171 / 211
第四十章 戦地
第172話 緊張感の無い連中
しおりを挟む
ヘルメットを抱えたままかなめが喧騒の中へ突き進んでいく。その姿がなぜか神々しくもいとおしく感じられるのを不思議に思いながら誠はかなめの後に続いた。
『なんだか西園寺さんが綺麗に見えるな。これはつり橋効果ってこう言うものなのかな』
誠には柄にも無くそう思えた。
格納庫に入ると作業がもたらす振動で、時々壁がうなりをあげた。誠の全身に緊張が走る。作業員の怒号と、兵装準備のために動き回るクレーンの立てる轟音が、夢で無いと言うことを誠に嫌と言うほど思い知らせる。
「おう!着いたぞ!」
かなめがすでに時刻前に到着していたカウラに声をかける。
「問題ない。定時まであと三分ある」
長い緑の髪を後ろにまとめたカウラは、緑のヘルメットを左手に持っている。
「整列!」
カウラの一言で、はじかれるようにして誠はかなめの隣に並ぶ。
「これより搭乗準備にかかる!島田曹長!機体状況は!」
「若干兵装に遅れてますが問題ねえっすよ!時間までには何とかします!」
05式向けと思われる230ミリロングレンジレールガンの装填作業を見守っていた島田が振り返って怒鳴る。
「各員搭乗!」
三人はカウラの声で自分の機体の足元にある昇降機に乗り込んだ。誠の05式乙型の昇降機には隊で最年少の西と呼ばれる二等技術兵がついていた。
「神前少尉。がんばってください!」
よく見ると西の作業用ヘルメットの下に『必勝』と書かれた鉢巻をしているのが見える。そこから彼が伝統を重んじる甲武国出身だと言うことがわかった。後輩の誠はこの『特殊な部隊』に配属されて初めての『尊敬』の視線に見つめられながらコックピットまで昇降機で誠を運んだ。
「わかった。全力は尽くすよ」
目だけで応援を続ける西にそれだけ言うと誠は自分の愛機となるグリーンの飾り気の無い機体に乗り込んだ。彼が合図を出すのを確認して誠はハッチを閉める。
装甲板が下げられた密閉空間。
誠の手はシミュレータで慣らした通りにシステムの起動動作を始めた。
計器の並びは訓練課程最後に乗った練習機と同じで、すべて正常の数値に収まっていた。
それを確認すると誠はヘルメットをかぶった。
『神前少尉。状況を報告せよ。また現時刻より機体名はコールナンバーで呼称する。アルファー・スリー大丈夫か?』
画面の中では珍しく緊張した面持ちをしているランから通信が入った。
「アルファー・スリー、全システムオールグリーン。エンジンの起動を確認。三十秒でウォームアップ完了の予定」
それだけ言うとモニターの端に移るカウラとかなめの画像を見ていた。
『どうだ?このままカタパルトに乗れば戦場だ。気持ち悪いとか言い出したら逃げる犬っころみたいに背中に風穴開けるからな!』
かなめはそう言いながら防弾ベストのポケットからラム酒が入っているだろうフラスコを取り出し口に液体を含んだ。かなめの通信にはカウラの車の中でかなめがいつも流している『昭和』の女性の歌手の曲が流れていた。
『アルファー・ツー!搭乗中の飲酒は禁止だぞ!それにいつも言っているように戦闘中は音楽を流すな。集中力が削がれる』
『飲酒じゃねえよ!気合入れてるだけだ!それにアタシはこの曲を聞いていないと命中率が下がるんだ!』
あてつけの様にかなめはもう一度フラスコを傾ける。カウラは苦い顔をしながらそれを見つめた。
『なんだか西園寺さんが綺麗に見えるな。これはつり橋効果ってこう言うものなのかな』
誠には柄にも無くそう思えた。
格納庫に入ると作業がもたらす振動で、時々壁がうなりをあげた。誠の全身に緊張が走る。作業員の怒号と、兵装準備のために動き回るクレーンの立てる轟音が、夢で無いと言うことを誠に嫌と言うほど思い知らせる。
「おう!着いたぞ!」
かなめがすでに時刻前に到着していたカウラに声をかける。
「問題ない。定時まであと三分ある」
長い緑の髪を後ろにまとめたカウラは、緑のヘルメットを左手に持っている。
「整列!」
カウラの一言で、はじかれるようにして誠はかなめの隣に並ぶ。
「これより搭乗準備にかかる!島田曹長!機体状況は!」
「若干兵装に遅れてますが問題ねえっすよ!時間までには何とかします!」
05式向けと思われる230ミリロングレンジレールガンの装填作業を見守っていた島田が振り返って怒鳴る。
「各員搭乗!」
三人はカウラの声で自分の機体の足元にある昇降機に乗り込んだ。誠の05式乙型の昇降機には隊で最年少の西と呼ばれる二等技術兵がついていた。
「神前少尉。がんばってください!」
よく見ると西の作業用ヘルメットの下に『必勝』と書かれた鉢巻をしているのが見える。そこから彼が伝統を重んじる甲武国出身だと言うことがわかった。後輩の誠はこの『特殊な部隊』に配属されて初めての『尊敬』の視線に見つめられながらコックピットまで昇降機で誠を運んだ。
「わかった。全力は尽くすよ」
目だけで応援を続ける西にそれだけ言うと誠は自分の愛機となるグリーンの飾り気の無い機体に乗り込んだ。彼が合図を出すのを確認して誠はハッチを閉める。
装甲板が下げられた密閉空間。
誠の手はシミュレータで慣らした通りにシステムの起動動作を始めた。
計器の並びは訓練課程最後に乗った練習機と同じで、すべて正常の数値に収まっていた。
それを確認すると誠はヘルメットをかぶった。
『神前少尉。状況を報告せよ。また現時刻より機体名はコールナンバーで呼称する。アルファー・スリー大丈夫か?』
画面の中では珍しく緊張した面持ちをしているランから通信が入った。
「アルファー・スリー、全システムオールグリーン。エンジンの起動を確認。三十秒でウォームアップ完了の予定」
それだけ言うとモニターの端に移るカウラとかなめの画像を見ていた。
『どうだ?このままカタパルトに乗れば戦場だ。気持ち悪いとか言い出したら逃げる犬っころみたいに背中に風穴開けるからな!』
かなめはそう言いながら防弾ベストのポケットからラム酒が入っているだろうフラスコを取り出し口に液体を含んだ。かなめの通信にはカウラの車の中でかなめがいつも流している『昭和』の女性の歌手の曲が流れていた。
『アルファー・ツー!搭乗中の飲酒は禁止だぞ!それにいつも言っているように戦闘中は音楽を流すな。集中力が削がれる』
『飲酒じゃねえよ!気合入れてるだけだ!それにアタシはこの曲を聞いていないと命中率が下がるんだ!』
あてつけの様にかなめはもう一度フラスコを傾ける。カウラは苦い顔をしながらそれを見つめた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第三部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。
一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。
その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。
この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。
そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。
『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。
誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第二部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。
宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。
そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。
どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。
そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。
しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。
この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。
これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。
そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。
そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。
SFお仕事ギャグロマン小説。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
「メジャー・インフラトン」序章2/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節FIRE!FIRE!FIRE! No1. )
あおっち
SF
敵の帝国、AXISがいよいよ日本へ攻めて来たのだ。その島嶼攻撃、すなわち敵の第1次目標は対馬だった。
この序章2/7は主人公、椎葉きよしの少年時代の物語です。女子高校の修学旅行中にAXIS兵士に襲われる女子高生達。かろうじて逃げ出した少女が1人。そこで出会った少年、椎葉きよしと布村愛子、そして少女達との出会い。
パンダ隊長と少女達に名付けられたきよしの活躍はいかに!少女達の運命は!
ジャンプ血清保持者(ゼロ・スターター)椎葉きよしを助ける人々。そして、初めての恋人ジェシカ。札幌、定山渓温泉に集まった対馬島嶼防衛戦で関係を持った家族との絆のストーリー。
彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第六部 『特殊な部隊の特殊な自主映画』
橋本 直
SF
毎年恒例の時代行列に加えて豊川市から映画作成を依頼された『特殊な部隊』こと司法局実働部隊。
自主映画作品を作ることになるのだがアメリアとサラの暴走でテーマをめぐり大騒ぎとなる。
いざテーマが決まってもアメリアの極めて趣味的な魔法少女ストーリに呆れて隊員達はてんでんばらばらに活躍を見せる。
そんな先輩達に振り回されながら誠は自分がキャラデザインをしたという責任感のみで参加する。
どたばたの日々が始まるのだった……。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる