法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』の初陣

橋本 直

文字の大きさ
上 下
43 / 211
第七章 バックアップメンバーの『濃い』メンツ

第43話 初めての『癒しの女性』

しおりを挟む
「ひよこちゃん!居るー?」

 彼は軽い調子でそう言って医務室の中に誠を案内した。

「失礼しまーす」

 誠は仕方なく島田に続いて医務室に入った。

 医務室の中はまるで中学高校の保健室のように、白いパーテーションが目に付く明るい壁紙の張られた部屋だった。

「はーい」

 パーテーションの奥から出てきたのは、小柄なカーリーヘアーの髪の『少女』だった。

「こいつが今度来た……」

「誠さんですよね!私も苗字が『神前』なんですよ!奇遇ですね!」

 小柄な実働部隊の夏季勤務服姿のひよこが誠の目の前に飛び出してくる。その勢いに押されて誠は思わずのけぞった。

「ごめんなさい……大丈夫ですか?」

 ひよこは正直、『かわいい』感じだった。年齢は幼く見えるが、看護師と言うことは短大か専門学校は出ているはずなので二十歳ぐらいと言う所だろうか。誠はなんとなくうれしくなって彼女のまん丸の瞳に恐る恐る目を向けた。

 照れている誠の顔をどんぐりのような丸い瞳が見つめてくる。思わず誠はこれまでの女性陣には感じたことのないときめきを感じながら頭を掻いた。

「神前ひよこさんですよね?」

「はい!神前ひよこです。今年の春からこの実働部隊にお世話になってます」

 そう言って笑いかける幼く見える姿を見て誠は思わず頬を赤らめた。

「こう見えても東和陸軍医療学校の看護学科卒の正看護師だぞ!まあ、包帯を巻くのは……うちの兵隊の方が得意だけど」

「すみません……私、不器用なんで……」

 島田が口を滑らすとすぐにひよこは落ち込んだように首を垂れた。

「いやあ!うちも若いのが多いから!前のおばちゃんが定年で辞めたからどんな人が来るかなーとか言ってて!そこにひよこちゃんみたいなかわいい子が来て!……」

「でも……私……新米だし……経験もあまり……」

「関係ないから!経験とか無くていいから!」

 いじけるひよこと焦る島田の掛け合いが繰り広げられる。そのコンビに誠はただ何も言えずにたたずんでいた。

 次の瞬間、誠は背後に視線を感じて振り返った。

 ドアの隙間から整備班の制帽の白いつばがいくつも覗いているのが見えた。

「島田先輩……あの人達……」

 ひよこに愛想笑いを続けている島田に誠は思わず声をかけた。

「言っとくぞ神前。オメエが下手にひよこに手を出すと……血を見るぞ……ひよことオメエの部隊の小隊長はコアなファンが多いからな」

「小隊長って……カウラさん?コアなファンって……」

 島田は誠の耳にそうささやくと頭を掻きながら部屋の扉に向かった。

「じゃあ、ごゆっくり!」

 整備班の野郎共の敵意の視線を浴びながら、誠は明らかにひよこを意識している島田の背中を見送った。

『オメエ等!のぞきは犯罪だぞ!つまらねえことしてるくらいならランニング!グラウンド十週!走れ!』

 医務室の外で島田の叫びがこだました。

「誠さん……」

 島田を見送った誠のすぐそばにいつの間にかひよこが立っていた。

 誠はひよこのふわふわした黒髪に視線を送る。思わずその肩に手を伸ばしてもいいんじゃないかと言う妄想にとらわれそうになった時、ひよこは一冊の本を誠に手渡した。

「あの……」

「これ、私のポエムなんです……読んでくれますか?」

「ポエム……」

 文系科目まるでダメの誠には歌心などあるはずもない。これまで付き合った女性も理系女子だった誠にとって初めて見るポエムノートは不思議なものに思えた。

「ポエム……詩……歌……」

 独り言をつぶやきながら誠はそのポエムノートの表紙を開いた。

 あまりうまくないウサギとタヌキのようなものが描かれた裏表紙に誠は少し嫌な予感を感じていた。

 次のページには確かに詩が書いてあった。

『夏の風……少し暑い日々……夏の風……生き物を育てる風……夏の風……どこまでも突き抜けるような青い空……夏の風……夏の風……いつまでも吹き続ける夏の風……』

 硬直しながら誠はひよこのポエムを黙読した。正直、誠には意味がよくわからなかった。

「どうですか?」

「まだ一ページしか読んでないんですけど……」

 誠がそう言うと、ひよこは明らかに落胆したような表情を浮かべる。女性にまるで免疫のない誠はただ頭を掻いて愛想笑いを浮かべるだけだった。

「いや!僕は国語がまるでダメだから!漢字が読めるだけで!詩とか、歌とか全然わからないんだ!うん!」

「そんなこと関係無いです!わからないんですね……伝わらないんですね……私の言葉……」

 明らかに落ち込んでいるひよこに誠はただ苦笑いを浮かべていた。そして、誠に分かったことは、ここは長居は無用だということだった。

「ごめんね……僕は他にも挨拶をしなきゃなんないところがあるから!」

 さわやかお兄さんを演出しつつ、誠はそのまま医務室の扉に手をかけた。

「はい!誠さん!頑張ってくださいね!」

 また明るくなったひよこの声を聴いて誠はひよこに見送られて医務室を後にした。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第三部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。 一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。 その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。 この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。 そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。 『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。 誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直
SF
地球人類が初めて地球外人類と出会った辺境惑星『遼州』の連合国家群『遼州同盟』。 その有力国のひとつ東和共和国に住むごく普通の大学生だった神前誠(しんぜんまこと)。彼は就職先に困り、母親の剣道場の師範代である嵯峨惟基を頼り軍に人型兵器『アサルト・モジュール』のパイロットの幹部候補生という待遇でなんとか入ることができた。 しかし、基礎訓練を終え、士官候補生として配属されたその嵯峨惟基が部隊長を務める部隊『遼州同盟司法局実働部隊』は巨大工場の中に仮住まいをする肩身の狭い状況の部隊だった。 さらに追い打ちをかけるのは個性的な同僚達。 直属の上司はガラは悪いが家柄が良いサイボーグ西園寺かなめと無口でぶっきらぼうな人造人間のカウラ・ベルガーの二人の女性士官。 他にもオタク趣味で意気投合するがどこか食えない女性人造人間の艦長代理アイシャ・クラウゼ、小さな元気っ子野生農業少女ナンバルゲニア・シャムラード、マイペースで人の話を聞かないサイボーグ吉田俊平、声と態度がでかい幼女にしか見えない指揮官クバルカ・ランなど個性の塊のような面々に振り回される誠。 しかも人に振り回されるばかりと思いきや自分に自分でも自覚のない不思議な力、「法術」が眠っていた。 考えがまとまらないまま初めての宇宙空間での演習に出るが、そして時を同じくして同盟の存在を揺るがしかねない同盟加盟国『胡州帝国』の国権軍権拡大を主張する独自行動派によるクーデターが画策されいるという報が届く。 誠は法術師専用アサルト・モジュール『05式乙型』を駆り戦場で何を見ることになるのか?そして彼の昇進はありうるのか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...