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第十章 お姉さん達と飲み会

第54話 勤務時間が終わって

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 いかにもお役所らしく終業を知らせるチャイムが鳴った。それと同時に機動部隊詰め所のドアが開けられた。

「はい!お仕事はおしまい!行くわよ!飲みに!」

 そう高らかに言い放って入ってきたのは、紺色の長い髪と糸目が目印のアメリア・グラウゼ少佐その人だった。満面の笑みはこれかと言う表情がそのモデル体型の小さめの顔に浮かんでいる。そして誠はそんなアメリアの格好に衝撃を受けていた。

 明らかに場違いなショッキングピンクのTシャツに、デニムのタイトスカート。しかもTシャツには『浪花節なにわぶし』と毛筆体で書いてある。誠はこういう意味不明なTシャツが売っているのは知っていたが、こういう服を日常的に着ている人が目の前にいる。

「少佐……」

 唖然とする誠の前でアメリアは細い目をさらに細くしてほほ笑む。

「そんな階級で呼ぶなんでダメ!そうねえ、これからはアメリアさんで行きましょう。私、誠ちゃんより年上だし。そうしましょう」

 アメリアは立て板に水でそう言うと機動部隊室の他の三人の女パイロットに目をやる。誠も振り返ってすっかり気の抜けた表情の三人の女上司達を眺めた。

「有志の歓迎会の前にやるんだろ?アタシは車があるから、飲めねーし、アタシの悪口でも言うんだろ?言いたきゃ言えば?アタシは聞きたくないから行かない」

 気の乗らない調子でランはそう言った。

 誠がこの部屋に戻ってきてから彼女がしていたのは将棋盤をじっと見つめて考え事をしていることだけで、仕事らしい仕事は何一つしていなかった。

「それにどうせオメー等が行くのは『月島屋』に決まってるよな。あそこならアタシのツケで飲める。なーに、勘定の方はアタシが払うってことにしときな。ただし、西園寺が飲んだ分は西園寺が払え。あれはアタシの管轄外だ」

 机に置かれた将棋盤を前にしてクバルカ・ラン中佐は手に飛車を持ちながらそう言った。誠はこんな出来た上司が実在するという事に感動すると同時にこのプリティーな生き物が一日中結果的に将棋しかしていない事実に呆れていた。

「まあ、あれはアタシの為だけに地球から密輸してキープしている酒だから。アタシが払うのが筋ってのは分かるよ。でも……せっかくの新人の歓迎会だぜ?五割くらいは……」

「びた一文出すか!馬鹿!」

 かなめの提案をピシャリと断るランにかなめは呆れたように両手を広げてみせると端末の電源を落として立ち上がった。

「グダグダ言っても仕方ないだろう」

 手を止めたカウラはそう言って立ち上がる。

「神前は本部の前でこの変な文字がプリントされたオバサンと一緒に待ってろ。アタシ等は着替えて裏道通ってカウラの車で二人を拾いに行く」

 かなめはそう言うと誠の脇を抜けて、ドアの前に立つアメリアに近づいていく。

「ちょっと……かなめちゃん。聞き違いでなければ『オバサン』とか言わなかった。間違いよね……」

 相変わらず、見えているのかどうかよくわからない細い目でアメリアはかなめをにらみつけた。

「アタシは二十八歳、オメエは三十歳。アタシの年でも、そこら歩いてるガキには『オバサン』と呼ばれることがある。オメエは年上だから十分オバサンじゃん」

 そして、当然『カモ』となっている誠にその火の粉は降ってくる。かなめは誠に目を向けて指さして話を続ける。

「しかもこいつは現在二十四歳。つまり、オメエより六歳若いってこと!つまり、こいつはオメエを『オバサン』と言う権利があるわけだ。神前、この変なのをオバサンと言え。言わなきゃ射殺する。アタシが実弾入りのマガジンポーチを持ち歩いているのはこういう時に使うんだ。オバサンと言うか、死ぬか。選べ」

 そう言って愛銃スプリングフィールドⅩⅮⅯ40を構えてにんまりと笑うかなめ。この人ならやりかねない。そう思いながら、たれ目のかなめの視線を外すタイミングを誠は探していた。

「神前、安心しろ。西園寺は撃たない……と思う。こういったケースはこれまでも日常的にあるが、今まで西園寺は撃ったことが無い。まあ、初めての被害者が神前の可能性は否定できないが」

 身の回りの物でも入っているのだろう、ハンドバックを引き出しから取り出したカウラがそのまま二人の間を通って部屋を出ていった。

「さあて、神前。オバサンと言うか死ぬか。選びな」

 相変わらずかなめはそう言いながら銃を手にニヤニヤ笑っている。

「わかったわよ!私はオバサン!誠ちゃんの脳みそぶちまけるのを見たくないから!私が自分で言えば丸く収まるんでしょ!」

 そう叫んだアメリアは誠のそばまで行った。

「いろいろ、誠ちゃんに聞きたいことがあるの。仕事関係じゃなくて『趣味』のこと」

 誠の手を握ってアメリアはにっこりとほほ笑む。

「趣味だ?野球以外の趣味あるんだ。まあ、好きにしな。お先!」

 そう言うとかなめはドアを開けて出ていった。

「アメリアさん……」

 誠が名を呼ぶと。嬉しそうにアメリアは微笑む。

「お姉さんも色々多趣味だから。合うと良いなあなんて思ってるわけ、趣味が」

 年上の女性、しかも美人からこう言われてうれしいのは事実だが。ここの隊員は全員どこか規格外なので、どんな結末になるのやら。ただ、誠は深く考えず場当たり的に生きていくことの必要性を実感していた。

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