54 / 86
第十章 お姉さん達と飲み会
第54話 勤務時間が終わって
しおりを挟む
いかにもお役所らしく終業を知らせるチャイムが鳴った。それと同時に機動部隊詰め所のドアが開けられた。
「はい!お仕事はおしまい!行くわよ!飲みに!」
そう高らかに言い放って入ってきたのは、紺色の長い髪と糸目が目印のアメリア・グラウゼ少佐その人だった。満面の笑みはこれかと言う表情がそのモデル体型の小さめの顔に浮かんでいる。そして誠はそんなアメリアの格好に衝撃を受けていた。
明らかに場違いなショッキングピンクのTシャツに、デニムのタイトスカート。しかもTシャツには『浪花節』と毛筆体で書いてある。誠はこういう意味不明なTシャツが売っているのは知っていたが、こういう服を日常的に着ている人が目の前にいる。
「少佐……」
唖然とする誠の前でアメリアは細い目をさらに細くしてほほ笑む。
「そんな階級で呼ぶなんでダメ!そうねえ、これからはアメリアさんで行きましょう。私、誠ちゃんより年上だし。そうしましょう」
アメリアは立て板に水でそう言うと機動部隊室の他の三人の女パイロットに目をやる。誠も振り返ってすっかり気の抜けた表情の三人の女上司達を眺めた。
「有志の歓迎会の前にやるんだろ?アタシは車があるから、飲めねーし、アタシの悪口でも言うんだろ?言いたきゃ言えば?アタシは聞きたくないから行かない」
気の乗らない調子でランはそう言った。
誠がこの部屋に戻ってきてから彼女がしていたのは将棋盤をじっと見つめて考え事をしていることだけで、仕事らしい仕事は何一つしていなかった。
「それにどうせオメー等が行くのは『月島屋』に決まってるよな。あそこならアタシのツケで飲める。なーに、勘定の方はアタシが払うってことにしときな。ただし、西園寺が飲んだ分は西園寺が払え。あれはアタシの管轄外だ」
机に置かれた将棋盤を前にしてクバルカ・ラン中佐は手に飛車を持ちながらそう言った。誠はこんな出来た上司が実在するという事に感動すると同時にこのプリティーな生き物が一日中結果的に将棋しかしていない事実に呆れていた。
「まあ、あれはアタシの為だけに地球から密輸してキープしている酒だから。アタシが払うのが筋ってのは分かるよ。でも……せっかくの新人の歓迎会だぜ?五割くらいは……」
「びた一文出すか!馬鹿!」
かなめの提案をピシャリと断るランにかなめは呆れたように両手を広げてみせると端末の電源を落として立ち上がった。
「グダグダ言っても仕方ないだろう」
手を止めたカウラはそう言って立ち上がる。
「神前は本部の前でこの変な文字がプリントされたオバサンと一緒に待ってろ。アタシ等は着替えて裏道通ってカウラの車で二人を拾いに行く」
かなめはそう言うと誠の脇を抜けて、ドアの前に立つアメリアに近づいていく。
「ちょっと……かなめちゃん。聞き違いでなければ『オバサン』とか言わなかった。間違いよね……」
相変わらず、見えているのかどうかよくわからない細い目でアメリアはかなめをにらみつけた。
「アタシは二十八歳、オメエは三十歳。アタシの年でも、そこら歩いてるガキには『オバサン』と呼ばれることがある。オメエは年上だから十分オバサンじゃん」
そして、当然『カモ』となっている誠にその火の粉は降ってくる。かなめは誠に目を向けて指さして話を続ける。
「しかもこいつは現在二十四歳。つまり、オメエより六歳若いってこと!つまり、こいつはオメエを『オバサン』と言う権利があるわけだ。神前、この変なのをオバサンと言え。言わなきゃ射殺する。アタシが実弾入りのマガジンポーチを持ち歩いているのはこういう時に使うんだ。オバサンと言うか、死ぬか。選べ」
そう言って愛銃スプリングフィールドⅩⅮⅯ40を構えてにんまりと笑うかなめ。この人ならやりかねない。そう思いながら、たれ目のかなめの視線を外すタイミングを誠は探していた。
「神前、安心しろ。西園寺は撃たない……と思う。こういったケースはこれまでも日常的にあるが、今まで西園寺は撃ったことが無い。まあ、初めての被害者が神前の可能性は否定できないが」
身の回りの物でも入っているのだろう、ハンドバックを引き出しから取り出したカウラがそのまま二人の間を通って部屋を出ていった。
「さあて、神前。オバサンと言うか死ぬか。選びな」
相変わらずかなめはそう言いながら銃を手にニヤニヤ笑っている。
「わかったわよ!私はオバサン!誠ちゃんの脳みそぶちまけるのを見たくないから!私が自分で言えば丸く収まるんでしょ!」
そう叫んだアメリアは誠のそばまで行った。
「いろいろ、誠ちゃんに聞きたいことがあるの。仕事関係じゃなくて『趣味』のこと」
誠の手を握ってアメリアはにっこりとほほ笑む。
「趣味だ?野球以外の趣味あるんだ。まあ、好きにしな。お先!」
そう言うとかなめはドアを開けて出ていった。
「アメリアさん……」
誠が名を呼ぶと。嬉しそうにアメリアは微笑む。
「お姉さんも色々多趣味だから。合うと良いなあなんて思ってるわけ、趣味が」
年上の女性、しかも美人からこう言われてうれしいのは事実だが。ここの隊員は全員どこか規格外なので、どんな結末になるのやら。ただ、誠は深く考えず場当たり的に生きていくことの必要性を実感していた。
「はい!お仕事はおしまい!行くわよ!飲みに!」
そう高らかに言い放って入ってきたのは、紺色の長い髪と糸目が目印のアメリア・グラウゼ少佐その人だった。満面の笑みはこれかと言う表情がそのモデル体型の小さめの顔に浮かんでいる。そして誠はそんなアメリアの格好に衝撃を受けていた。
明らかに場違いなショッキングピンクのTシャツに、デニムのタイトスカート。しかもTシャツには『浪花節』と毛筆体で書いてある。誠はこういう意味不明なTシャツが売っているのは知っていたが、こういう服を日常的に着ている人が目の前にいる。
「少佐……」
唖然とする誠の前でアメリアは細い目をさらに細くしてほほ笑む。
「そんな階級で呼ぶなんでダメ!そうねえ、これからはアメリアさんで行きましょう。私、誠ちゃんより年上だし。そうしましょう」
アメリアは立て板に水でそう言うと機動部隊室の他の三人の女パイロットに目をやる。誠も振り返ってすっかり気の抜けた表情の三人の女上司達を眺めた。
「有志の歓迎会の前にやるんだろ?アタシは車があるから、飲めねーし、アタシの悪口でも言うんだろ?言いたきゃ言えば?アタシは聞きたくないから行かない」
気の乗らない調子でランはそう言った。
誠がこの部屋に戻ってきてから彼女がしていたのは将棋盤をじっと見つめて考え事をしていることだけで、仕事らしい仕事は何一つしていなかった。
「それにどうせオメー等が行くのは『月島屋』に決まってるよな。あそこならアタシのツケで飲める。なーに、勘定の方はアタシが払うってことにしときな。ただし、西園寺が飲んだ分は西園寺が払え。あれはアタシの管轄外だ」
机に置かれた将棋盤を前にしてクバルカ・ラン中佐は手に飛車を持ちながらそう言った。誠はこんな出来た上司が実在するという事に感動すると同時にこのプリティーな生き物が一日中結果的に将棋しかしていない事実に呆れていた。
「まあ、あれはアタシの為だけに地球から密輸してキープしている酒だから。アタシが払うのが筋ってのは分かるよ。でも……せっかくの新人の歓迎会だぜ?五割くらいは……」
「びた一文出すか!馬鹿!」
かなめの提案をピシャリと断るランにかなめは呆れたように両手を広げてみせると端末の電源を落として立ち上がった。
「グダグダ言っても仕方ないだろう」
手を止めたカウラはそう言って立ち上がる。
「神前は本部の前でこの変な文字がプリントされたオバサンと一緒に待ってろ。アタシ等は着替えて裏道通ってカウラの車で二人を拾いに行く」
かなめはそう言うと誠の脇を抜けて、ドアの前に立つアメリアに近づいていく。
「ちょっと……かなめちゃん。聞き違いでなければ『オバサン』とか言わなかった。間違いよね……」
相変わらず、見えているのかどうかよくわからない細い目でアメリアはかなめをにらみつけた。
「アタシは二十八歳、オメエは三十歳。アタシの年でも、そこら歩いてるガキには『オバサン』と呼ばれることがある。オメエは年上だから十分オバサンじゃん」
そして、当然『カモ』となっている誠にその火の粉は降ってくる。かなめは誠に目を向けて指さして話を続ける。
「しかもこいつは現在二十四歳。つまり、オメエより六歳若いってこと!つまり、こいつはオメエを『オバサン』と言う権利があるわけだ。神前、この変なのをオバサンと言え。言わなきゃ射殺する。アタシが実弾入りのマガジンポーチを持ち歩いているのはこういう時に使うんだ。オバサンと言うか、死ぬか。選べ」
そう言って愛銃スプリングフィールドⅩⅮⅯ40を構えてにんまりと笑うかなめ。この人ならやりかねない。そう思いながら、たれ目のかなめの視線を外すタイミングを誠は探していた。
「神前、安心しろ。西園寺は撃たない……と思う。こういったケースはこれまでも日常的にあるが、今まで西園寺は撃ったことが無い。まあ、初めての被害者が神前の可能性は否定できないが」
身の回りの物でも入っているのだろう、ハンドバックを引き出しから取り出したカウラがそのまま二人の間を通って部屋を出ていった。
「さあて、神前。オバサンと言うか死ぬか。選びな」
相変わらずかなめはそう言いながら銃を手にニヤニヤ笑っている。
「わかったわよ!私はオバサン!誠ちゃんの脳みそぶちまけるのを見たくないから!私が自分で言えば丸く収まるんでしょ!」
そう叫んだアメリアは誠のそばまで行った。
「いろいろ、誠ちゃんに聞きたいことがあるの。仕事関係じゃなくて『趣味』のこと」
誠の手を握ってアメリアはにっこりとほほ笑む。
「趣味だ?野球以外の趣味あるんだ。まあ、好きにしな。お先!」
そう言うとかなめはドアを開けて出ていった。
「アメリアさん……」
誠が名を呼ぶと。嬉しそうにアメリアは微笑む。
「お姉さんも色々多趣味だから。合うと良いなあなんて思ってるわけ、趣味が」
年上の女性、しかも美人からこう言われてうれしいのは事実だが。ここの隊員は全員どこか規格外なので、どんな結末になるのやら。ただ、誠は深く考えず場当たり的に生きていくことの必要性を実感していた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第二部 『新たなる敵影』
橋本 直
SF
進歩から取り残された『アナログ』異星人のお馬鹿ライフは続く
遼州人に『法術』と言う能力があることが明らかになった。
だが、そのような大事とは無関係に『特殊な部隊』の面々は、クラゲの出る夏の海に遊びに出かける。
そこに待っているのは……
新登場キャラ
嵯峨茜(さがあかね)26歳 『駄目人間』の父の生活を管理し、とりあえず社会復帰されている苦労人の金髪美女 愛銃:S&W PC M627リボルバー
コアネタギャグ連発のサイキックロボットギャグアクションストーリー。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞
橋本 直
SF
地球人類が初めて地球外人類と出会った辺境惑星『遼州』の連合国家群『遼州同盟』。
その有力国のひとつ東和共和国に住むごく普通の大学生だった神前誠(しんぜんまこと)。彼は就職先に困り、母親の剣道場の師範代である嵯峨惟基を頼り軍に人型兵器『アサルト・モジュール』のパイロットの幹部候補生という待遇でなんとか入ることができた。
しかし、基礎訓練を終え、士官候補生として配属されたその嵯峨惟基が部隊長を務める部隊『遼州同盟司法局実働部隊』は巨大工場の中に仮住まいをする肩身の狭い状況の部隊だった。
さらに追い打ちをかけるのは個性的な同僚達。
直属の上司はガラは悪いが家柄が良いサイボーグ西園寺かなめと無口でぶっきらぼうな人造人間のカウラ・ベルガーの二人の女性士官。
他にもオタク趣味で意気投合するがどこか食えない女性人造人間の艦長代理アイシャ・クラウゼ、小さな元気っ子野生農業少女ナンバルゲニア・シャムラード、マイペースで人の話を聞かないサイボーグ吉田俊平、声と態度がでかい幼女にしか見えない指揮官クバルカ・ランなど個性の塊のような面々に振り回される誠。
しかも人に振り回されるばかりと思いきや自分に自分でも自覚のない不思議な力、「法術」が眠っていた。
考えがまとまらないまま初めての宇宙空間での演習に出るが、そして時を同じくして同盟の存在を揺るがしかねない同盟加盟国『胡州帝国』の国権軍権拡大を主張する独自行動派によるクーデターが画策されいるという報が届く。
誠は法術師専用アサルト・モジュール『05式乙型』を駆り戦場で何を見ることになるのか?そして彼の昇進はありうるのか?
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【完結済み】VRゲームで遊んでいたら、謎の微笑み冒険者に捕獲されましたがイロイロおかしいです。<長編>
BBやっこ
SF
会社に、VRゲーム休があってゲームをしていた私。
自身の店でエンチャント付き魔道具の売れ行きもなかなか好調で。なかなか充実しているゲームライフ。
招待イベで魔術士として、冒険者の仕事を受けていた。『ミッションは王族を守れ』
同僚も招待され、大規模なイベントとなっていた。ランダムで配置された場所で敵を倒すお仕事だったのだが?
電脳神、カプセル。精神を異世界へ送るって映画の話ですか?!
レジェンド・オブ・ダーク遼州司法局異聞 2 「新たな敵」
橋本 直
SF
「近藤事件」の決着がついて「法術」の存在が世界に明らかにされた。
そんな緊張にも当事者でありながら相変わらずアバウトに受け流す遼州司法局実働部隊の面々はちょっとした神前誠(しんぜんまこと)とカウラ・ベルガーとの約束を口実に海に出かけることになった。
西園寺かなめの意外なもてなしや海での意外な事件に誠は戸惑う。
ふたりの窮地を救う部隊長嵯峨惟基(さがこれもと)の娘と言う嵯峨茜(さがあかね)警視正。
また、新編成された第四小隊の面々であるアメリカ海軍出身のロナルド・スミスJr特務大尉、ジョージ・岡部中尉、フェデロ・マルケス中尉や、技術士官レベッカ・シンプソン中尉の4名の新入隊員の配属が決まる。
新たなメンバーを加えても相変わらずの司法局実働部隊メンバーだったが嵯峨の気まぐれから西園寺かなめ、カウラ・ベルガー、アイシャ・クラウゼの三人に特殊なミッションが与えられる。
誠はただ振り回されるだけだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる