上 下
37 / 73
第七章 バックアップメンバーの『濃い』メンツ

第37話 手荒い歓迎

しおりを挟む
 隊長室の横の階段を駆け下りると、そこにはまるで学校のそれを思わせる扉があった。扉の上には『運航部』の札が見える。

「ここか……『運航部』……例の運用艦とやらを運行する……ブリッジクルーとかが居るのかな?」

 誠は階段を降り切って廊下をまっすぐに進んで一つの扉にたどり着いた。先ほど嵯峨が言った通り、隊長室の真下にある大きな部屋だった。誠はそのまま扉を開けた。

「失礼しっまっ!うご!」

 頭に衝撃を受けて誠はしゃがみこんだ。金属音が部屋中に響き、うずくまる誠の隣で金ダライが跳ねる音が響いていた。

『司法局実働部隊運航部にようこそ!』

 女性の嬉しそうな声が誠の耳に響いた。

「なにを……タライが落ちてきたような……」

 誠はよろよろと立ち上がった。戸惑う誠に向けてクラッカーが鳴らされ、制服を着た女子隊員達が鳴り物を叩いて誠を歓迎していた。

彼女達の髪の色が自然にはあり得ない色をしているのを見て嵯峨の言った『変な髪の色した姉ちゃん達』が彼女達を指すということが誠にも分かった。

「神前君!司法局実働部隊にようこそ!」

 中のピンクの髪の女性士官が手を差し伸べてきた。

「はぁ……」

 あまりの出来事に混乱気味の誠は彼女に手を取られて部屋に通された。

 普通のオフィスのような部屋の中には見慣れない髪の色の女子隊員が誠を見つめていた。全員が違う色と言うことはどうも染めたものでは無いらしい。誠はそう思うと部屋の奥を覗いた。

「神前君!こっち!」

 奥の大きめの机には紺色の長い髪の女性士官が手を振っているのが見えた。

「ごめんね……私もさすがに今回はやめようって言ったんだけどね。ごめんね」

 誠が振り向くとそこには苦笑いを浮かべた水色のショートカットの女性士官が手を合わせながら誠を見守っていた。

「やっちゃったものは仕方がないじゃない。それにあまりリアクションも面白くなかったしね」

 奥のデスクに座った紺色の長い髪の女性が立ち上がって誠に右手を差し出してきた。その整った面差しの中の目が明らかに『糸目』なことを気にしながら誠は利き手でない右手を差し出して握手をした。

「私の名はアメリア・クラウゼよ。階級は少佐。ここ『運航部』の部長ってことになってるわ。まあ、うちは運用艦『ふさ』のブリッジクルーで構成された組織なわけ」

「運用艦……例のアレですか?」

 誠はアメリアの言葉を理解できずに復唱した。

「ランちゃんから聞いてたんだ……。実働部隊うちの活動範囲は遼州星系全体だから。当然、移動には艦がいる可能性が高いわね。出動の度に一々宇宙軍に空いてる艦を借りるのめんどくさいじゃないの」

 握手をしながらアメリアは細い目をさらに細めて誠を見つめた。

「そうですか……艦長さんですか……」

 誠はそう言いながら握手を続けるアメリアの顔を見つめた。

「そう、艦長さん。……オバサンって言ったら殺すから」

 ここでようやく気が済んだというようにアメリアは手を放した。誠は結構強く握られてうっ血した右手をさすりながらアメリアの席の隣に置かれたパイプ椅子に腰かけた。

「実は補充のパイロットは神前君で六人目なのよね」

「六人目?」

 誠はアメリアの言葉が理解できずに聞き直した。

「そう。これまで五人、機動部隊三番機担当ってことで配属になったんだけど……」

 急にしおらしくなったアメリアの言葉で機動部隊詰め所で受けた仕打ちの理由を少しばかり理解した。

「みんな辞めたんですか?」

 誠は浮かない顔をしてアメリアに聞き返した。

「まあね。うちとは水が合わないってね。まあそんなもんじゃない、仕事なんて」

 あっさりとアメリアはそう言いながら大きな部長の執務机に取り付けられた大型モニターの操作を再開した。

「組織ってのは『生態系』だってのがうちの隊長の持論でね。私もなるほどなあとは思ってるんだけどね」

「生態系?」

 誠はモニターに目をやるアメリアを眺めつつ、嵯峨に持論なんてあるのかと首をひねっていた。

「そう。一人ひとりが関係しあってこそ存在することが許される微妙なバランスの上にある存在。そんな感じかしら?上位者も下位者も一人として欠けたら崩れてしまうようなもろい存在……」

 アメリアはそう言うとキーボードを打つ手を止めて誠を見つめた。

「でも、一人ひとりがばらばらに戦うよりははるかに強い存在になる。それが組織」
 強い口調でそう言うアメリアに誠は静かに頷くことで答えた。

「組織……」

 誠の言葉の繰り返しにアメリアは静かに頷くいた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

特殊装甲隊 ダグフェロン『廃帝と永遠の世紀末』 遼州の闇

橋本 直
SF
出会ってはいけない、『世界』が、出会ってしまった これは悲しい『出会い』の物語 必殺技はあるが徹底的な『胃弱』系駄目ロボットパイロットの新社会人生活(体育会系・縦社会)が始まる! ミリタリー・ガンマニアにはたまらない『コアな兵器ネタ』満載! 登場人物 気弱で胃弱で大柄左利きの主人公 愛銃:グロックG44 見た目と年齢が一致しない『ずるい大人の代表』の隊長 愛銃:VZ52 『偉大なる中佐殿』と呼ばれるかっこかわいい『体育会系無敵幼女』 愛銃:PSMピストル 明らかに主人公を『支配』しようとする邪悪な『女王様』な女サイボーグ 愛銃:スプリングフィールドXDM40 『パチンコ依存症』な美しい小隊長 愛銃:アストラM903【モーゼルM712のスペイン製コピー】 でかい糸目の『女芸人』の艦長 愛銃:H&K P7M13 『伝説の馬鹿なヤンキー』の整備班長 愛する武器:釘バット 理系脳の多趣味で気弱な若者が、どう考えても罠としか思えない課程を経てパイロットをさせられた。 そんな彼の配属されたのは司法局と呼ばれる武装警察風味の「特殊な部隊」だった そこで『作業員』や『営業マン』としての『体育会系』のしごきに耐える主人公 そこで与えられたのは専用人型兵器『アサルト・モジュール』だったがその『役割』を聞いて主人公は社会への怨嗟の声を上げる 05式乙型 それは回収補給能力に特化した『戦闘での活躍が不可能な』機体だったのだ そこで、犯罪者一歩手前の『体育会系縦社会人間達』と生活して、彼らを理解することで若者は成長していく。 そして彼はある事件をきっかけに強力な力に目覚めた。 それはあってはならない強すぎる力だった その力の発動が宇宙のすべての人々を巻き込む戦いへと青年を導くことになる。 コアネタギャグ連発のサイキック『回収・補給』ロボットギャグアクションストーリー。

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【改訂版】特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第一部 『特殊な部隊始まる』

橋本 直
SF
青年は出会いを通じて真の『男』へと成長する 『特殊な部隊』への配属を運命づけられた青年の驚きと葛藤の物語 登場人物 気弱で胃弱で大柄左利きの主人公 愛銃:グロックG44 見た目と年齢が一致しない『ずるい大人の代表』の隊長 愛銃:VZ52 『偉大なる中佐殿』と呼ばれるかっこかわいい『体育会系無敵幼女』 愛銃:PSMピストル 明らかに主人公を『支配』しようとする邪悪な『女王様』な女サイボーグ 愛銃:スプリングフィールドXDM40 『パチンコ依存症』な美しい小隊長 愛銃:アストラM903【モーゼルM712のスペイン製コピー】 でかい糸目の『女芸人』の艦長 愛銃:H&K P7M13 『伝説の馬鹿なヤンキー』の整備班長 愛する武器:釘バット 理系脳の多趣味で気弱な若者が、どう考えても罠としか思えない課程を経てパイロットをさせられた。 そんな彼の配属されたのは司法局と呼ばれる武装警察風味の『特殊な部隊』だった しかも、そこにこれまで配属になった5人の先輩はすべて一週間で尻尾を撒いて逃げ帰ったという そんな『濃い』部隊で主人公は生き延びることができるか? SFドタバタコメディーアクション

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

処理中です...