【改訂版】特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第一部 『特殊な部隊始まる』

橋本 直

文字の大きさ
上 下
16 / 137
気のいいアンちゃん

第16話 結果、気に入られた

しおりを挟む
「おい、バイクは好きか……」

 そう言って島田は自分のピカピカのバイクを見せた。

「嫌いじゃないですよ。メカニカルなものが好きなんで」

 とりあえず話題を合わせようと誠はそう言った。事実ではあるので、その言葉にやましさは感じなかった。

「そうか!好きか!やっぱ良いわ、お前。ますます気に入った。パイロットでメカを理解しようとしているのは、あのちっちゃな姐御だけだからな。好きか……好きなんだな」

 そう言って島田は満足げにうなづき、自分のバイクのシートをなでる。

「大学もそれで選んだんで」

 確かにそれも事実だった。何かわからないが、何かを作りたい。その為に必要な機械、化学のことを学べる学科に入りたい。その為に理科大にその学科があるので、それなりに勉強して合格した。それもまた事実だった。

「そうか、理科大は色々学科がそろってるからな。俺の入った電大は電気系の学科は色々あるが、機械となると……少ないんだ学科が」

 瓶の『モヒート』の味は癖になるものだった。誠はそれを味わいながら、上機嫌の島田を観察していた。

「今、少し俺のこと馬鹿にしてる?俺の方が偏差値高いとか思ってる?」

 島田はチューハイの缶を握るとそう言いながら誠をにらみつけた。

「違います!そんな目してないです!」

 瓶のモヒートを飲み終わった誠は、そう言いながら空いた缶を地面に置いた。

「じゃあ……」
 
 そう言いながら、島田はつなぎの後ろのポケットから小銭入れを取り出した。

「なんです?」

 島田は立ち上がって小銭入れを脇に挟んだ。そのままバイクに近づいていく。

「何か言いたいことがあるんじゃないですか?」

「ちょっと待ってろ、タバコだ」

 そう言って島田はバイクの前輪の前に置いてあった缶を手に取る。

「タバコじゃないんですか?」

 その缶を眺めて手に取って見回している島田に誠は声を掛ける。

「缶ピー。缶に入ってる。ほら」

 そう言って島田は白いものを取り出した。タバコが身近なものではない誠にもその白く細長い物体はタバコにしか見えなかった。島田はそれを口にくわえると、別のポケットから取り出したジッポーでタバコに火をつけた。そして、脇に挟んでいた小銭入れの中を見ながら誠に近づいてくる。ニコニコ笑いながら近づいてくる島田を見て、誠は直感で悪いことが起きるようなそんな雰囲気を感じた。

「ここに五円玉あるじゃん」

 そう言って島田は誠に見えるように小銭入れの中から五円玉を取り出して誠の前に取り出す。

「ええ、確かに五円玉ですね」

 自然と誠は手を伸ばす。島田は当然のようにそれを誠の手の中央に置いた。

「五円やる。それでスパゲティーナポリタンを作れ。時間は五秒やる。それで作って俺に食わせろ」

 突然、島田は理解不能な鳴き声をあげた。誠は理解できずにただこういうしかなかった。

「そんなの無理ですよー!」

 明らかに困り果てている誠に島田はタバコの煙を吹きかけた。

「やってもみねえのに、あきらめるな!やりゃあできるんだよ!なんでも……じゃあ数えるぞ。五秒で作れ。1,2、3……」

 島田は右手を出して指を折って数えていく。

「できないですよ!そんなこと!できないと何をするんですか!」

 誠は半泣きで叫ぶ。島田はその表情に満足したように話を続けた。

「んなもん、決まってるだろ?俺がタバコを吸っててこう言ったら……そして、その願いがかなえられない時は当然……根性焼き」

 そう言って島田は咥えていたタバコを手に取る。

「根性焼き……聞いたことはありますが……何をどうするか……」

 誠はどうせ島田のことだから、ろくでもないことをするとは想像しているが、確認のためにそう尋ねた。

「さっきの五円玉を渡したのと同じ要領でこのタバコを手のひらに押し付ける。それが根性焼き」

 島田はそう言うと悪党の笑顔を浮かべながら誠を見つめた。

「それは単なるいじめですよ!」

 もう目の前の不良そのものの島田にはこうしてジェスチャーで伝えなければ理解できない。その思いから誠は大げさに両腕を振り回しながら叫んだ。

「嘘だよー。ビビった?そんなのやるわけないじゃん。気に入ったって言ってんだろ?冗談だよ。おめえ、偏差値高いわりに馬鹿なんだな」

 そう言ってニヤリと笑うと、島田は誠に背を向けた。

「島田先輩!酷いですよ!これじゃあいじめです!いたずらにしても度が過ぎます!」

 誠は本気で怒りながら、歩いてバイクに向かう島田の背中に向けて抗議した。

「なあに、お前を気に入ったのは本当。これはちょっとしたいたずら。俺のいたずらはどうにも度が過ぎるってちっちゃい姐御からいわれるよ。まあそうなんだろうな」

 そう言うと島田はバイクの前にしゃがみこんだ。

 セミの鳴き声に交じってサイレンの音が響いた。

「昼か……弁当はあるか?」

 立ち上がった島田はそう言ってにやりと笑う。

「持ってきてないですけど……コンビニとかは?」

 誠の問いに島田はあきれ果てたという表情をする。

「そんなもん工場の外まで行かなきゃねえよ。まあ、今日は仕出しの弁当を取ってるから。そいつを食ってけ」

 島田はそう言うと本部の建物に向けて歩き始めた。

「どうもすみません」

「なに謝ってんだよ。オメエはこれまで来た軽薄な馬鹿とは違うんだ。何しろ俺の舎弟しゃていになるんだからな!」

 そう言って誠の肩を叩く島田を見て、誠は少し嫌な予感がした。

「舎弟ですか?」

「そう、舎弟。パシリ、丁稚でっち、下請け。どう呼ぶのがいい?」

 島田は肩で風を切って歩きながらそう言った。

「舎弟、パシリ、丁稚、下請け……どれも嫌ですけど」

「なあに、新人なんて社会に出たらみんなやらされるんだよ、パシリをさ。だから、次の新人が来るまではオメエが一番下のパシリ。さっきの新米もオメエの先輩だから。ちゃんと顔を立てろよ」

 上機嫌の島田を見ながら誠は自分が『体育会系・縦社会』に取り込まれていくのを感じていた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

我ら新興文明保護艦隊

ビーデシオン
SF
もしも道行く野良猫が、百戦錬磨の獣戦士だったら? もしも冴えないサラリーマンが、戦争上がりのアンドロイドだったら? これは、実際にそんな空想めいた素性をもって、陰ながら地球を守っているエージェントたちのお話。 ※表紙絵はひのたけきょー(@HinotakeDaYo)様より頂きました!

火星

ニタマゴ
SF
2074年、人類は初めて火星という星に立つ。 全人類が喜ぶ中、火星人は現れた。 そして、やつはやってくる!地球へと・・・ 全人類VS一人の火星人の戦いが始まったのであった・・・

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

山岳機動小隊

ひるま(マテチ)
SF
遠くフランスの地で行われていた人工ブラックホールの生成実験がもたらしたものは。 それは異世界とを繋ぐ”穴”の出現だった。 "穴”は飛び火するかのごとく、世界のあちこちに出現する。 そして、”穴”の向こう側からやって来る異形の者たち。 彼らは人間を捕食しながらも人類が記憶する生物の概念を完全に無視した存在であった。 もはや彼らとは共存できない。 そこで人類が選択したのは彼らとの全面戦争であった。 彼らに対し、かろうじて強力な火器で対抗できるも、その出現場所は様々で、戦車や装甲車が立ち入れない場所から出現されたら被害は甚大なものとなるのは必至。 政府は厳しい選択を迫られ、やむなく名古屋工科大学で研究が進められていた人工筋肉を流用した特殊車両、険しい山岳地帯でも踏破可能な人型戦闘車両の開発に乗り出す。 ロックキャリバーと名付けられたその車両を何としてでも実用化させるべく、研究員の湊・楓と国防陸上隊士の寝住・岳たちの奮闘が始まる。

鎌倉最後の日

もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...