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海と特殊な部隊
第41話 伝説の剣と守護者達
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「それよりだ」
嵯峨はそう言うとほこりにまみれた壁に向かって進み、その先にあるロッカーを開けた。紫色の布で覆われた一メートル強の長い物を取り出すと誠に差し出した。
「まあそいつらを追っかけるのは安城さん達に任せて」
嵯峨は取り出した紫色の袋の紐を解いた。抜き出されたのは朱塗りの鞘の刀だった。
「刀ですか」
「そう、刀」
そう言うと嵯峨はその剣を鞘からゆっくりと抜いた。厚みのある刀身が光に照らされて光る。明らかに美術刀や江戸時代の華奢な作りの刀ではなく明らかに人を斬るために作られたとわかる光を浮かべた刀だった。
「お父様。それは『バカブの剣」じゃないですか?」
茜がその刃を見ながら言った。聞きなれない響きの言葉に誠達は真剣な表情の嵯峨親子の視線を追った。
「『バカブの剣』……遼州独立の英雄バカブが差していたという名の通った業物だ……遼州に地球から鉄器が伝わった初期に鍛えられた名刀……まあこの星には鉄とカラシニコフライフルが同時に伝わったわけだからあまり役には立たなかったみたいだけどね」
そう言うと嵯峨は電灯の光にそれをかざして見せた。
「一応、神前一刀流の跡取りだ。こいつがあれば心強いだろ?丸太ぐらいは斬ってたもんな、中学生くらいの時には」
そう言うと嵯峨は剣を鞘に収めた。そのまま袋に収め、紐を縛ると誠に差し出す。
「しかし、東和軍の規則では儀礼用以外での帯剣は認められていないはずですよ……それにそんな貴重な刀……どこで手に入れたんですか?」
自分が射撃で信用されていないことは知っていたがこんなものを渡されるとは思っていなかった誠はとりあえず言い訳をしてみた。
「ああ、悪りいがお前の軍籍、甲武海軍に移しといたわ。あそこは勤務中は帯剣してもよいという決まりがある。いわゆる『出向』って奴。それとこいつの入手経路は秘密……今のところはだけどね」
嵯峨はあっさりとそう言った。確かに甲武海軍は士官の帯剣は認められている。誠の階級は曹長だが、幹部候補教育を受けていると言うことで強引に押し切ることくらい嵯峨という人物ならやりかねない。
「そんなもんで大丈夫なんか?」
「無いよりましと言うところか?それにあちらさんの要望は誠の勧誘だ。例え捕まってもそれほど酷いことはしないんじゃねえの?」
半信半疑の表情のかなめを見やりながら嵯峨はそう言って再び机の端に積み上げてあったタバコの箱に手をやった。
「でもこれ持って歩き回れって言うんですか?」
誠は受け取った刀をかざして見せる。
「まあ普段着でそれ持って歩き回っていたら間違いなく所轄の警官が署まで来いって言うだろうな」
「隊長、それでは意味が無いじゃないですか!」
突っ込んだのはカウラだった。誠もうなづきながらそれに従う。
「そうなんだよなあ。任務中ならどうにかなるが、任務外では護衛でもつけるしかねえかな……困ったな……どうしようか?」
どこか含みのある笑みを浮かべながら嵯峨は誠達を見回した。その何かを待っているような表情が誠には何かの前触れを示しているように見えた。
「叔父貴!下士官寮に空き部屋あったろ!」
急にかなめが頭を突き出してくる。それに思わず嵯峨はのけぞった。
「いきなりでかい声出すなよ!ああ、あるにはあるがどうしたんだ?」
タバコに火をつけようとしたところに大声を出された嵯峨がおっかなびっくり声の主であるかなめの顔を伺っている。
「アタシが護衛に付く」
全員の目が点になった。
「護衛?」
カウラとアメリアが顔を見合わせる。
「護衛……護衛?」
誠はまだ状況を把握できないでいた。
「隊長、それなら私も護衛につきます!」
言い出したのはアメリアだった。宣言した後、アメリアはかなめをにらみつける。
「一人だけ良いカッコなんてさせないわよ」
珍しく対抗心むき出しのアメリアに誠はただあきれていた。
「私も護衛に付く」
カウラの言葉にかなめとアメリアの動きが止まった。
「カウラちゃんが?」
「ベルガー!気は確かか?」
アメリアとかなめがまじまじとカウラの顔を見つめた。カウラは動じることなく自分を納得させているかのようにうなづいてた。
「そうかその手があったか」
嵯峨はそう言うと手を叩いた。しかしその表情はむしろしてやったりといった感じに誠には見えた。
「隊長!」
誠の声に泣き声が混じる。女っ気が増えるとあって寮長の島田は大歓迎するだろう。その他の島田派の面々は有給とってでも引越しの手伝いに走り回るのはわかっている。
部隊の人員でもっとも多くのものが所属しているのが技術部である。当然、技術部部長代理である島田正人准尉が事実上の技術部の最高実力者と呼ばれるようになっていた。
変わって部隊の男子の第二の勢力と言える管理部だが、こちらは主計曹長の菰田邦弘がまとめ役についている。
ノリで生きている島田と思い込みで動く菰田。数で勝る島田派だが、菰田派はカウラを女神としてあがめ奉る宗教団体『ヒンヌー教』を興し、その厳格な教義の元、結束の強い信者と島田の鉄拳制裁に耐えかねて島田への個人的な恨みに燃える一部技術部員を巻き込み、勢力は拮抗していた。
寮に三人が入るとなれば、必然的に寮長である島田の株が上がることになる。さらに風呂場の使用時間などの全権を握っている島田が暴走を始めればヒンヌー教徒の妨害工作が行われることは間違いない。
「どうしたの?もっとうれしい顔したらどう?こんな綺麗なお姉さんが三人も来るっていうのよ?」
アメリアがそう言って誠に絡み付こうとしてかなめに肩を押さえつけられる。寮での島田派、菰田派の確執はここにいる士官達の知ることではない。
「じゃあとりあえずそう言うことで」
そう言うと嵯峨は出て行けとでも言うように電話の受話器を上げた。
「そうですわね。私も色々と着任準備がありますのでこれで」
そう言うとさっさと茜は部屋を出た。
「置いてくぞ!神前!」
かなめが叫んだ。茫然と立ち尽くしている誠を置いてカウラとアメリアが隊長室の扉を出ていった。
嵯峨はそう言うとほこりにまみれた壁に向かって進み、その先にあるロッカーを開けた。紫色の布で覆われた一メートル強の長い物を取り出すと誠に差し出した。
「まあそいつらを追っかけるのは安城さん達に任せて」
嵯峨は取り出した紫色の袋の紐を解いた。抜き出されたのは朱塗りの鞘の刀だった。
「刀ですか」
「そう、刀」
そう言うと嵯峨はその剣を鞘からゆっくりと抜いた。厚みのある刀身が光に照らされて光る。明らかに美術刀や江戸時代の華奢な作りの刀ではなく明らかに人を斬るために作られたとわかる光を浮かべた刀だった。
「お父様。それは『バカブの剣」じゃないですか?」
茜がその刃を見ながら言った。聞きなれない響きの言葉に誠達は真剣な表情の嵯峨親子の視線を追った。
「『バカブの剣』……遼州独立の英雄バカブが差していたという名の通った業物だ……遼州に地球から鉄器が伝わった初期に鍛えられた名刀……まあこの星には鉄とカラシニコフライフルが同時に伝わったわけだからあまり役には立たなかったみたいだけどね」
そう言うと嵯峨は電灯の光にそれをかざして見せた。
「一応、神前一刀流の跡取りだ。こいつがあれば心強いだろ?丸太ぐらいは斬ってたもんな、中学生くらいの時には」
そう言うと嵯峨は剣を鞘に収めた。そのまま袋に収め、紐を縛ると誠に差し出す。
「しかし、東和軍の規則では儀礼用以外での帯剣は認められていないはずですよ……それにそんな貴重な刀……どこで手に入れたんですか?」
自分が射撃で信用されていないことは知っていたがこんなものを渡されるとは思っていなかった誠はとりあえず言い訳をしてみた。
「ああ、悪りいがお前の軍籍、甲武海軍に移しといたわ。あそこは勤務中は帯剣してもよいという決まりがある。いわゆる『出向』って奴。それとこいつの入手経路は秘密……今のところはだけどね」
嵯峨はあっさりとそう言った。確かに甲武海軍は士官の帯剣は認められている。誠の階級は曹長だが、幹部候補教育を受けていると言うことで強引に押し切ることくらい嵯峨という人物ならやりかねない。
「そんなもんで大丈夫なんか?」
「無いよりましと言うところか?それにあちらさんの要望は誠の勧誘だ。例え捕まってもそれほど酷いことはしないんじゃねえの?」
半信半疑の表情のかなめを見やりながら嵯峨はそう言って再び机の端に積み上げてあったタバコの箱に手をやった。
「でもこれ持って歩き回れって言うんですか?」
誠は受け取った刀をかざして見せる。
「まあ普段着でそれ持って歩き回っていたら間違いなく所轄の警官が署まで来いって言うだろうな」
「隊長、それでは意味が無いじゃないですか!」
突っ込んだのはカウラだった。誠もうなづきながらそれに従う。
「そうなんだよなあ。任務中ならどうにかなるが、任務外では護衛でもつけるしかねえかな……困ったな……どうしようか?」
どこか含みのある笑みを浮かべながら嵯峨は誠達を見回した。その何かを待っているような表情が誠には何かの前触れを示しているように見えた。
「叔父貴!下士官寮に空き部屋あったろ!」
急にかなめが頭を突き出してくる。それに思わず嵯峨はのけぞった。
「いきなりでかい声出すなよ!ああ、あるにはあるがどうしたんだ?」
タバコに火をつけようとしたところに大声を出された嵯峨がおっかなびっくり声の主であるかなめの顔を伺っている。
「アタシが護衛に付く」
全員の目が点になった。
「護衛?」
カウラとアメリアが顔を見合わせる。
「護衛……護衛?」
誠はまだ状況を把握できないでいた。
「隊長、それなら私も護衛につきます!」
言い出したのはアメリアだった。宣言した後、アメリアはかなめをにらみつける。
「一人だけ良いカッコなんてさせないわよ」
珍しく対抗心むき出しのアメリアに誠はただあきれていた。
「私も護衛に付く」
カウラの言葉にかなめとアメリアの動きが止まった。
「カウラちゃんが?」
「ベルガー!気は確かか?」
アメリアとかなめがまじまじとカウラの顔を見つめた。カウラは動じることなく自分を納得させているかのようにうなづいてた。
「そうかその手があったか」
嵯峨はそう言うと手を叩いた。しかしその表情はむしろしてやったりといった感じに誠には見えた。
「隊長!」
誠の声に泣き声が混じる。女っ気が増えるとあって寮長の島田は大歓迎するだろう。その他の島田派の面々は有給とってでも引越しの手伝いに走り回るのはわかっている。
部隊の人員でもっとも多くのものが所属しているのが技術部である。当然、技術部部長代理である島田正人准尉が事実上の技術部の最高実力者と呼ばれるようになっていた。
変わって部隊の男子の第二の勢力と言える管理部だが、こちらは主計曹長の菰田邦弘がまとめ役についている。
ノリで生きている島田と思い込みで動く菰田。数で勝る島田派だが、菰田派はカウラを女神としてあがめ奉る宗教団体『ヒンヌー教』を興し、その厳格な教義の元、結束の強い信者と島田の鉄拳制裁に耐えかねて島田への個人的な恨みに燃える一部技術部員を巻き込み、勢力は拮抗していた。
寮に三人が入るとなれば、必然的に寮長である島田の株が上がることになる。さらに風呂場の使用時間などの全権を握っている島田が暴走を始めればヒンヌー教徒の妨害工作が行われることは間違いない。
「どうしたの?もっとうれしい顔したらどう?こんな綺麗なお姉さんが三人も来るっていうのよ?」
アメリアがそう言って誠に絡み付こうとしてかなめに肩を押さえつけられる。寮での島田派、菰田派の確執はここにいる士官達の知ることではない。
「じゃあとりあえずそう言うことで」
そう言うと嵯峨は出て行けとでも言うように電話の受話器を上げた。
「そうですわね。私も色々と着任準備がありますのでこれで」
そう言うとさっさと茜は部屋を出た。
「置いてくぞ!神前!」
かなめが叫んだ。茫然と立ち尽くしている誠を置いてカウラとアメリアが隊長室の扉を出ていった。
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