法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』の初陣

橋本 直

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第四十四章 宴会とそれぞれの思惑

第199話 カウラの起こした『奇行』

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「大丈夫か?ってカウラ!何してるんだ!」 

 コップを空にした誠が、かなめの声に気づいて、その視線の先を見た。

 カウラが一息でコップの中のビールを空けていた。誠、かなめ、アメリアはじっとその様子を観察している。

「慣れないビールなんて飲んだらすぐ潰れると思っていたが……大丈夫みたいだな」

 かなめはカウラの初めてとは思えない飲みっぷりに息をのみながらそうつぶやいた。

「舐めるな西園寺、別にどうと言う事はない。なるほど。これがビールか」 

 カウラには特に変化は見られなかった。ごく普通に座っている。

「もう煮えたんじゃないの?」 

 アメリアはそう言うと土鍋の中を箸でかき回してクエの身を捜す。

「お前は野菜を食え!」 

「かなめちゃんが食えば良いじゃない」 

「クエを入れたのはアタシだ」 

「釣ってきたのは『釣り部』じゃない!」 

「うるせえ!バーカ!」 

 かなめとアメリアはいろいろ言い合いながらも、土鍋をつつきまわしていた。

「じゃあ水菜を足しますね」 

 とりあえず二人の対立を何とかしようと誠は皿に乗った水菜の残りを足そうとする。

「神前、気が利くじゃないか?それと豆腐も入れろ!」 

「かなめちゃん、豆腐苦手じゃなかったの?」 

「馬鹿言うな!鍋の豆腐は絶品なんだ!っておい!」 

 かなめはカウラを指差して叫んだ。自分用に注いでいたラム酒をカウラが一息で空にした。エメラルドグリーンの髪の下。白い肌がみるみる赤くなっていく。そして彼女を中心としてしばらく奇妙な沈黙が流れる。

 誠にはしばらく時が止まったように感じられた。あたりを沈黙が占める。

「なるほろ。これがラム酒ろいうものなろか?」 

 そこにはろれつが回っていないカウラが出来上がった。アルコール度数40度のラム酒をグラス一杯開けたカウラがふらふらし始める。

「神前!支えろ!」 

 かなめがふらふらとし始めたカウラを見てすぐに叫んだ。誠はカウラの背中に手を当て支える。カウラは緩んだ顔をとろんとした緑の瞳で誠を見つめる。

「神前。貴様……気持ち良いのれ、ふらふらしちゃってますれす」 

 完全に出来上がっている。頬を赤く染めて、ぐるぐると頭を動かすカウラを見て誠は確信していた。

「大丈夫ですか、カウラさん」 

「大丈夫れすよ!大丈夫!おい!そこの悪のサイボーグ!これに何をれらのら!」 

「それはアタシのグラスだ!テメエが勝手に飲んだんだろうが!」 

「駄目よかなめちゃん。酔っ払いをいじめたら」 

 かなめは睨みつけ、アメリアはそれをなだめる。初めての状況だと言うのに二人は完全に立ち位置を決めていた。そして当然、誠は介抱役になった。 

「カウラさん!しっかりしてくださいよ!」 

「貴様!何を言うのら!ベルガー大尉と呼ぶのれす!」 

 そう言うとカウラは今度は急にしっかりとした足取りで立ち上がる。

「何!どうした……って!カウラ!西園寺!オメーだろ!こいつに飲ませたの!ひよこ!ひよこはどこだ!」 

 騒ぎを聞きつけたランがやってくる。そして呼ばれたひよこが空いた皿を手にランの後ろを急ぎ足で歩いてくる。

「姐御!アタシじゃねえよ!あの馬鹿が勝手に飲んだんです!それにひよこが必要なほどじゃないですよ!」

 ランのまん丸の鋭い眼光は、まるでかなめを信じてないと言う色に染まっていた。 

「こりゃーかなり出来上がってんな。まーひよこの力が必要なほどじゃねーな。神前、介抱しろ!これも新入りの仕事だ」

 ランはそう言うとそのまま軍医を探しに消えて行った。

 騒ぎを聞きつけた嵯峨がお湯割りの焼酎の入ったグラスを手に近づいてきて誠達を眺めた。 

「どんだけ飲んだんだ?ベルガーは」 

 呆れた調子で嵯峨がかなめにめんどくさそうに尋ねた。

「ラム酒をコップ一杯」

 かなめも策士で叔父である嵯峨に聞かれたら正直に答えるしかなかった。 

「まあ同じ量でアメリアが潰れたこともあったしな。それにしても情けねえ話だな」 

 嵯峨はそう言うと手にしていた焼酎の入ったグラスをあおいだ。こちらはまったく顔色が変わっていないのに誠は驚かされた。これで自分が先輩達のおもちゃにされることは回避されたことだけが、誠にとっての『救い』だった。
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