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第十二章 飲み会

第66話 脱落者達⑤一斗缶

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「で、最後に来たのが『一斗缶』さすがにやりすぎだろ、アメリア。ここまでくると」

 かなめはニヤニヤ笑いながらそう言った。

「『一斗缶』を落としたんですか!頭に!」

 いかにも嬉しそうなかなめの言葉に誠は驚きの言葉を発した。もはやここまで行くとギャグと言うよりいじめである。いきなり初配属先で一斗缶を落とされればそれはもう暴力である。

「そこを『おいしい』と思える誠ちゃんみたいな精神が無いとうちじゃあ務まらないのよ……一斗缶を落とされてもそこで一ツッコミ入れる。誠ちゃんならできるわよね?」

 アメリアはビールを飲みながら笑顔でそうつぶやいた。

「アメリアさん。僕は一度も『おいしい』とは思ってないですよ。それ以前にそんな状況でツッコミなんて入れられません!」

 誠はこれからも続くであろうハプニングを想像しながらアメリアに口答えをした。

「なによ、きっちりツッコんどいて。まあ、遼大陸西部の砂漠地帯の国『西モスレム』のいい大学出て、それなりに軍での出世コースにいた奴がいきなり一斗缶を落とされたらいい気はしないな」

 そう言いながらかカウラは苦笑いを浮かべる。

「その人、何日持ちました?」

 もうこのいじめを受けた諸先輩に誠に言える言葉はそれだけだった。ランが誠を連れてくる時言ったように、この部隊はハラスメントの天国である。

「まあ、こいつも一週間目に辞めるって叔父貴に言ったらしいな。一週間後にはタクシーで出て行ったから。でも、こいつは残ると思ったんだけどな」

 どこからその発想が出るのか理解できかねるようなことを言いながらかなめは誠の皿に自分の皿のレバーを置いた。

「西園寺。人にはそれぞれ思う所がある。ことあるごとに銃を突き付けて脅したのは誰だ?」

「誰だったっけ……」

 かなめとカウラの漫才を見ながら誠は苦笑いを浮かべつつアメリアに目を向けた。

「まあ、『西モスレム』の99%はイスラム教徒であの子もイスラム教徒だったから、アルコールがNGだったのよ。それにラマダンとか朝夕の祈りとかいろいろあるでしょ?イスラムの人って。それを知ってて島田とかが祈りの邪魔をしたり飲みに誘うもんだから……うちの飲み会の醜態をしらふで見せられ続けたわけ」

「それ、辛そうですね」

 今の飲み会はまだましだろうということは島田のハイテンションを若干理解している誠には察することができた。大学時代もやんちゃをしている同級生達のイカレタ飲みっぷりを知っているだけに、島田達整備班の飲みも半端ではないことは想像がついた。

「結局この人も」

 誠は三人の顔を見回しながらそう言った。三人は誠の絶望を見抜いたかのように静かにうなづく。

「一週間で『はい、さようなら』。で、誠ちゃんは晴れて正パイロットの席を確保したと」

 いかにも楽しげにアメリアはそう言うと鳥皮を手に取る。

「別に確保したいわけじゃないですけど。確かに『法術師』の秘密は気になりますが」

 アメリアのまとめに誠は少しばかり違和感を感じながらそう答えるしかなかった。誠がこうしてここに座っているのは自分を監視していた『法術師』に関心を持つ勢力を断定することだと自分に言い聞かせていた。

 そして同時に誠の地位に就く予定だった五人のことを思おうと同情の念を抱かざるを得なかった。


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