特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第二部 『新たなる敵影』

橋本 直

文字の大きさ
上 下
28 / 62
海と特殊な部隊

第28話 ホッとする瞬間

しおりを挟む
「ラブラブ!!」 

 背後で聞きなれた甲高い声がして、二人は飛び上がって後ろを見た。手に袋を持った小夏が突っ立っている。

「外道!神前の兄貴に色仕掛けを仕掛ける気か!」 

 小夏が走り出そうとしたが、彼女の頭を押さえつけた春子の手がそれを邪魔した。

「余計なことするんじゃないよ!野暮天が!」 

 いつもの女将さんといった風情から気風の良い女の顔に変わっているように見える。小夏は母の一にらみで静かに座り込んでいた。だがそれも一瞬のことで次の瞬間にはいつもの世話焼きの女将の姿に戻っていた。

 二人の後ろでひよこがポエムノートを手に様子をうかがっているのが見えた。

「私達は戻るけど、かなめさん達は……」 

 いつもの優しい春子の声。かなめはいつものかなめに戻って右肩をぐるぐると回して気分を変える。

「戻るぞ、神前」 

 そう言って立ち上がったかなめはずんずん一人で先に浜辺に向かう。小夏はかなめにまとわりついては拳骨を食らいながら笑っている。

「邪魔しちゃったかしら」

 そう言いながら春子は誠を見上げる。一児の母とは思えないプロポーションに誠は思わず頬を朱に染めている自分に気づいた。

「いえ……そんなに簡単にわかることが出来る人じゃないですから」 

 そう言うと誠も春子を置いて砂浜に向かう。

「実働部隊の人はみんな……本当に不器用で」 

 そう言いながら小夏が置いていったバケツを拾うと春子も誠の後に続いた。
 
「帰ってきたんだ。ちょうどよかったわ」 

 戻ってきた誠達に向けてアメリアが微笑んでいた。

「ほら、神前の分だ」 

 カウラはスイカ割りの結果生まれたかけらを二人に渡す。不恰好なスイカのかけらを受け取って誠は苦笑いを浮かべた。

「クラウゼの姐御!アタシのは!」 

「オメエのはこっち」 

 島田が割れたスイカを解体している。小夏はすぐに大きな塊に手を伸ばす。その手を叩き落として菰田が自分のスイカを確保する。

「アタシはアメリアの割れた脳みそが……」

 先ほどまで埋められていたと言うのにアメリアはやたらと元気にスイカの分配の指揮をしていた。それを見上げてかなめがポツリとつぶやく。 

「かなめちゃん。私を食べようって言うの?やっぱり百合の気が……」

 そう言って顔を近づけてくるアメリアの額をかなめは指ではじく。 

「うるせえ」 

 そう言うとかなめはアメリアからスイカのかけらを奪い取って口に放り込む。それでも懲りないと言うようにアメリアは顔をかなめに近づける。

「ねえ、どうなのよ。私があまりに美しいから惚れてしまうのも仕方ないことかもしれないけど……」

「うぜえ!離れろ!馬鹿野郎!」 

 アメリアの額を叩くかなめだが、本気ではないのでアメリアは懲りずに続ける。

「嫌よ嫌よも好きのうち……」

「だから言ってんだろ!アタシはテメエが大嫌いだって!」

 かなめはひたすら顔を寄せてくるアメリアを押しのけようとする。そんな二人を無視して整備班の男子隊員達はスイカの破片が散らばるビニールシートの整理にかかった。

「ちゃんと砂は落とせよ!西!ちゃんと引っ張れ!」 

 島田が西に指示を出す。

「なんかホッとしませんか?」 

 スイカの種をとりながら誠が声をかける。食べ終えたスイカの皮をアメリアの顔面に押し付けて黙らせて、ようやく一心地ついたかなめに誠が声をかける。

「そうか?……そうかもしれないな」 

 再びアメリアがキープしていた不恰好に割れたスイカにかぶりつきながら、かなめはそうつぶやいた。誠はかなめを見る。見返すかなめの頬に笑みが浮かんでいた。

「何かあったのか?」 

 カウラが不思議そうに二人を見つめる。

「何でもねえ!何でもねえよ!」 

 そう言うとかなめは再び大きくスイカの塊に食いついた。かなめにスイカの皮を押し付けられてべとべとになった顔をアメリアはタオルで拭った。

「ああ、飽きた。神前!行くぞ」 

 かなめの言葉にうなづくと誠は何もわからないまま言われるままに立ち上がって彼女の手からビーチサンダルを受け取った。今度は先ほど向かった岩場とは反対側に歩く。観光客は東都に帰る時間なのだろう、一部がすでに片付けの準備をしていた。

「もう風が変わってきましたね」 

 松の並木が現れ、その間を海に飽きたというようなカップルと何度もすれ違った。

「そうだな」 

 会話をするのが少しもったいないように感じた。なぜか先ほどの時と違って黙って並んで歩いているだけで心地よい。そんな感じを味わうように誠はかなめと海辺の公園と言った風情の道を歩いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第五部  遼州人の青年神前誠(しんぜんまこと)が司法局実働部隊機動部隊第一小隊に配属になってからほぼ半年の時が過ぎようとしていた。 訓練場での閉所室内戦闘訓練からの帰りの途中、誠は周りの見慣れない雪景色に目を奪われた。 そんな誠に小隊長のカウラ・ベルガー大尉は彼女がロールアウトした時も同じように雪が降っていたと語った。そして、その日が12月25日であることを告げた。そして彼女がロールアウトして今年で9年になる新しい人造人間であること誠は知った。 同行していた運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ中佐は、クリスマスと重なるこの機会に何かイベントをしようと第二小隊のもう一人の隊員西園寺かなめ大尉に語り掛けた。 こうしてアメリアの企画で誠の実家である『神前一刀流道場』でのカウラのクリスマス会が開催されることになった。 誠の家は母が道場主を務め、父である誠一は全寮制の私立高校の剣道教師としてほとんど家に帰らない家だった。 四人は休みを取り、誠の実家で待つ誠の母、神前薫(しんぜんかおる)のところを訪れた。 そこで待ち受けているのは上流貴族であるかなめのとんでもなく上品なプレゼントを買いに行く行事、誠の『許婚』を自称するかなめの妹で両刀遣いの変態マゾヒスト日野かえで少佐の訪問、アメリアの部下である運航部の面々による蟹パーティーなどの忙しい日々だった。 そんな中、誠はカウラへのプレゼントとしてイラストを描くことを思いつき、様々な妨害に会いながらもなんとか仕上げることが出来たのだが……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直
SF
地球人類が初めて地球外人類と出会った辺境惑星『遼州』の連合国家群『遼州同盟』。 その有力国のひとつ東和共和国に住むごく普通の大学生だった神前誠(しんぜんまこと)。彼は就職先に困り、母親の剣道場の師範代である嵯峨惟基を頼り軍に人型兵器『アサルト・モジュール』のパイロットの幹部候補生という待遇でなんとか入ることができた。 しかし、基礎訓練を終え、士官候補生として配属されたその嵯峨惟基が部隊長を務める部隊『遼州同盟司法局実働部隊』は巨大工場の中に仮住まいをする肩身の狭い状況の部隊だった。 さらに追い打ちをかけるのは個性的な同僚達。 直属の上司はガラは悪いが家柄が良いサイボーグ西園寺かなめと無口でぶっきらぼうな人造人間のカウラ・ベルガーの二人の女性士官。 他にもオタク趣味で意気投合するがどこか食えない女性人造人間の艦長代理アイシャ・クラウゼ、小さな元気っ子野生農業少女ナンバルゲニア・シャムラード、マイペースで人の話を聞かないサイボーグ吉田俊平、声と態度がでかい幼女にしか見えない指揮官クバルカ・ランなど個性の塊のような面々に振り回される誠。 しかも人に振り回されるばかりと思いきや自分に自分でも自覚のない不思議な力、「法術」が眠っていた。 考えがまとまらないまま初めての宇宙空間での演習に出るが、そして時を同じくして同盟の存在を揺るがしかねない同盟加盟国『胡州帝国』の国権軍権拡大を主張する独自行動派によるクーデターが画策されいるという報が届く。 誠は法術師専用アサルト・モジュール『05式乙型』を駆り戦場で何を見ることになるのか?そして彼の昇進はありうるのか?

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

【本格ハードSF】人類は孤独ではなかった――タイタン探査が明らかにした新たな知性との邂逅

シャーロット
SF
土星の謎めいた衛星タイタン。その氷と液体メタンに覆われた湖の底で、独自の知性体「エリディアン」が進化を遂げていた。透き通った体を持つ彼らは、精緻な振動を通じてコミュニケーションを取り、環境を形作ることで「共鳴」という文化を育んできた。しかし、その平穏な世界に、人類の探査機が到着したことで大きな転機が訪れる。 探査機が発するリズミカルな振動はエリディアンたちの関心を引き、慎重なやり取りが始まる。これが、異なる文明同士の架け橋となる最初の一歩だった。「エンデュランスII号」の探査チームはエリディアンの振動信号を解読し、応答を送り返すことで対話を試みる。エリディアンたちは興味を抱きつつも警戒を続けながら、人類との画期的な知識交換を進める。 その後、人類は振動を光のパターンに変換できる「光の道具」をエリディアンに提供する。この装置は、彼らのコミュニケーション方法を再定義し、文化の可能性を飛躍的に拡大させるものだった。エリディアンたちはこの道具を受け入れ、新たな形でネットワークを調和させながら、光と振動の新しい次元を発見していく。 エリディアンがこうした革新を適応し、統合していく中で、人類はその変化を見守り、知識の共有がもたらす可能性の大きさに驚嘆する。同時に、彼らが自然現象を調和させる能力、たとえばタイタン地震を振動によって抑える力は、人類の理解を超えた生物学的・文化的な深みを示している。 この「ファーストコンタクト」の物語は、共存や進化、そして異なる知性体がもたらす無限の可能性を探るものだ。光と振動の共鳴が、2つの文明が未知へ挑む新たな時代の幕開けを象徴し、互いの好奇心と尊敬、希望に満ちた未来を切り開いていく。 -- プロモーション用の動画を作成しました。 オリジナルの画像をオリジナルの音楽で紹介しています。 https://www.youtube.com/watch?v=G_FW_nUXZiQ

西涼女侠伝

水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超  舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。  役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。  家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。  ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。  荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。  主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。  三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)  涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。

歴史改変戦記 「信長、中国を攻めるってよ」

高木一優
SF
タイムマシンによる時間航行が実現した近未来、大国の首脳陣は自国に都合の良い歴史を作り出すことに熱中し始めた。歴史学者である私の書いた論文は韓国や中国で叩かれ、反日デモが起る。豊臣秀吉が大陸に侵攻し中華帝国を制圧するという内容だ。学会を追われた私に中国の女性エージェントが接触し、中国政府が私の論文を題材として歴史介入を行うことを告げた。中国共産党は織田信長に中国の侵略を命じた。信長は朝鮮半島を蹂躙し中国本土に攻め入る。それは中華文明を西洋文明に対抗させるための戦略であった。  もうひとつの歴史を作り出すという思考実験を通じて、日本とは、中国とは、アジアとは何かを考えるポリティカルSF歴史コメディー。

銀河英雄戦艦アトランテスノヴァ

マサノブ
SF
日本が地球の盟主となった世界に 宇宙から強力な侵略者が攻めてきた、 此は一隻の宇宙戦艦がやがて銀河の英雄戦艦と 呼ばれる迄の奇跡の物語である。

処理中です...