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第六章 駄目な人々

第34話 大人達の会話

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「やっぱ、あいつ大丈夫かね?アイツの『才能』ってことに食いつかなかったけど……まあうちは『ツッコミ』がいないからな……ボケが飽和して困ってるから呼んだなんてボケをかましてやっても良かったんだが」

 嵯峨はそれとなくランにつぶやいた。

「まーあんなもんだろ、最近の若いのなんて。まあ何か馬鹿をやったらそん時は考えねーとな……『泣いて馬謖ばしょくを斬る』って言葉もあるくれーだ。アイツが思い込みで突っ走ったら斬ればいい。部屋にはアタシの愛刀『関の孫六』がある。久しぶりに使うのも悪かねー」

 ランは余裕のある笑みを嵯峨に返した。

「でもさあ……『泣いて馬謖を斬る』って本当に斬ることないじゃないと思うよ」

 そう言いながら嵯峨は扇子で顔をあおぎながらほほ笑んだ。

「そんなぬるい世の中だから戦争ばっかなんだよ。失敗したらちゃんと責任を取るような理想的な世の中をアタシは実現したいんだ……アタシもそいつの上司として喜んで『自害』でもなんでもするつもりだ……いい上司だろ?部下に『切腹』させたら、ちゃんとそいつの首を斬り落とした後、辞世の句を詠んで『自刃』する上司……なかなかいねーぞ」

 冗談なのか何なのかよくわからないギャグをランが口にした。

「そりゃまあな。地球人は普通は『切腹』したら死ぬから。まあ、遼州ジョークはそれくらいにしてと……」

 嵯峨はランの物騒な思想に苦笑いを浮かべた。

「別に俺は、俺やランのように、神前に人を斬らせたいわけじゃない。まあ、お前さんが本当に腹を切らせない程度にいびるのは職権でみとめるけど、アイツには『人殺し』を職業にしてほしくないんだよ俺やお前さんみたいな『人殺し』にはなって欲しくない」

「軍人は人を殺すのが仕事だ。アイツも入ったのは『東和宇宙軍』だかんな。そのくらいの覚悟はしてんだろ?」

 ランは感情を殺したような表情でそう言い切った。

「軍人って言っても地球人のそれと、俺達、遼州人のそれは意味が違うって……まあまだ誰もそこには言及しようとしてはいないけどね」

 思わせぶりにそう言った嵯峨の口元には不気味な笑みが浮かんでいた。

「そーだな。今のところは」

 ランも口にはしないが何かを知った感じで嵯峨の言葉に答えた。

「神前についてはね、遼州人としては避けて通れない『力』の使い道を教えてくれ……そうアイツのお袋さんに頼まれた。だから、俺の手の届くところで導くだけなんだ」

 嵯峨はそう言うとくるりと椅子を戻してランの正面を向いた。

「いーのかい?地球人の『力』とは違って、アタシ達遼州人の『力』は……『殺戮者』の『力』にもなる。神前にもその『力』は眠ってんだ。奴にアタシの『不殺不傷』を教えんのは……難しーぞ。神前はまだ弱っちーからな」

 そう言って不敵な笑みを浮かべるランに嵯峨は頭を下げ、空いた左手で祈るような仕草をした。


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