特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第二部 『新たなる敵影』

橋本 直

文字の大きさ
上 下
39 / 62
護衛について

第38話 追跡者

しおりを挟む
「おい、カウラ……気づいてるな」 

 ふざけていたかなめの目が急に光を失ってにごったような表情を浮かべた。

「わかっている。後ろのセダン」 

 信号につかまって、止まった車。誠が振り向けばその運転席と助手席にサングラスをした男の姿が映っていた。

「どこかしらね……噂の遼帝国だったりして」 

 アメリアは小突かれた頭をさすっている。

「捲くか?」 

「いや、どうせあちらさんもこっちの行き先はご存知だろうからな。アメリアはこれを使え」 

 そう言うとかなめは自分のバッグからコンパクトなサブマシンガンを取り出した。

「あきれた。こんなの持ち歩いてたわけ?」 

 アメリアは受け取ったサブマシンガンにマガジンを差込んで眺めている。

「PP91ケダールサブマシンガン。コンパクトだからとりあえず持ち歩くには結構便利なんだぜ」 

「私はこう言うのは持ち歩かないの」 

 そう言いながらもアメリアはボルトを引いて初弾を装填する。

「神前、ダッシュボードを開けてくれ」 

 運転中のカウラの指示に従って、ダッシュボードに入っているカウラの愛用のアストラM903ピストルを取り出す。

「西園寺、どこで仕掛けるつもりだ」 

「次のコンビニのある交差点を左だ。ウィンカーは直前で出せよ。捲こうとする振りだけしとけ」 

 かなめはそう言いながら、昼間弾を撃ちきった愛銃XD40のマガジンに一発、また一発とS&W40ホローポイント弾を装填している。

 カウラは急にウィンカーを出し、すばやくハンドルを切る。後ろのセダンは振り切られまいと、タイヤで悲鳴を上げながらそれに続く。

 細い建売住宅の並ぶ小道。カウラはこの道には似合わない速度で車を走らせる。後ろのセダンは振り切られまいと速度を上げるが、カウラはすばやくさらに細い小道に入り込む。

 一瞬、タイミングをずらされてセダンは行き過ぎた。その間にもカウラの『ハコスカ』はくねり始めた時にねぎ畑の見える道を爆走する。

「この道だと行き止まりますよ!」 

 誠が叫んだ。しかし、三人はそれぞれ手にした銃を眺めながら、まるでこれから起きることがわかっているかのように正面を見つめていた。

 県立豊川商業高校が見える路地でカウラは車を止めた。そして誠はカウラのハンドサインで車を降りて、いかにも楽しそうなかなめ達に連れられて藪に身を潜めた。

 遅れてたどり着いたサングラスの二人の男は車停めると素早く降りたった。彼等の追っていたハコスカには人の気配が無い。

「とりあえず確認だ」 

 助手席から降りた男は、そう言うとそのまま車のシートを確認するべく駆け寄った。エンジンは切られてすぐらしく、熱気を帯びた風が頬を撫でる。二人は辺りを見渡す。明かりの消えた高校の裏門、ムッとするコンクリートの焼ける匂いが二人を包んでいた。

 とりあえず確認を終えた二人が車に戻ろうとした時だった。

「動くな」 

 カウラの声に振り向こうとする助手席の男の背中に硬いものが当たる。相棒はかなめに手を取られてもがいている。

「そのまま手を車につけろ」 

 指示されるままに男はスポーツカーに手をつく。

「おい、どこのお使いだ?」 

 かなめに右腕をねじり上げられた運転手が悲鳴を上げる。

「かなめちゃんさあ。二、三発、腿にでも撃ち込んであげれば、べらべらしゃべりだすんじゃないの?」
 
 サブマシンガンを肩に乗せたアメリアが、体格に似合わず気の弱そうな表情を浮かべる誠を連れてきた。

「それより神前。せっかく叔父貴からダンビラ受け取ったんだ。試し斬りってのもおつじゃないのか?」
 
「わかった、話す!」 

 スポーツカーに両手をついていた男がかなめの言葉に驚いたように、背中に銃を突きつける緑のポニーテールのカウラに言った。

「我々は甲武国海軍情報部のものだ!」 

「甲武海軍ねえ、それにしちゃあずいぶんまずい尾行だな。もう少しましな嘘をつけよ」 

 かなめはさらに男の右腕を強くねじり上げる。男は左手でもれそうになる悲鳴を押さえ込んでいる。

「本当だ!何なら大使館に確認してもらってもかまわない。それに尾行ではない!護衛だ」 

 両手をついている男が、相棒に視線を移す。

「それならなおのこともっとうまくやんな。護衛する相手に気づかれるようじゃ転職を考えた方がいいぜ」 

 そう言うとかなめは右腕をねじり上げていた男を突き放す。カウラは銃を収め、不服そうに眺めているアメリアを見た。

「上は親父か?」 

「いえ、海軍大臣の指示です、藤太姫様。神前誠曹長の安全を確保せよとの指示をうけて……」 

 安心したようにかなめはタバコに火をともす。

「紛らわしいことすんじゃねえよ。そう言うことするならアタシに一声かけろっつうの!」 

「かなめちゃんなら怒鳴りつけて断るんじゃないの?」 

 アメリアはサブマシンガンのマガジンを抜いて、薬室の中の残弾を取り出す。

「そんなことねえよ……アタシだって不安になる時あるし」 

 小声でつぶやいたかなめの言葉にカウラとアメリアは思わず目を合わせた。

「まあこの程度の腕の護衛なら私だって断るわねえ」 

 アメリアは取り出したサブマシンガンの弾をマガジンに差し込む。

「それじゃあもうちょっと揉んでやろうか?」 

 こぶしを握り締めるかなめを見て、後ろに引く二人。

「それくらいにしておけ。しかし、この程度では確かに護衛にはならんな」 

「そうよねえ。第三艦隊第一教導連隊の連隊長くらい強くなくちゃあ……」 

 軽口を叩くアメリアをかなめがにらみつけた。

「つまり、かえでを連れて来いってことか?」 

 かなめはタバコに手を伸ばす。

「わかってるじゃない!いとしの妹君にお姫様だっこしてもらってー……」

 またアメリアの妄想が始まる。呆れ果てたようにかなめの目が死んでいる。 

「アメリア、灰皿がいるんだ。ちょっと手を貸せ!」 

 かなめはタバコに火をつけるとそのままアメリアの右手を引っ張って押し付けようとする。

「冗談だって!冗談!」 

 かなめの剣幕に笑いながらアメリアは逃げようとする。

「冗談になってないなそれは」 

「カウラ良いこと言うじゃねえか!そうだ、何だってあの……」 

 あきれている二人の男達に見守られながらカウラの顔を見るかなめだったが、そのまじめそうな表情に思わず肩を押さえていたアメリアに逃げられる。

「それにかえでさんのうちへの配属は時間の問題みたいだからね」 

 アメリアは笑っている。

「……マジかよ」 

 アメリアの言葉にかなめはくわえていたタバコを落とした。

「うれしそうだな、オメエ」 

「別に……、それじゃあ君達は帰ってもいいわよ。護衛の任務は私達が引き継ぐから」 

 かなめ達の会話にあきれていた海軍士官達は、アメリアの声を聞いてようやく解放されたとでも言うようにすごすごと車に乗り込むと路地から出て行った。

「それじゃあ行きましょう!」 

「ちゃんと話せ!ごまかすんじゃねえ!」 

 かなめの叫び声を無視してカウラとアメリアは車に乗り込む。仕方なくその後ろに誠は続いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

What a Wonderful World

一兎風タウ
SF
紀元後3518年。 荒廃したこの地には、戦闘用アンドロイド軍『オリュンポス軍』のみが存在していた⋯。 ー⋯はずだった。 十数年前に壊滅させた戦闘用アンドロイド軍『高天原軍』が再侵攻を始めた。 膠着状態となり、オリュンポス軍最高司令官のゼウスは惑星からの離脱、および爆破を決定した。 それに反発したポー、ハデス、ヘスティアの3人は脱走し、この惑星上を放浪する旅に出る。 これは、彼らが何かを見つけるための物語。 SF(すこしふしぎ)漫画の小説版。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

我ら新興文明保護艦隊

ビーデシオン
SF
もしも道行く野良猫が、百戦錬磨の獣戦士だったら? もしも冴えないサラリーマンが、戦争上がりのアンドロイドだったら? これは、実際にそんな空想めいた素性をもって、陰ながら地球を守っているエージェントたちのお話。 ※表紙絵はひのたけきょー(@HinotakeDaYo)様より頂きました!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

宇宙打撃空母クリシュナ ――異次元星域の傭兵軍師――

黒鯛の刺身♪
SF
 半機械化生命体であるバイオロイド戦闘員のカーヴは、科学の進んだ未来にて作られる。  彼の乗る亜光速戦闘機は撃墜され、とある惑星に不時着。  救助を待つために深い眠りにつく。  しかし、カーヴが目覚めた世界は、地球がある宇宙とは整合性の取れない別次元の宇宙だった。  カーヴを助けた少女の名はセーラ。  戦い慣れたカーヴは日雇いの軍師として彼女に雇われる。  カーヴは少女を助け、侵略国家であるマーダ連邦との戦いに身を投じていく。 ――時に宇宙暦880年  銀河は再び熱い戦いの幕を開けた。 ◆DATE 艦名◇クリシュナ 兵装◇艦首固定式25cmビーム砲32門。    砲塔型36cm連装レールガン3基。    収納型兵装ハードポイント4基。    電磁カタパルト2基。 搭載◇亜光速戦闘機12機(内、補用4機)    高機動戦車4台他 全長◇300m 全幅◇76m (以上、10話時点) 表紙画像の原作はこたかん様です。

処理中です...