史を作り出すという思考実験を通じて、日本とは、中国とは、アジアとは何かを考えるポリティカルSF歴史コメディー。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる