上 下
40 / 73
第七章 バックアップメンバーの『濃い』メンツ

第40話 ヤンキーとの遭遇

しおりを挟む
 誠は高さ二十メートルを超える大きな扉の隙間から外を眺めた。

 そこにはこれまでの話を総合した結果、あるべき場所にあるべき駐車場がそこにあった。

 広い駐車場に車の数はまばらで、その中央に明らかに場違いなランの黒い最新型の高級自動車があった。多くはスポーツカー、そして税金が安くなる『軽自動車』の可愛らしい車が並んでいる。

 誠は車の見本市と化している駐車場に足を踏み入れた。

「スポーツカーは技術部の人達のかな?技術系の人は男が多いからこう言うスポーツカーに金を惜しまない人多そうだな。運航部の女子は基本的に軽かな。ポップな色は女の子っぽいもんな。それと……どう見ても型落ちの軽。これも技術部の男衆だな。金が無くて廃車置き場にある鉄くずを再生した……そう言う先輩いたな……大学時代も」

 そんな独り言を口にしながら、誠は学生時代を思い出していた。

「上半身裸の馬鹿そうな兄ちゃん……」

 車が無くなって、ラインが適当に引いてあるだけの地面の向こうに、誠は人影を探した。

 すぐにそれは見つかった。駐車場の隅に見える掘っ立て小屋の前にその奇妙な生き物は背中を向けて座っていた。

「あそこか……それにしても……敷地内に森?」

 何故かその半裸の男の向こうには森があった。東和陸軍の敷地の中には、こうした森があることがあるので、誠はどうせ神社でもあるのだろうと割り切って、深く考えないことにした。

 近づくとその日焼けした背中を見せる男の向こうにバイクが停まっていることと、その隣の青い箱がクーラーボックスらしいことがわかった。誠は汗をぬぐいながらそのチンピラ風の茶髪の男の方に向かった。

 空は先程の曇り空から、カンカン照りの快晴にかわっていた。日差しが容赦なく誠に照り付ける。東和共和国宇宙軍の夏服がいかに東和の夏に向かないものか、誠は身をもって体験していた。

 急に後ろに気配を感じて誠が振り返るとそこには軽自動車が一直線に誠に向かっているのが見えた。型落ちのボロボロの軽自動車。明らかに技術部の所属であることは誠には一目で分かった。

 おんぼろ車はそのまま誠を避けて一直線に、いわゆる『班長』のところに向かった。

 もうすでに大声なら聞こえるところまで、誠は『班長』の兄ちゃんとの距離を詰めていた。声の主の運転席から降りてきたのは小柄なつなぎを着た整備員だった。

「遅れました!」

 誠より年下とわかる真新しいつなぎの整備員はそう言って運転席から飛び出して叫んだ。

「西!早くしろよ……後輩が見てんぜ」

 上半身裸の馬鹿そうな茶髪の兄ちゃんの言葉を聞くと若い整備班員は急いで後部のハッチを開けた。彼が取り出したのは、クーラーボックスだった。彼は整備班長と思われる半裸の男の脇に置かれたクーラーボックスと持ってきたクーラーボックスを取り換える。その作業の間に若者は誠と目が合った。

 西と呼ばれたその若者は持っていたクーラーボックスをアスファルトの地面に置くと誠に向けて敬礼した。

「そいつは新米。お前は先輩だ。気をつかうことはねえんだ。オメエが生まれた階級と生まれた身分がすべての甲武国ではそうかもしんねえが、ここは東和共和国だ。俺の兵隊は俺流で育てる……敬礼なんぞ止めて、そこにある空き缶の箱。とっとと積んで帰れや。オメエの仕事はそこまでだ。とっととやれ」

 その言葉を受けても、二十歳に届くかどうかの若い整備員は誠と整備班長の間で困っていた。

「さっさと片付けろ!」

 整備班長の怒鳴り声でその若い整備員は弾かれるように段ボール箱に飛びつき、それを軽自動車の後ろに押し込んでそのまま車を走らせて消えていった。

「あのー」

 誠は先程の指示があまりに乱暴なので注意しようとした。

 誠が半裸の男の真後ろに立った時、その男はクーラーボックスを開けた。

「ビール飲むだろ。冷えてるの持ってこさせた」

 それだけ言うと男はクーラーボックスを開けた。先程の空き缶の数からして、相当飲んでいるはずだった。男の前にはバイクがあった。実に見事な整備されたバイクだった。エンジン回りは磨き上げられて光を放っていた。

「バイク……好きなんですね」

 半裸の男の隣に立って、誠はそう言った。男は誠にビールを手渡した。

「勤務中ですよ」

 拒む誠を見て男はニヤリと笑う。笑顔の似合う二枚目。醤油顔の典型的な顔。見える上半身は鍛え上げられていて、筋肉質だった。

「島田……島田正人」

 ビールのプルタブを開けながら男はそう名乗った。

「僕は……」

 誠が話し出そうとすると、島田は一気にビールを口から流し込んだ。

「知ってるよ。俺には一応部長権限があるからな。そんぐらいわかる。下手なんだって操縦」

 そう言いながら、島田は隣に立っている誠を見上げてニヤリと笑う。

「めんどくさいねえ。演習中に障害物にどっかーんなんてされた日にゃ、うちの兵隊いくらあっても足りねえや。シュツルム・パンツァーが動けなくなって回収するときもうち等技術部がやるんだ。シミュレータと、あの偉大なるちびっ子の指導で多少ましになってくれや」

 それだけ言うと島田はビールの残りを飲み干す。誠もやけになってビールを飲んだ。のどが渇いていたのでそれなりにおいしい。そしてビールをくれた島田を見ると、満面の笑みを浮かべていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

特殊装甲隊 ダグフェロン『廃帝と永遠の世紀末』 遼州の闇

橋本 直
SF
出会ってはいけない、『世界』が、出会ってしまった これは悲しい『出会い』の物語 必殺技はあるが徹底的な『胃弱』系駄目ロボットパイロットの新社会人生活(体育会系・縦社会)が始まる! ミリタリー・ガンマニアにはたまらない『コアな兵器ネタ』満載! 登場人物 気弱で胃弱で大柄左利きの主人公 愛銃:グロックG44 見た目と年齢が一致しない『ずるい大人の代表』の隊長 愛銃:VZ52 『偉大なる中佐殿』と呼ばれるかっこかわいい『体育会系無敵幼女』 愛銃:PSMピストル 明らかに主人公を『支配』しようとする邪悪な『女王様』な女サイボーグ 愛銃:スプリングフィールドXDM40 『パチンコ依存症』な美しい小隊長 愛銃:アストラM903【モーゼルM712のスペイン製コピー】 でかい糸目の『女芸人』の艦長 愛銃:H&K P7M13 『伝説の馬鹿なヤンキー』の整備班長 愛する武器:釘バット 理系脳の多趣味で気弱な若者が、どう考えても罠としか思えない課程を経てパイロットをさせられた。 そんな彼の配属されたのは司法局と呼ばれる武装警察風味の「特殊な部隊」だった そこで『作業員』や『営業マン』としての『体育会系』のしごきに耐える主人公 そこで与えられたのは専用人型兵器『アサルト・モジュール』だったがその『役割』を聞いて主人公は社会への怨嗟の声を上げる 05式乙型 それは回収補給能力に特化した『戦闘での活躍が不可能な』機体だったのだ そこで、犯罪者一歩手前の『体育会系縦社会人間達』と生活して、彼らを理解することで若者は成長していく。 そして彼はある事件をきっかけに強力な力に目覚めた。 それはあってはならない強すぎる力だった その力の発動が宇宙のすべての人々を巻き込む戦いへと青年を導くことになる。 コアネタギャグ連発のサイキック『回収・補給』ロボットギャグアクションストーリー。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

処理中です...