【改訂版】特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第一部 『特殊な部隊始まる』

橋本 直

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予定された演習

第73話 毎度お馴染みの

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 飲むのはまた月島屋だった。

「はー……今日は何にしようかな……」

 かなめはそう言いながら嫌そうな顔でラム酒『レモンハート』とグラスを運んで来たこの店のお手伝いをしている中学生、家村小夏を一瞥するとそう言った。

「いつも通り焼鳥盛り合わせでしょ!」

「違いますー!今日はつくねを先に頼もうと思ってたんですー!」

「お母さん!レバー三人前!」

「アタシはレバーは駄目なの!」

 かなめと小夏のやり取りはまるで子供のそれだった。

「それより……アメリア。何か言うことがあるんじゃないか?」

 アメリアの正面に座っていたカウラはそう言っていつもの真面目な表情でアメリアを見つめた。

「言うこと?何が?」

 糸目で相変わらずのとぼけた調子でアメリアは返した。

「そうだな……今日珍しくちっちゃい姐御が仕事をしてた。久々の演習か?」

 かなめはそう言って静かにグラスに酒を注いだ。

「知ってるんだ……へー……」

 アメリアはそう言いながら周りを見回して誰も見ていないことを確認すると小声で話し始めた。

「かなめちゃんの想像通り……演習よ。しかも今回は参加部隊はうちだけ」

「うちだけ?東和陸軍の火力演習に協力するとかそう言うことではないのか?」

 カウラは東和陸軍からの出向者なのでそう言う事情に詳しいのだろうと思いながら誠は静かに話を聞いていた。

「違うの……しかも場所はアステロイドベルト……つまり宇宙空間での戦闘訓練って訳」

「まあ……『ふさ』がある以上、宇宙での作戦行動も想定内だよな……ってオメエ等少しは仕事しろよ」

「そう言うかなめちゃんはしてるの?」

 アメリアに痛いところを突かれてかなめはそのまま黙り込んだ。

「そんなにうちって暇なんですか……って僕が来てからずっと走ってるか遊んでるかしかしていないような気がするのは事実なんですが……」

 誠の言ってはいけない発言に三人の女性上司達は厳しい視線を誠に向けてきた。

「すみません……」

 そんなことを言い合っているうちに頼んでもいないのに小夏がビールとカウラ用の烏龍茶を運んで来た。

「今日も焼鳥盛り合わせで」

「アタシはつくねな!」

「はいはい」

 アメリアの注文とかなめの威圧を軽くいなした小夏はカウンターの向こうに姿を消した。

「で?アステロイドベルトって言っても広いぞ……遼北領か?ゲルパルト領か?それとも……」

 一口酒を口に含んだ後、かなめはそう言ってアメリアをにらんだ。

「どっちも外れ。甲武領のアステロイドベルト……例の『第六艦隊』のいるところって訳」

 アメリアの『第六艦隊』と言う言葉でかなめとカウラの表情が突如険しくなった。

「第六艦隊……本間さんのところだな……」

 仏頂面の小夏から皿を受け取りながらかなめが難しい顔でつぶやく。

「第六艦隊だとなにかまずいことでもあるんですか?」

 何も知らない誠の顔を三人は複雑な表情を帯びた瞳で見つめた。

「前の戦争で甲武は負けて軍縮を強要されたわけだ。七つあった艦隊は一つ減らして六つになった。しかも、艦船の数も制限されたから、実質、第六艦隊は艦隊の名前はついているが艦隊の体をなしていない」

 カウラの言葉がいまいち理解できない誠だが、その表情から演習場所がかなり大変な場所だということは予想がついた。

「その第六艦隊の司令が本間中将。海軍の平民出の将軍として期待されている人なんだが……」

 つくねを口にしながらかなめが話を続ける。

「あの人の信条は『軍は政治に介入すべきでない』ってのがあってね。しかもかなり原理主義的な解釈の仕方をしている人なんだ……結果、他の艦隊で思想的にかなりヤバい連中が集まる傾向にあるってわけだ。人呼んで『本間思想矯正きょうせい院』って訳だ」

 真剣に話すかなめだが、社会人経験の少ない誠にはいまいちその理由が腑に落ちなかった。

「あれなのよ。『軍人が軍服を着て政治活動をするな』って言うのが甲武の軍部のルールだから。私も聞いてるわよ……民派の過激な思想を持った若手士官が対抗勢力の将官の暗殺を計画して全員投獄されたのも……あれも甲武海軍第六艦隊所属の将校ばかりだったわよね」

 アメリアの言葉に『暗殺』などと言う物騒な言葉が出てきたことで誠はようやく今回の演習に何か裏があることは予想できた。

「そうだ。本間さんは平民だが金持ちの出だからな……金で苦労したことが無いから金でどうにかできる人じゃない。海軍上層部は頭の固い本間さんになんとか失点をつけようと思想的に過激な問題児ばかり所属させる……結果として海軍の貴族主義者の危ないのが何人も所属しているってわけだ……」

「貴族主義者ですか……甲武ってまだ貴族とかいるんですね」

 ビールを飲んだ後につぶやいた誠の言葉を聞くと全員が大笑いを始めた。

「そりゃあ『大正ロマンあふれる国』だもの、甲武は。当然、貴族も士族もいるわよ……何にも知らないのね、誠ちゃんは」

 アメリアは誠の言葉がかなりツボに入ったようで大笑いをしながらそう叫んだ。

「しかし……本当に無事で済むのか?」

 砂肝串を手に取るとカウラはそう言ってかなめに目をやった。

「無事じゃあ……済まねえだろうな……叔父貴もランの姐御も何か企んでる。いや、同盟の首脳部だってアタシ等があそこに行けば何かをすると踏んでる……アタシはそう見たね」

 かなめはそう言ってつくねを頬張った。

 とりあえず問題はかなり複雑で危険を伴うことらしい。誠に理解できたのはそれだけのことだった。

「何かって……何をです?」

 誠のボケに三人はあきれ果てたような顔をしていた。

「テメエがその中心になるかも知れねえんだぞ!あの『法術増幅システム』。あれについちゃあアタシもよくは知らねえが……オメエがその初めての機体に乗るわけだ。当然、これまで実戦で使用されたことは無い機体だ」

「戦闘になるってことですか!」

 かなめの言葉を聞いてようやく誠は自分が置かれた立場を理解した。

 嵯峨が誠を作為的にこの部隊に入るように仕向けたその目的がはっきりしようとしている。その事実に誠は気づくと同時に背筋に寒いものが走るのを感じていた。

「誰かが撃つからな……撃つなって言われると必ず撃つ女」

「そうよね」

 カウラとアメリアがラムを飲むかなめに目を向けた。

「そりゃあ……撃つなって三回言われたら撃てってことだろ?普通」

「それはバラエティー番組のお約束であって実際撃つ人はいないと……撃つんですか?西園寺さんは」

 誠は小夏からビールを受取りながらカウラに目をやった。

「こいつなら撃つ。間違いなく撃つ」

「撃つわよね……かなめちゃんは」

 カウラとアメリアの言葉を無視することを決めたかのようにかなめは葉巻を取り出して吸い始めた。

「撃たないでくださいね……僕は平和主義者なんて……」

「相手が武装しててそれなりの覚悟があったら撃つだろ?普通」

 結局はかなめは撃つらしいことを理解した誠は再びこの『特殊な部隊』からの逃走について考えをめぐらし始めた。
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