44 / 73
第八章 銃とかなめと模擬戦と
第44話 一番狙撃手
しおりを挟む
「次はどこに行こうかな?」
少し居づらくなった医務室を出た誠はぼんやりと廊下でたたずんでいた。
機動部隊の詰め所のあの二人の女性上司のプレッシャーを受け続けるのは少しつらそうに思えた。技術部では邪魔にされるだろうし、ましてや隊長室と言う駄目人間の巣に戻る気にもならない。
そんな誠の耳に銃声が響いた。
「射撃訓練かな?」
誠はそのまま廊下を銃声のする方向に向かって歩いた。廊下を突きあたり、そのまま裏口から外に出た。
目の前には、安全上の理由からだろうか、土嚢(どのう)が積み上げられている。銃の射撃音はその向こうから聞こえてきた。誠は土嚢を避けるように進むと、東和宇宙軍の訓練施設で見慣れた射撃練習場が目に飛び込んできた。
そのテーブルの一番端には、あのサイボーグである西園寺かなめ中尉がゆっくりとしたペースで射撃を続けていた。
つんざくような銃声に鼓膜を傷めないように耳を両手でふさぎながら誠はかなめのところに歩いて行った。
「すいませーん」
射撃を続けるかなめに向けて誠は叫んだ。
誠の叫びが聞こえたらしく、かなめは射撃を止めて振り返った。
「なんだよ、射撃下手かよ」
そう言うとかなめは隣の射撃レンジに置いてあったイヤプロテクターを誠に投げた。
「熱心ですね」
イヤプロテクターをしながら誠はかなめに声をかけた。
「アタシはすぐに死ぬつもりはねえかんな。当然のことだ」
かなめはレンジに置かれた自分の銃をホルスターに叩き込んでそう言った。
「拳銃での銃撃戦なんてそうはありませんよ」
「まあ、一般の部隊じゃな。でも、うちは『特殊な部隊』なんだ……まあ、オメエは知らずに出ていくんだろうがな」
そこまで言うとかなめはホルスターから拳銃を引き抜き、拳銃の射撃訓練には向かないような遠距離に置かれた的に向けて連射を始めた。
その連射の速度は誠がこれまで見たどの教官のそれよりも早かった。そしてそのまま隣のレンジに置かれた望遠鏡で弾の着弾を確認しようとした。
レンズの中で十発以上の着弾が的にあったことがわかった。
「全弾的に入ってますね……距離って何メートルですか?」
明らかに有効射程距離的には自動小銃クラスの距離である。
「二百メートルだな。生身じゃ無理な距離だが、アタシには簡単だ。銃口を向ければサイトを見なくても着弾点が分かるんだ。便利なもんだろ?機械の体は」
かなめはそう言って銃をホルスターに差し込んだ。
「スプリングフィールドXDM40。それがアタシの拳銃の相棒」
「拳銃の相棒?他の銃の相棒もあるんですか?」
誠はかなめの言葉に戸惑ったようにそう返した。
「狙撃の時はトカレフSVT40使う……そのほかもケースで銃を使い分ける」
「SVT40ってどんな銃なんですか?」
「これ」
かなめは立てかけてある先程まで撃っていた古めかしい木製ストックの目立つ銃を指さした。
「大昔の第二次世界大戦でソビエトロシアの伝説の女スナイパーが愛用した銃だ。セミオートマチックで撃てる」
そう言うとかなめは拳銃を脇のホルスターにしまってライフルを手にした。
すぐさまテーブルに置いてあったマガジンを装着して構えた。
一瞬だった。
構えるとすぐにすさまじい勢いでターゲットに十連射した。誠は再び双眼鏡で200メートル先の標的に目をやるが、やはり全弾中央に命中しているようだった。
「凄いですね……」
「だから言ったろ、アタシの銃は生身と比べると伝説級だって……だから隊の一番狙撃手なんだ」
そう言ってかなめはニヤリと笑う。
「一番狙撃手?」
「そう、一番狙撃手。狙撃のできる人間は隊には何人かいるが、いざって時はアタシが一番大事な位置に陣取る。スポッターはカウラ……アイツはラストバタリオンで視力が良いかんな。まあそんなところか……」
「一番狙撃手ですか……」
かなめはそう言うと射撃レンジをあとにした。誠は他に当ても無いので彼女の後ろをついていくことにした。
そのままかなめの後に続いて隊舎に戻った誠はいつの間にか喫煙所にたどり着いていることに気が付いた。
「することねえのかよ」
かなめは喫煙所の椅子に座ってタバコをくわえながら、そばに立っている誠に声をかけた。
「どうもすみません」
「謝るようなことじゃねえだろ?まったく」
そう言ってかなめはタバコに一瞬だけ火をつけるが、すぐに灰皿に押し付けて立ち上がった。
少し居づらくなった医務室を出た誠はぼんやりと廊下でたたずんでいた。
機動部隊の詰め所のあの二人の女性上司のプレッシャーを受け続けるのは少しつらそうに思えた。技術部では邪魔にされるだろうし、ましてや隊長室と言う駄目人間の巣に戻る気にもならない。
そんな誠の耳に銃声が響いた。
「射撃訓練かな?」
誠はそのまま廊下を銃声のする方向に向かって歩いた。廊下を突きあたり、そのまま裏口から外に出た。
目の前には、安全上の理由からだろうか、土嚢(どのう)が積み上げられている。銃の射撃音はその向こうから聞こえてきた。誠は土嚢を避けるように進むと、東和宇宙軍の訓練施設で見慣れた射撃練習場が目に飛び込んできた。
そのテーブルの一番端には、あのサイボーグである西園寺かなめ中尉がゆっくりとしたペースで射撃を続けていた。
つんざくような銃声に鼓膜を傷めないように耳を両手でふさぎながら誠はかなめのところに歩いて行った。
「すいませーん」
射撃を続けるかなめに向けて誠は叫んだ。
誠の叫びが聞こえたらしく、かなめは射撃を止めて振り返った。
「なんだよ、射撃下手かよ」
そう言うとかなめは隣の射撃レンジに置いてあったイヤプロテクターを誠に投げた。
「熱心ですね」
イヤプロテクターをしながら誠はかなめに声をかけた。
「アタシはすぐに死ぬつもりはねえかんな。当然のことだ」
かなめはレンジに置かれた自分の銃をホルスターに叩き込んでそう言った。
「拳銃での銃撃戦なんてそうはありませんよ」
「まあ、一般の部隊じゃな。でも、うちは『特殊な部隊』なんだ……まあ、オメエは知らずに出ていくんだろうがな」
そこまで言うとかなめはホルスターから拳銃を引き抜き、拳銃の射撃訓練には向かないような遠距離に置かれた的に向けて連射を始めた。
その連射の速度は誠がこれまで見たどの教官のそれよりも早かった。そしてそのまま隣のレンジに置かれた望遠鏡で弾の着弾を確認しようとした。
レンズの中で十発以上の着弾が的にあったことがわかった。
「全弾的に入ってますね……距離って何メートルですか?」
明らかに有効射程距離的には自動小銃クラスの距離である。
「二百メートルだな。生身じゃ無理な距離だが、アタシには簡単だ。銃口を向ければサイトを見なくても着弾点が分かるんだ。便利なもんだろ?機械の体は」
かなめはそう言って銃をホルスターに差し込んだ。
「スプリングフィールドXDM40。それがアタシの拳銃の相棒」
「拳銃の相棒?他の銃の相棒もあるんですか?」
誠はかなめの言葉に戸惑ったようにそう返した。
「狙撃の時はトカレフSVT40使う……そのほかもケースで銃を使い分ける」
「SVT40ってどんな銃なんですか?」
「これ」
かなめは立てかけてある先程まで撃っていた古めかしい木製ストックの目立つ銃を指さした。
「大昔の第二次世界大戦でソビエトロシアの伝説の女スナイパーが愛用した銃だ。セミオートマチックで撃てる」
そう言うとかなめは拳銃を脇のホルスターにしまってライフルを手にした。
すぐさまテーブルに置いてあったマガジンを装着して構えた。
一瞬だった。
構えるとすぐにすさまじい勢いでターゲットに十連射した。誠は再び双眼鏡で200メートル先の標的に目をやるが、やはり全弾中央に命中しているようだった。
「凄いですね……」
「だから言ったろ、アタシの銃は生身と比べると伝説級だって……だから隊の一番狙撃手なんだ」
そう言ってかなめはニヤリと笑う。
「一番狙撃手?」
「そう、一番狙撃手。狙撃のできる人間は隊には何人かいるが、いざって時はアタシが一番大事な位置に陣取る。スポッターはカウラ……アイツはラストバタリオンで視力が良いかんな。まあそんなところか……」
「一番狙撃手ですか……」
かなめはそう言うと射撃レンジをあとにした。誠は他に当ても無いので彼女の後ろをついていくことにした。
そのままかなめの後に続いて隊舎に戻った誠はいつの間にか喫煙所にたどり着いていることに気が付いた。
「することねえのかよ」
かなめは喫煙所の椅子に座ってタバコをくわえながら、そばに立っている誠に声をかけた。
「どうもすみません」
「謝るようなことじゃねえだろ?まったく」
そう言ってかなめはタバコに一瞬だけ火をつけるが、すぐに灰皿に押し付けて立ち上がった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
特殊装甲隊 ダグフェロン『廃帝と永遠の世紀末』② 海と革命家、時々娘
橋本 直
SF
進歩から取り残された『アナログ』異星人のお馬鹿ライフは続く
遼州人に『法術』と言う能力があることが明らかになった。
だが、そのような大事とは無関係に『特殊な部隊』の面々は、クラゲの出る夏の海に遊びに出かける。
そこに待っているのは……
新登場キャラ
嵯峨茜(さがあかね)26歳 『駄目人間』の父の生活を管理し、とりあえず社会復帰されている苦労人の金髪美女 愛銃:S&W PC M627リボルバー
コアネタギャグ連発のサイキック『回収・補給』ロボットギャグアクションストーリー。
レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞
橋本 直
SF
地球人類が初めて地球外人類と出会った辺境惑星『遼州』の連合国家群『遼州同盟』。
その有力国のひとつ東和共和国に住むごく普通の大学生だった神前誠(しんぜんまこと)。彼は就職先に困り、母親の剣道場の師範代である嵯峨惟基を頼り軍に人型兵器『アサルト・モジュール』のパイロットの幹部候補生という待遇でなんとか入ることができた。
しかし、基礎訓練を終え、士官候補生として配属されたその嵯峨惟基が部隊長を務める部隊『遼州同盟司法局実働部隊』は巨大工場の中に仮住まいをする肩身の狭い状況の部隊だった。
さらに追い打ちをかけるのは個性的な同僚達。
直属の上司はガラは悪いが家柄が良いサイボーグ西園寺かなめと無口でぶっきらぼうな人造人間のカウラ・ベルガーの二人の女性士官。
他にもオタク趣味で意気投合するがどこか食えない女性人造人間の艦長代理アイシャ・クラウゼ、小さな元気っ子野生農業少女ナンバルゲニア・シャムラード、マイペースで人の話を聞かないサイボーグ吉田俊平、声と態度がでかい幼女にしか見えない指揮官クバルカ・ランなど個性の塊のような面々に振り回される誠。
しかも人に振り回されるばかりと思いきや自分に自分でも自覚のない不思議な力、「法術」が眠っていた。
考えがまとまらないまま初めての宇宙空間での演習に出るが、そして時を同じくして同盟の存在を揺るがしかねない同盟加盟国『胡州帝国』の国権軍権拡大を主張する独自行動派によるクーデターが画策されいるという報が届く。
誠は法術師専用アサルト・モジュール『05式乙型』を駆り戦場で何を見ることになるのか?そして彼の昇進はありうるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる