【改訂版】特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第一部 『特殊な部隊始まる』

橋本 直

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お姉さん達と飲み会

第29話 月島屋

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「はい!到着!」

 コインパーキングに車が止まるとアメリアがそう言ってシートベルトに手をかけた。

「ここは?」

「豊川の駅前商店街の外れだな。まあ、豊川の駅前には何でもあるから」

 誠の問いにアメリアは笑顔で答える。

「三駅東都よりの羽衣はごろもだと結構大きい駅でお店が多いけど……あそこは混むかんなあ」 

 かなめはそう言うと助手席から伸びをしながら駐車場に降り立つ。誠は後部座席で身を縮めて周りを見渡した。地方都市の繁華街の中の駐車場。特に目立つような建物も無い。

 黒いタンクトップに半ズボンと言うスタイルのかなめは、周りを見回しながら伸びをした。 

「新入り。いつまでそこで丸まってるんだ?」 

 誠は後部座席の奥で手足をひっこめて丸まりながら二人を眺めていた。

「西園寺がシートを動かさなければ彼は降りられない。そんなことも分からないのか?」

 清楚なシャツ姿のカウラが噛んで含めるようにかなめに言った。 

「すいません……」 

 誠は照れながら頭を下げる。その姿を見たかなめはめんどくさそうにシートを動かして誠の出るスペースを作ってやった。大柄な誠は体を大きくねじって車から降り立った。

 カウラは作り物のような笑顔で自由になった手足を伸ばす誠の姿を見つめている。一方、かなめはわざと誠から目を反らしてタバコに火をつけた。

「じゃあ、行くか?」 

「はい!行きましょうね!」

 そう言いながらかなめとアメリアは二人を連れて歩き出した。

「歓迎会って……なんかうれしいですね!ありがとうございます」 

 無表情に鍵を閉めるカウラにそう話しかける。ムッとするようなアスファルトにこもった熱が夏季勤務服姿の誠を熱してそのまま汗が全身から流れ出るのを感じた。

「それが隊長の意向だ。私はそれに従うだけだ」 

 そうは言うものの、カウラの口元には笑顔がある。それを見て誠も笑顔を作ってみた。

「何二人の世界に入ってるんだよ!これからみんなで楽しくやろうって言うのに!」

「そうよ!カウラちゃんずるい!」

 ランがかなめ達三人を『明るい奴』と言ったことを思い出して誠は笑顔を浮かべた。

 かなめは笑顔の誠と目が合うと少し照れたように目を逸らして暮れなずむ空を見上げた。

「それと……だ。まあこれから行く店は、うちの暇人達が入り浸ることになるたまり場みたいな場所だ。とりあえず顔つなぎぐらいしといた方が良いぜ。カウラ!ったくのろいなオメエは!」 

 急ぎ足のかなめに対し、カウラはゆっくりと歩いている。誠はその中間で黙って立ち止まった。

「貴様のその短気なところ……いつか仇になるぞ?」

 そう言うとカウラは見せ付けるように足を速めてかなめを追い抜いた。 

「う・る・せ・え・!」 

 かなめはそうそう言うと手を頭の後ろに組んで歩き始めた。駐車場を出るとアーケードが続くひなびた繁華街がそこにあった。誠は初めての町に目をやりながら一人で先を急ぐカウラとタバコをくわえながら渋々後に続くかなめの後を進んだ。

「あそこの店だって……。またあの糞餓鬼が待ってやがる……」 

 二階建ての『月島屋』と看板の出ている小ぎれいな建物が誠の目に飛び込んできた。

その前に、箒を持ったかなめに似たおかっぱの紺色の制服姿の女子中学生が一人でかなめをにらみ付けていた。

「おい、外道!いつになったらこの前酔っ払ってぶち壊したカウンターの勘定済ませるつもりだ?」 

 夕方の赤い光が白いワイシャツ姿の少女を照らしている。誠は少女と視線が合った。

 少女はそれまでかなめに向けていた敵意で彩られた視線を切り替えて、歓迎モードで誠の顔を見つめる。そしてカウラに目をやり、さらに店内を見つめ。ようやく納得が言ったように箒を立てかけて誠を見つめた。

「この人が大師匠が言っていた新しく入る隊員さんですか、アメリアの姐さん?」 

 少女は先ほどまでのかなめに対するのとは、うって変わった丁寧な調子でアメリアに話しかける。

「そうよ!彼が神前誠少尉候補生。小夏ちゃんも東和宇宙軍からうちに入るのが夢なんだったら後でいろいろと話を聞くといいんじゃない?」 

 その説明を聞くと、店の前にたどり着いた誠を憧れに満ちた瞳で眺めた後、小夏は敬礼をした。

「了解しました。神前少尉!あたしが家村小夏というけちな女でございやす。お見知りおきを!ささっ!どうぞ」

 掃除のことをすっかり忘れて、無駄にテンションを上げた小夏に引き連れられて、四人は月島屋の暖簾をくぐった。

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