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体育会系体力増幅法

第39話 思い出の品

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 部隊の本部の機動部隊詰め所に出勤した誠の机の上になぜか大きめの箱が置いてあった。

「なんです?これ……」

 誠は不審そうにすでに出勤してきていたカウラに尋ねる。

「ああ、クバルカ中佐が昨日の夜に貴様の家に挨拶に行ったときに受け取ったそうだ」

 カウラは興味なさそうにそれだけ言うとそのまま端末のキーボードをたたき続ける。

「母さんからかな?」

 誠はそのまま上のガムテープをはがして中をのぞき見た。中には古びた包みが入っていた。

「なんだろう?」

 誠が包みを開けるとそこには高校時代の野球の練習用ユニフォームとグラブ、それにスパイクが入っていた。

「なんでだ?」

 高校三年の夏から目にしていないものを目にして誠は困惑した。

「おう、来てたのか?」

 声がするので振り向いた誠の視線の下にちっちゃなランが立っていた。

「なんでこれを?」

 誠はあまりいい思い出の無いユニフォームを見て困惑しながらランに尋ねた。

「オメーはあれだろ?野球やんだろ?だったらってんで、オメーの母ちゃんに頼んでもらってきた。アタシはうちの草野球チームの名誉監督だかんな」

 褒めてくれと言うようにランはそう言って胸を張る。

「僕……野球はもうしないんです」

 自嘲気味に笑いながら誠はそうつぶやいた。

「なんでだよ。『都立の星』とか呼ばれてたそうじゃねーか。左の本格派で一回戦は完全試合をやったって……」

「完全試合!」

 それまでキーボードを打つことに集中していたカウラがそう言って誠の気弱そうな顔を覗き見る。

「あれですよ。出ると負けチーム同士の初戦ですから。それに7回コールドですし」

 謙遜する誠の肩をランが感心したような表情で叩く。

「いーじゃねーか。勝って誇らず。その気持ち好きだぜ。それにこいつがあれば今日一日走っていても大丈夫だろ?」

「へ?一日中走る?」

 いい顔で誠を見上げてくるランの言葉に誠は戸惑った。

「パイロットは体力勝負!当然、その基本は下半身にあり!とりあえず走れ!何があっても走れ!テメーは今日一日走り続けろ!なんならうちのグラウンドは照明があるから夜通し走ってもいいぞ!」

 ランは腕組みをしてそう言い放った。

「走る……そんな前近代的なトレーニングなんて……」

 いきなりの命令に困惑する誠の顔をランは厳しい目つきでにらみつけた。

「アタシは『体育会系』だって言ったろうが!さっさと着替えてこい!アタシがぶっ叩いて鍛えてやる!」

 誠は思った。こんな調子なら誰もが一週間で出ていくだろうと。

 しかし、ランがとてつもない力の持ち主だと知っている誠は怖くて言い出せずにそのままランに追われて機動部隊詰め所を後にした。
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