23 / 211
第四章 『特殊な部隊』へと向かう
第23話 遠方の基地
しおりを挟む
「豊川ですか?あそこって……住宅街しかないじゃないですか?そんなところに基地なんて……」
車は都心を出る直前だった。車の窓の外に中央環状線の外側に林立する超高層ビルを眺めながら誠はそう言った。
「まあ、国鉄と私鉄。それで一時間前後。いーベットタウンで、開発が進んでるのは事実だがよー。あそこにゃあ、菱川重工の工場があってな」
独り言のように静かにランはつぶやいた。
「菱川重工……東和では航空機や宇宙船建造の四大メーカーですよね」
今のところ話は世間話のようなので、誠は相変わらず外の雑居ビルばかりが並ぶ、国道の沿道を眺めていた。
「まーな。あれだぜ、あそこ、シュトルム・パンツァーも作っててね。先月、採用が決定した東和海軍向けの水中対応型局地シュトルム・パンツァーの『海―07式』を開発したのがあそこだ。アタシも海軍の知り合いに呼ばれて、テストに何回か立ち会ったが……悪い機体じゃ無かったぞ、あれはあれで……」
ランはそう言いうとまた黙り込んだ。
また時間が流れ、誠は窓の外のビルの大きさが次第に小さくなっていく様を眺めていた。
「話は戻るが、行先は豊川。菱川重工豊川工場だ」
今度はランが沈黙に耐えかねてそう言った。
「菱川重工豊川工場……工場に基地……?」
さすがに話が気になってきた誠は車を運転するランの後ろ姿に目を向けた。
「菱川重工豊川……知ってんだろ?オメー野球やってたらしいじゃねーか。そっちのほうじゃ……」
ランは運転を続けながらそう言った。
「知ってますよ、菱川重工豊川。社会人野球の名門じゃないですか。都市対抗優勝43回、東和社会人野球大会優勝25回。毎年のようにプロに選手を送り込んでいた東東和のの古豪ですから。最近は……野球の話はあんまり話は聞かないですけど」
野球経験者なので、誠も当然その程度の知識があった。誠が子供のころはよく話が出た強豪チーム。プロ野球選手を次々と輩出した名門野球チームを持つ重工業工場それが菱川重工豊川だった。
「なるほどねえ……最近は活躍がいまいち……まあそんなもんだろうよ」
少し皮肉めいた口調でランはそう言った。
「クバルカ中佐、野球は?」
「まあ……社会常識程度……そんなもんだ」
少し笑みを浮かべながらランはそう言った。
再び沈黙が流れる。
「さっき、アタシが言ったのは、今の菱川重工の豊川工場ってのがな……」
赤信号で車を停めたランはそう言って一度誠に向け振り返り、再び前を向いた。
「今の豊川工場?」
ランの言葉に単純に疑問に思った誠はそう返す。
「ああ、あそこはな、四百年前のここ東和の建国の際に国策で発足した『豊川砲兵工廠』が元になってる工場だ。そいつが菱川に払い下げられて、まあ……今に至ってるわけだが……」
信号が変わる。ランは静かに車を発進させる。
「まあ、要は古い工場なんだわ。そもそも、内陸部にあんな馬鹿でかい敷地持っててなんの意味があるんだよ。主要取扱品の製造は今じゃ臨海部の新設工場に移転済み。まあ、古いって言っても持ってる設備を遊ばせとくってのもなんだから、まあ……今のあそこの主力はでかい金属の下処理だな……他にも色々あるらしいが……まあたまにあそこの工場の偉いさんの接待とかで飲んだ席で、連中自慢気に話すんだが……アタシ、そう言うの興味ねーから」
ランはそこまで言うと大きくため息をつき、ハンドルを握りなおす。
「まあ、工場としては終わってるわけだ。遊休地もたんまりある……てんで、アタシ等」
誠はランの表情をうかがおうとバックミラーを見た。
「アタシ等の部隊は、その菱川重工豊川工場の敷地の中にあるんだわ。まー広さは結構なもんで……あんだけでけー場所、ほっぽっとくなんて、潰れるんじゃねーの?菱川グループ」
あっさりとそう言う誠に誠はただ呆れるだけだった。
「あと付け足しとくと、シュトルム・パンツァーの開発とかもやってる。まあそれも遠からず他の新鋭設備のある所に移るだろうな……菱川の連中も無能じゃねーだろうから」
再び車が停まる。
「渋滞だ……畜生!」
ランのいら立つような言葉。ただ、その言葉は誠には届かなかった。
「豊川……」
誠はまだ見ぬ新たな土地の名前をかみしめるように口にした。
車は都心を出る直前だった。車の窓の外に中央環状線の外側に林立する超高層ビルを眺めながら誠はそう言った。
「まあ、国鉄と私鉄。それで一時間前後。いーベットタウンで、開発が進んでるのは事実だがよー。あそこにゃあ、菱川重工の工場があってな」
独り言のように静かにランはつぶやいた。
「菱川重工……東和では航空機や宇宙船建造の四大メーカーですよね」
今のところ話は世間話のようなので、誠は相変わらず外の雑居ビルばかりが並ぶ、国道の沿道を眺めていた。
「まーな。あれだぜ、あそこ、シュトルム・パンツァーも作っててね。先月、採用が決定した東和海軍向けの水中対応型局地シュトルム・パンツァーの『海―07式』を開発したのがあそこだ。アタシも海軍の知り合いに呼ばれて、テストに何回か立ち会ったが……悪い機体じゃ無かったぞ、あれはあれで……」
ランはそう言いうとまた黙り込んだ。
また時間が流れ、誠は窓の外のビルの大きさが次第に小さくなっていく様を眺めていた。
「話は戻るが、行先は豊川。菱川重工豊川工場だ」
今度はランが沈黙に耐えかねてそう言った。
「菱川重工豊川工場……工場に基地……?」
さすがに話が気になってきた誠は車を運転するランの後ろ姿に目を向けた。
「菱川重工豊川……知ってんだろ?オメー野球やってたらしいじゃねーか。そっちのほうじゃ……」
ランは運転を続けながらそう言った。
「知ってますよ、菱川重工豊川。社会人野球の名門じゃないですか。都市対抗優勝43回、東和社会人野球大会優勝25回。毎年のようにプロに選手を送り込んでいた東東和のの古豪ですから。最近は……野球の話はあんまり話は聞かないですけど」
野球経験者なので、誠も当然その程度の知識があった。誠が子供のころはよく話が出た強豪チーム。プロ野球選手を次々と輩出した名門野球チームを持つ重工業工場それが菱川重工豊川だった。
「なるほどねえ……最近は活躍がいまいち……まあそんなもんだろうよ」
少し皮肉めいた口調でランはそう言った。
「クバルカ中佐、野球は?」
「まあ……社会常識程度……そんなもんだ」
少し笑みを浮かべながらランはそう言った。
再び沈黙が流れる。
「さっき、アタシが言ったのは、今の菱川重工の豊川工場ってのがな……」
赤信号で車を停めたランはそう言って一度誠に向け振り返り、再び前を向いた。
「今の豊川工場?」
ランの言葉に単純に疑問に思った誠はそう返す。
「ああ、あそこはな、四百年前のここ東和の建国の際に国策で発足した『豊川砲兵工廠』が元になってる工場だ。そいつが菱川に払い下げられて、まあ……今に至ってるわけだが……」
信号が変わる。ランは静かに車を発進させる。
「まあ、要は古い工場なんだわ。そもそも、内陸部にあんな馬鹿でかい敷地持っててなんの意味があるんだよ。主要取扱品の製造は今じゃ臨海部の新設工場に移転済み。まあ、古いって言っても持ってる設備を遊ばせとくってのもなんだから、まあ……今のあそこの主力はでかい金属の下処理だな……他にも色々あるらしいが……まあたまにあそこの工場の偉いさんの接待とかで飲んだ席で、連中自慢気に話すんだが……アタシ、そう言うの興味ねーから」
ランはそこまで言うと大きくため息をつき、ハンドルを握りなおす。
「まあ、工場としては終わってるわけだ。遊休地もたんまりある……てんで、アタシ等」
誠はランの表情をうかがおうとバックミラーを見た。
「アタシ等の部隊は、その菱川重工豊川工場の敷地の中にあるんだわ。まー広さは結構なもんで……あんだけでけー場所、ほっぽっとくなんて、潰れるんじゃねーの?菱川グループ」
あっさりとそう言う誠に誠はただ呆れるだけだった。
「あと付け足しとくと、シュトルム・パンツァーの開発とかもやってる。まあそれも遠からず他の新鋭設備のある所に移るだろうな……菱川の連中も無能じゃねーだろうから」
再び車が停まる。
「渋滞だ……畜生!」
ランのいら立つような言葉。ただ、その言葉は誠には届かなかった。
「豊川……」
誠はまだ見ぬ新たな土地の名前をかみしめるように口にした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第二部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。
宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。
そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。
どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。
そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。
しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。
この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。
これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。
そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。
そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。
SFお仕事ギャグロマン小説。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第三部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。
一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。
その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。
この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。
そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。
『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。
誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる