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第七章 バックアップメンバーの『濃い』メンツ
第43話 初めての『癒しの女性』
しおりを挟む「ひよこちゃん!居るー?」
彼は軽い調子でそう言って医務室の中に誠を案内した。
「失礼しまーす」
誠は仕方なく島田に続いて医務室に入った。
医務室の中はまるで中学高校の保健室のように、白いパーテーションが目に付く明るい壁紙の張られた部屋だった。
「はーい」
パーテーションの奥から出てきたのは、小柄なカーリーヘアーの髪の『少女』だった。
「こいつが今度来た……」
「誠さんですよね!私も苗字が『神前』なんですよ!奇遇ですね!」
小柄な実働部隊の夏季勤務服姿のひよこが誠の目の前に飛び出してくる。その勢いに押されて誠は思わずのけぞった。
「ごめんなさい……大丈夫ですか?」
ひよこは正直、『かわいい』感じだった。年齢は幼く見えるが、看護師と言うことは短大か専門学校は出ているはずなので二十歳ぐらいと言う所だろうか。誠はなんとなくうれしくなって彼女のまん丸の瞳に恐る恐る目を向けた。
照れている誠の顔をどんぐりのような丸い瞳が見つめてくる。思わず誠はこれまでの女性陣には感じたことのないときめきを感じながら頭を掻いた。
「神前ひよこさんですよね?」
「はい!神前ひよこです。今年の春からこの実働部隊にお世話になってます」
そう言って笑いかける幼く見える姿を見て誠は思わず頬を赤らめた。
「こう見えても東和陸軍医療学校の看護学科卒の正看護師だぞ!まあ、包帯を巻くのは……うちの兵隊の方が得意だけど」
「すみません……私、不器用なんで……」
島田が口を滑らすとすぐにひよこは落ち込んだように首を垂れた。
「いやあ!うちも若いのが多いから!前のおばちゃんが定年で辞めたからどんな人が来るかなーとか言ってて!そこにひよこちゃんみたいなかわいい子が来て!……」
「でも……私……新米だし……経験もあまり……」
「関係ないから!経験とか無くていいから!」
いじけるひよこと焦る島田の掛け合いが繰り広げられる。そのコンビに誠はただ何も言えずにたたずんでいた。
次の瞬間、誠は背後に視線を感じて振り返った。
ドアの隙間から整備班の制帽の白いつばがいくつも覗いているのが見えた。
「島田先輩……あの人達……」
ひよこに愛想笑いを続けている島田に誠は思わず声をかけた。
「言っとくぞ神前。オメエが下手にひよこに手を出すと……血を見るぞ……ひよことオメエの部隊の小隊長はコアなファンが多いからな」
「小隊長って……カウラさん?コアなファンって……」
島田は誠の耳にそうささやくと頭を掻きながら部屋の扉に向かった。
「じゃあ、ごゆっくり!」
整備班の野郎共の敵意の視線を浴びながら、誠は明らかにひよこを意識している島田の背中を見送った。
『オメエ等!のぞきは犯罪だぞ!つまらねえことしてるくらいならランニング!グラウンド十週!走れ!』
医務室の外で島田の叫びがこだました。
「誠さん……」
島田を見送った誠のすぐそばにいつの間にかひよこが立っていた。
誠はひよこのふわふわした黒髪に視線を送る。思わずその肩に手を伸ばしてもいいんじゃないかと言う妄想にとらわれそうになった時、ひよこは一冊の本を誠に手渡した。
「あの……」
「これ、私のポエムなんです……読んでくれますか?」
「ポエム……」
文系科目まるでダメの誠には歌心などあるはずもない。これまで付き合った女性も理系女子だった誠にとって初めて見るポエムノートは不思議なものに思えた。
「ポエム……詩……歌……」
独り言をつぶやきながら誠はそのポエムノートの表紙を開いた。
あまりうまくないウサギとタヌキのようなものが描かれた裏表紙に誠は少し嫌な予感を感じていた。
次のページには確かに詩が書いてあった。
『夏の風……少し暑い日々……夏の風……生き物を育てる風……夏の風……どこまでも突き抜けるような青い空……夏の風……夏の風……いつまでも吹き続ける夏の風……』
硬直しながら誠はひよこのポエムを黙読した。正直、誠には意味がよくわからなかった。
「どうですか?」
「まだ一ページしか読んでないんですけど……」
誠がそう言うと、ひよこは明らかに落胆したような表情を浮かべる。女性にまるで免疫のない誠はただ頭を掻いて愛想笑いを浮かべるだけだった。
「いや!僕は国語がまるでダメだから!漢字が読めるだけで!詩とか、歌とか全然わからないんだ!うん!」
「そんなこと関係無いです!わからないんですね……伝わらないんですね……私の言葉……」
明らかに落ち込んでいるひよこに誠はただ苦笑いを浮かべていた。そして、誠に分かったことは、ここは長居は無用だということだった。
「ごめんね……僕は他にも挨拶をしなきゃなんないところがあるから!」
さわやかお兄さんを演出しつつ、誠はそのまま医務室の扉に手をかけた。
「はい!誠さん!頑張ってくださいね!」
また明るくなったひよこの声を聴いて誠はひよこに見送られて医務室を後にした。
彼は軽い調子でそう言って医務室の中に誠を案内した。
「失礼しまーす」
誠は仕方なく島田に続いて医務室に入った。
医務室の中はまるで中学高校の保健室のように、白いパーテーションが目に付く明るい壁紙の張られた部屋だった。
「はーい」
パーテーションの奥から出てきたのは、小柄なカーリーヘアーの髪の『少女』だった。
「こいつが今度来た……」
「誠さんですよね!私も苗字が『神前』なんですよ!奇遇ですね!」
小柄な実働部隊の夏季勤務服姿のひよこが誠の目の前に飛び出してくる。その勢いに押されて誠は思わずのけぞった。
「ごめんなさい……大丈夫ですか?」
ひよこは正直、『かわいい』感じだった。年齢は幼く見えるが、看護師と言うことは短大か専門学校は出ているはずなので二十歳ぐらいと言う所だろうか。誠はなんとなくうれしくなって彼女のまん丸の瞳に恐る恐る目を向けた。
照れている誠の顔をどんぐりのような丸い瞳が見つめてくる。思わず誠はこれまでの女性陣には感じたことのないときめきを感じながら頭を掻いた。
「神前ひよこさんですよね?」
「はい!神前ひよこです。今年の春からこの実働部隊にお世話になってます」
そう言って笑いかける幼く見える姿を見て誠は思わず頬を赤らめた。
「こう見えても東和陸軍医療学校の看護学科卒の正看護師だぞ!まあ、包帯を巻くのは……うちの兵隊の方が得意だけど」
「すみません……私、不器用なんで……」
島田が口を滑らすとすぐにひよこは落ち込んだように首を垂れた。
「いやあ!うちも若いのが多いから!前のおばちゃんが定年で辞めたからどんな人が来るかなーとか言ってて!そこにひよこちゃんみたいなかわいい子が来て!……」
「でも……私……新米だし……経験もあまり……」
「関係ないから!経験とか無くていいから!」
いじけるひよこと焦る島田の掛け合いが繰り広げられる。そのコンビに誠はただ何も言えずにたたずんでいた。
次の瞬間、誠は背後に視線を感じて振り返った。
ドアの隙間から整備班の制帽の白いつばがいくつも覗いているのが見えた。
「島田先輩……あの人達……」
ひよこに愛想笑いを続けている島田に誠は思わず声をかけた。
「言っとくぞ神前。オメエが下手にひよこに手を出すと……血を見るぞ……ひよことオメエの部隊の小隊長はコアなファンが多いからな」
「小隊長って……カウラさん?コアなファンって……」
島田は誠の耳にそうささやくと頭を掻きながら部屋の扉に向かった。
「じゃあ、ごゆっくり!」
整備班の野郎共の敵意の視線を浴びながら、誠は明らかにひよこを意識している島田の背中を見送った。
『オメエ等!のぞきは犯罪だぞ!つまらねえことしてるくらいならランニング!グラウンド十週!走れ!』
医務室の外で島田の叫びがこだました。
「誠さん……」
島田を見送った誠のすぐそばにいつの間にかひよこが立っていた。
誠はひよこのふわふわした黒髪に視線を送る。思わずその肩に手を伸ばしてもいいんじゃないかと言う妄想にとらわれそうになった時、ひよこは一冊の本を誠に手渡した。
「あの……」
「これ、私のポエムなんです……読んでくれますか?」
「ポエム……」
文系科目まるでダメの誠には歌心などあるはずもない。これまで付き合った女性も理系女子だった誠にとって初めて見るポエムノートは不思議なものに思えた。
「ポエム……詩……歌……」
独り言をつぶやきながら誠はそのポエムノートの表紙を開いた。
あまりうまくないウサギとタヌキのようなものが描かれた裏表紙に誠は少し嫌な予感を感じていた。
次のページには確かに詩が書いてあった。
『夏の風……少し暑い日々……夏の風……生き物を育てる風……夏の風……どこまでも突き抜けるような青い空……夏の風……夏の風……いつまでも吹き続ける夏の風……』
硬直しながら誠はひよこのポエムを黙読した。正直、誠には意味がよくわからなかった。
「どうですか?」
「まだ一ページしか読んでないんですけど……」
誠がそう言うと、ひよこは明らかに落胆したような表情を浮かべる。女性にまるで免疫のない誠はただ頭を掻いて愛想笑いを浮かべるだけだった。
「いや!僕は国語がまるでダメだから!漢字が読めるだけで!詩とか、歌とか全然わからないんだ!うん!」
「そんなこと関係無いです!わからないんですね……伝わらないんですね……私の言葉……」
明らかに落ち込んでいるひよこに誠はただ苦笑いを浮かべていた。そして、誠に分かったことは、ここは長居は無用だということだった。
「ごめんね……僕は他にも挨拶をしなきゃなんないところがあるから!」
さわやかお兄さんを演出しつつ、誠はそのまま医務室の扉に手をかけた。
「はい!誠さん!頑張ってくださいね!」
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