67 / 211
第十二章 飲み会
第67話 備えあれば患いなし
しおりを挟む
「いやあ、盛り上がった!不愉快なことも多かったけどあの五人もこれだけ酒の肴になれれば辞めても本望でしょ?」
上機嫌でアメリアがビールのジョッキをカウンターに叩きつける。
「そうか?アタシ達より連中の方が不愉快だったと思うけど」
かなめはそう言ってラム酒をチビリとやった。
「これまでの連中とは違っていい感じだったな。最後の『一斗缶』にも前に来た脱落者達の話はしなかったからな。アメリアにそういう話をさせるとは神前はこれまでの連中とは違う」
そう言いながらカウラが立ち上がる。
「もう終わりか?」
レモンハートの瓶を傾けながら、かなめが不服そうにそうつぶやいた。カラオケで盛り上がっていた運航部と整備班の隊員達も歌いつかれたというように帰り支度を始め、誠達の前からはいつの間にか焼鳥盛り合わせが消えていた。
「西園寺さん。明日は金曜日ですよ。勤務があります!それにほら!皆さん帰るみたいですよ、後から来た人達も」
「仕方ねえな」
誠の言葉に明らかに飲み足りないというようにかなめはグラスに残った酒をあおった。
「それじゃあ、お勘定はランちゃんに付けといて……かなめちゃんの酒は現金で生産してね」
「言われなくても分かってるよ!」
アメリアとかなめの言葉を聞くと小夏は跳ねるようにレジに向かう。誠とカウラはそれを見ながら縄のれんをくぐる。
日暮れすぎのアスファルトの焦げる匂いを嗅ぎながら豊川のひなびた路地に転がり出る誠達の前を野良犬が通り抜ける。
「なんだか楽しかったです……それに僕は前の人とは違って水が合いそうです。そんな気がします」
誠はそう言って頭を下げた。
「結構飲んでたが……大丈夫か?」
カウラの気遣いに誠は照れながら彼女の後に続いて『スカイラインGTR』の待つコインパーキングに向かった。
「どうだ……うちは……まあ仕事なんかほとんどねえからな……今の遼州同盟は平和だ……遼南内戦なんかがあった十年前とはわけが違う『司法局実働部隊』?『軍の介入が政治問題になりかねない紛争に介入するための特殊部隊』?今の遼州にそんなの必要ねえって!間違いねえ!」
かなめは手を差し出してくるアメリアに自分のラムの分の勘定を渡しながらそうつぶやいた。
「そうですね……遼南内戦も収束して……甲武国の政情も安定しているらしいですから」
誠は少ない社会知識を動員してそう言って三人に笑いかけた。
「教官の言ったことをおうむ返しにしても意味が無いぞ。いまだに西のベルルカン大陸では内戦やクーデターが起きている。平和なんて……いつ来るか……うちにいつ出動命令が出るか分からないんだ」
カウラは誠をそう言ってにらみつけた。
「なあに、ベルルカンの失敗国家の清算も進んでるからな。それがらみで出動はあり得る話だ……まあそれは政治屋さんのお仕事で、それこそ軍のお仕事だ。うちは軍事警察……関係無い無い!」
かなめは上機嫌でそう言って誠達を置いて歩き始めた。
「本当にそうでしょうか……」
誠はどうにも納得がいかないというように先頭を肩で風を切って歩くアメリアに話しかけた。
「かなめちゃんの言い分は半分は本当ね。ベルルカンにうちが出張るのはもう少し情勢が落ち着いてからでしょう……選挙監視とか難民の帰国なんかが始まったら助っ人に呼ばれるかもしれないけど……あそこはそこまでにはちょっと時間がかかりそうよね」
誠はアメリアがまともなことを言うのを呆然とした顔で眺めていた。
「でも……そうすると僕はなんで必要なんでしょう?」
「なんで?そりゃあ想定外の事態に備える!それがうちらの仕事だからだ」
けげんな表情を浮かべる誠の肩をかなめが叩いた。
「そう言うものよ、お仕事なんて」
アメリアの笑顔を見ても誠は今一つ納得できなかった。
「そう言うもんですか……」
「そう言うものだ」
念を押すようにカウラはそう言うと車のキーを取り出して誠に笑いかけるのだった。
「それじゃあ寮まで送るぞ!カウラ!車を出せ!」
オーナー気取りのかなめに渋々ポケットをあさるカウラ。夏の夜はどこまでも平和だった。
上機嫌でアメリアがビールのジョッキをカウンターに叩きつける。
「そうか?アタシ達より連中の方が不愉快だったと思うけど」
かなめはそう言ってラム酒をチビリとやった。
「これまでの連中とは違っていい感じだったな。最後の『一斗缶』にも前に来た脱落者達の話はしなかったからな。アメリアにそういう話をさせるとは神前はこれまでの連中とは違う」
そう言いながらカウラが立ち上がる。
「もう終わりか?」
レモンハートの瓶を傾けながら、かなめが不服そうにそうつぶやいた。カラオケで盛り上がっていた運航部と整備班の隊員達も歌いつかれたというように帰り支度を始め、誠達の前からはいつの間にか焼鳥盛り合わせが消えていた。
「西園寺さん。明日は金曜日ですよ。勤務があります!それにほら!皆さん帰るみたいですよ、後から来た人達も」
「仕方ねえな」
誠の言葉に明らかに飲み足りないというようにかなめはグラスに残った酒をあおった。
「それじゃあ、お勘定はランちゃんに付けといて……かなめちゃんの酒は現金で生産してね」
「言われなくても分かってるよ!」
アメリアとかなめの言葉を聞くと小夏は跳ねるようにレジに向かう。誠とカウラはそれを見ながら縄のれんをくぐる。
日暮れすぎのアスファルトの焦げる匂いを嗅ぎながら豊川のひなびた路地に転がり出る誠達の前を野良犬が通り抜ける。
「なんだか楽しかったです……それに僕は前の人とは違って水が合いそうです。そんな気がします」
誠はそう言って頭を下げた。
「結構飲んでたが……大丈夫か?」
カウラの気遣いに誠は照れながら彼女の後に続いて『スカイラインGTR』の待つコインパーキングに向かった。
「どうだ……うちは……まあ仕事なんかほとんどねえからな……今の遼州同盟は平和だ……遼南内戦なんかがあった十年前とはわけが違う『司法局実働部隊』?『軍の介入が政治問題になりかねない紛争に介入するための特殊部隊』?今の遼州にそんなの必要ねえって!間違いねえ!」
かなめは手を差し出してくるアメリアに自分のラムの分の勘定を渡しながらそうつぶやいた。
「そうですね……遼南内戦も収束して……甲武国の政情も安定しているらしいですから」
誠は少ない社会知識を動員してそう言って三人に笑いかけた。
「教官の言ったことをおうむ返しにしても意味が無いぞ。いまだに西のベルルカン大陸では内戦やクーデターが起きている。平和なんて……いつ来るか……うちにいつ出動命令が出るか分からないんだ」
カウラは誠をそう言ってにらみつけた。
「なあに、ベルルカンの失敗国家の清算も進んでるからな。それがらみで出動はあり得る話だ……まあそれは政治屋さんのお仕事で、それこそ軍のお仕事だ。うちは軍事警察……関係無い無い!」
かなめは上機嫌でそう言って誠達を置いて歩き始めた。
「本当にそうでしょうか……」
誠はどうにも納得がいかないというように先頭を肩で風を切って歩くアメリアに話しかけた。
「かなめちゃんの言い分は半分は本当ね。ベルルカンにうちが出張るのはもう少し情勢が落ち着いてからでしょう……選挙監視とか難民の帰国なんかが始まったら助っ人に呼ばれるかもしれないけど……あそこはそこまでにはちょっと時間がかかりそうよね」
誠はアメリアがまともなことを言うのを呆然とした顔で眺めていた。
「でも……そうすると僕はなんで必要なんでしょう?」
「なんで?そりゃあ想定外の事態に備える!それがうちらの仕事だからだ」
けげんな表情を浮かべる誠の肩をかなめが叩いた。
「そう言うものよ、お仕事なんて」
アメリアの笑顔を見ても誠は今一つ納得できなかった。
「そう言うもんですか……」
「そう言うものだ」
念を押すようにカウラはそう言うと車のキーを取り出して誠に笑いかけるのだった。
「それじゃあ寮まで送るぞ!カウラ!車を出せ!」
オーナー気取りのかなめに渋々ポケットをあさるカウラ。夏の夜はどこまでも平和だった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第二部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。
宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。
そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。
どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。
そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。
しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。
この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。
これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。
そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。
そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。
SFお仕事ギャグロマン小説。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
絶世のディプロマット
一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。
レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。
レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。
※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第三部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。
一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。
その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。
この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。
そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。
『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。
誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる