上 下
55 / 73
第十章 お姉さん達と飲み会

第55話 こだわりの車中

しおりを挟む
 部隊の本部棟の玄関前でアメリアと誠は雑談をしていた。誠はその中で自分の口にした発言を反芻はんすうしながら、これからしばらくお世話になることになる本部の入口の車止めの前にアメリアと並んで立っていた。

 好きなアニメ(三十代の女性が好きなものジャンルでまずアニメが出てくるところからして異常なことだとは自覚した)。好きなゲーム(ここでも違和感を感じた。普通に人気ゲームを挙げたとき、『そう言って実は……』とエロゲームの趣味に誘導尋問したのはどうやらそちらを言わない限り許さないらしい)のことについて話した。

 誠は明らかに警戒して口をつぐんだ。結果、分かったことはアメリアの方が誠より多趣味だということだけだった。

「来たみたいね」

 そう言ってアメリアは誠背後の誰かに向けて手を振る。誠はアメリアの視線の先を確認しようと振り向いた。

 アスファルト舗装された道を銀色の車が近づいてきていた。恐らくはかなめかカウラが運転している。

「初めて見る車ですね……なんだかレトロな車」

 その銀色のスポーツカー。運転席にはカウラ、隣の助手席にはかなめが座っている。

「そうよね。うちでフルスクラッチした車だからね。まあ、本物は地球の日本だっけ。この東和の元ネタの国で博物館にでもあるんじゃない。東和共和国の環境基準が二十世紀の地球並みにユルユルだからこうして走れるけど、地球じゃ今時ガソリン車なんて二酸化炭素規制で絶対走れないわね、公道は」

 アメリアの言葉の意味を考えながら悩んでいる誠の目の前で車は停まった。

 運転席の窓を開けたカウラが口を開く。

「乗れ……あと、アメリア……余計なことは言わなかったろうな?」

 そのカウラの目は殺意が篭っていた。

「言ってないって!誠ちゃんのゲームや映像の趣味に引っかかるものがあったら……その時はその時で考えるわよ」

 アメリアはそう言って後部座席のドアを開けた。

「じゃあ、王子様。どうぞ」

 そう言ってアメリアは開けたドアの前で手招きする。仕方なく誠はそう広くはない後部座席に体をねじ込んだ。180センチ以上なのはわかるアメリアがその隣に座る。当然後部座席は大柄の二人が座るのには狭すぎるという事だけは誠にもわかった。

「出すぞ」

 そう言うとカウラは自動車を発進させた。

「エンジン音……ガソリンエンジン車。……フルスクラッチしたって誰が作ったんですか?」

 誠は変わった車に乗っている以上、それについては普通の反応が期待できると思ってそう言った。

「島田の趣味なんだと。有名な旧車で気に入ったの作ってやるって奴が言ったらこれが候補の中に入ってた。そして部品とかの都合がついて、島田が作れると言ってきた中のうち、この緑髪の選んだのがこの『スカイラインGTR』だ」

 かなめは進行方向を向いてそう言った。

「島田先輩が作ったんですか?って一人で?」

 誠は島田が自動車を作れるという技術を持っていることに驚きつつそう言った。

「なんでも、暇なんで兵隊の技術維持のために毎回そんな趣味的な車を作るんだよ、島田は。こいつがその三台目。一台目はマニアしか知らないような日本車で運用艦の操舵手の常にマスクをしている姉ちゃんが乗ってる。二台目はアメ車で、オークションに出したら、地球の大金持ちがとんでもない金額で落札して大変な騒ぎになった。その後がこれ。通称『スカイラインGTR』」

 そう言うかなめは一切誠には目を向けず、誠に見えるのはかなめのおかっぱ頭だった。

 車はゲートを抜け、工場内を出口に向かう道路を進んだ。

「『スカイラインGTR』正式名称ですか」

 ちょっと話題が盛り上がりそうなので、誠はそう言ってみた。

「正式名称は『日産スカイラインBRN32』。まあ内装とかは現代の最新型だ。エンジンも設計図を元に最高のスペックが出せるように島田がチューンした特別製で1000馬力出る。当然、ブレーキ、ハンドリングもそれに合わせての島田カスタム。まあ、兵隊が島田が満足するものができるまで、不眠不休で作り上げた血と汗と涙が篭っているものだ。私はそれにふさわしいように大事に乗っている」

 カウラは上手な運転の見本のような運転をしながらそう言った。

「そうですか……こだわってますね……」

 誠は感心したようにカーナビの無い車のコンソールに目をやった。

「そして、ちゃんとカセットデッキまで内蔵している。今時、カセットなんてと思うが甲武じゃカセットデッキは貴族の最新メディアだからな。西園寺、いつもの曲をかけるのか?」

「当たりめえだろ?」

 かなめはそう言うとダッシュボードからカセットを取り出して誠の見慣れないコンソールのスリットに差し込んだ。

 低いドラムの音がしばらく続いた後、語り掛けるような女性のボーカルが響く。

「西園寺さん……この曲は……」

 誠はアニソンしか聞かないので、切々と語り掛けるように歌う女性ボーカルの歌声に少し違和感を感じた。

「地球の日本の歌だ。ああ、日本と言う国は21世紀半ばの東アジア限定核戦争で滅んだんだったよな。今のアメリカ信託領ジャパンのこと。そこで20世紀に流行った歌だ」

「へー……」

 そのかなめの独特な歌の趣味に感心しながら、誠は歌に聞き入った。

 アメリアのアニメとゲームの趣味。カウラの車。かなめの歌。どうやらこの三人の女性は何かに『こだわる』ところがあるらしい。誠はカウラの運転とこの車への島田の真っ直ぐな思いに感心しながら黙って車に揺られていた。

 車は工場のゲートを抜けた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【改訂版】特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第一部 『特殊な部隊始まる』

橋本 直
SF
青年は出会いを通じて真の『男』へと成長する 『特殊な部隊』への配属を運命づけられた青年の驚きと葛藤の物語 登場人物 気弱で胃弱で大柄左利きの主人公 愛銃:グロックG44 見た目と年齢が一致しない『ずるい大人の代表』の隊長 愛銃:VZ52 『偉大なる中佐殿』と呼ばれるかっこかわいい『体育会系無敵幼女』 愛銃:PSMピストル 明らかに主人公を『支配』しようとする邪悪な『女王様』な女サイボーグ 愛銃:スプリングフィールドXDM40 『パチンコ依存症』な美しい小隊長 愛銃:アストラM903【モーゼルM712のスペイン製コピー】 でかい糸目の『女芸人』の艦長 愛銃:H&K P7M13 『伝説の馬鹿なヤンキー』の整備班長 愛する武器:釘バット 理系脳の多趣味で気弱な若者が、どう考えても罠としか思えない課程を経てパイロットをさせられた。 そんな彼の配属されたのは司法局と呼ばれる武装警察風味の『特殊な部隊』だった しかも、そこにこれまで配属になった5人の先輩はすべて一週間で尻尾を撒いて逃げ帰ったという そんな『濃い』部隊で主人公は生き延びることができるか? SFドタバタコメディーアクション

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

処理中です...